第359話 御都合主義でした
『ジュンサマ!ゴォォン!』
……俺の出番、なのは良い。しかし、実際問題どう倒すか、だ。
魔神の周辺に奪えるエネルギーがある限り再生し続ける能力。
俺達から奪わないとこを考えるに何かしらの条件があるんだろうか。
……このまま考えてても埒が明かない、か。
「じゃ、次は俺の——」
「ウチの出番よね」
アイ、お前もか。アイが強いのは知ってるが……
「却下」
「腕が鳴る……え。なんで」
何でも何も。あの魔神はアイとは相性が悪い。
アイは格闘技が主。あの巨体には効果が薄い。
次に女神フレイヤ様からもらった植物を操る能力。これが最悪。
あの魔神には餌でしか無い。
という事を説明したのだが。
「チッチッチッ。ウチを舐めてもらっちゃあ困るよ、ジュン。ウチだって見てたんだからアイツが周りの植物から生命エネルギーを奪ってる事くらい気が付いてたよん」
『生命エネルギーを奪う?そう言えば儂もヤツの腕に掴まれた時、ゴッソリと何かを持って行かれたような……』
『あ、それ、あーしも。嫌な感じがして直ぐに振り解いたけど、タップリ何かを持ってかれちゃった。そっか、だから怪我が治ってもイマイチ調子出ないんだ』
……掴まれたら、か。つまり、直接触れる事がエナジードレインの条件か。いや、地面に生えてる雑草なんかは兎も角、あの辺りの木に触れた様子なんか無かった筈だが。
『それは多分、根っ子やな。あの魔神、巨体なだけあってかなり重そうやし、動くたびに地面に深い足跡が出来とる。その時に木の根っことかに触れたんとちゃうか』
魔神の身体に触れていたら足裏だろうと手だろうとアウトって事か……いや、それならソフィアさんが魔神の頭に登った時に吸われてそうなもんだが。
『それは……素肌に触れてなかったから?確証は無いけど、そんなとこやろ』
なるほど。一応はエナジードレインの説明はついたな。
となれば……
「アイ、やるなら俺と一緒に、だ。それとあいつに素肌で触れないように。素肌であいつに触れる、がエナジードレインの条件である可能性が高いからな」
「りょーかい。その対策もバッチリあるよん。じゃ、ウチとジュンの愛の力で!勝利といこっか!愛の力で!」
「……アイだけに、てか?」
『余裕じゃのう……』
『しょ~もない事言ってないで、とぅとと倒して来なさいよ。くれぐれもそこのオマヌケさんみたいな事すんじゃないわよ』
「うう……私の威厳が……あ、あたたたた!」
……ソフィアさんの威厳、地に墜ちてそうだなぁ。会場で映像中継されてるらしいから。
「俺は右、アイは左。常に俺の対角線上にいるように」
「うん。まったく心配性なんだから、ジュンてば」
……スクリーンの外に出れば魔神は俺に集中する筈。俺の近くに居なければアイは安全の筈だ。
「カウントダウンで行くぞ。3、2、1、0!」
「GO!」
ヤツに直接触れる事は厳禁、アイは接近戦だろうし俺は中距離から魔法で戦うか。
範囲が大きい魔法はアイも巻き込んでしまうから……此処は!
「ロックバレット!連射だぁ!」
『ジュンサマ!ゴォォォ!』
外に出た俺を掴もうと伸ばした腕に向けて岩の弾丸を連射。まだ周辺に植物はあるのですぐに再生される、が。
ソフィアさんの剣による斬撃と違い、ロックバレットでは魔神の腕は粉々に吹き飛ぶ。斬れた部分だけを繋げるのと違い、粉々にした方が再生に時間は掛かるようだ。
それでも数秒の違いでしかないが一瞬だったのが数秒掛かるようになった。それだけでも大きな違いの筈だ。
『時間は掛かりそうやけどな。このままマスターが囮になって削るんがええやろ』
そうだな……何か、こう……一気にケリがつけれる手段があればいいんだが。デウス・エクス・マキナが使えればな……ところでアイは?
「ほぉ~……あ~たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!ほぉ~~~あたぁ!お前はもう、死んでいる」
……さっきソフィアさんに言ったネタの続きか。今日はそっち路線なのね。見た目は別漫画の技を使ってる感じなんだが。
『何言ってるんじゃ、あのお嬢ちゃんは』
『どう見てもまだ生きてる……なんか弾け飛んだわよ!?』
アイは魔神の右足を攻撃していたのだが。いつもの光る拳……闘気?を宿した拳で攻撃。魔神の足は内部から爆発したかのように弾けた。
まるで一子相伝の暗殺拳で秘孔を突かれたかのよう……え、マジであの暗殺拳を使えるの?
『んなわけあるかいな。アレは闘気を相手の体内に打撃と共に浸透させて内部から爆発するって技やな』
見た目だけ真似て実際は別物ってわけか……つくづく漫画の世界で生きてるようなヤツ。
『マスターは人の事言えんやん。エロゲーの世界で生きとるくせに』
お黙り!
『しかしまぁ、再現はしとる言うても本当に死んでるわけやないな。並みの生物なら死ぬんやけど。わいはゴーレムと偵察機の管理で忙しいからマスターが手数増やすしかないで』
わぁってるよ。手数を増やす……ならばこれだ。
「ロックバレット!ア~ンド、ファイアバレット!同時連射!」
別々の属性魔法を同時使用、所謂ダブルキャストとか二重詠唱とか言われる超高等技術!
「やるじゃんジュン!ウチも負けてらんないね!いっくぞぉ~!」
アイの拳に宿った光が大きくなり、それが大きな拳のような形に変わった。今度はその光の拳で殴ろうってか。
『ジュンサマ!ジュンサマ!アナタヲ、オウニ!ゴォォォォ!』
俺とアイ、前後に挟まれ攻撃されているというのに魔神は俺に手を伸ばすだけ。俺はその手を躱しつつ魔法を撃つだけ。アイは魔神に触れないようにしながら攻撃するだけ。その簡単な作業の繰り返し……なのだが。
「あ~もう!一体いつまでやればいいの!どんだけ再生し続けんのよ、こいつ!」
俺とアイが攻撃を始めて五分。たった五分ではあるが一向に再生が止まらない。周辺の植物なんかはもう吸いつくされた物しか見えないのが。何か別の物からも吸っているのか?
『もしかしたら……地中に居る微生物なんかからも吸っとるんかもな。虫なんかも居るやろし大地そのものからエナジードレインしてるんかも。もしかしたらここら一帯が微生物すらおらん死の大地になるまで再生は止まらんのかもしれんな。なんせ暴走状態やからな。魔神に歯止めなんて無いし、限界も無いんかも』
それって荒地になるって事か……それか砂漠化か。どっちにしろろくな事にならないのは明白。大地に触れてるだけでいいなら何処までも吸えそうな気もするし……それだと王都ガリア周辺だけで済まないかも。
何かアイディアは無いか、相棒。
『そやなぁ……大地に触れさせんかったらええんちゃう?アイツ、飛べたりせぇへんのかな』
……俺が空に飛べば魔神も飛ぶかもってか。やってみるか!
「アイ!俺は飛ぶからな!」
「オッケー!ウチも飛べるようになったからモーマンタイ!」
で。飛んではみたものの。流石にあの巨体が飛ぶ事は無い――
『ゴォォ!デビルウィングゥゥゥ!』
……魔神よ、お前もか。エスカロンの記憶かカルボウの記憶かはわからんが。まさかエスカロンも転生者だったなんてオチは無いだろうな。
「良かったな、アイ。同類みたいだぞ」
「……なんか嬉しくないし同類じゃないと思う!もういいからやっちゃおうよ!」
舞台を上空に移しての第2ラウンド。
此処なら少なくとも見える範囲に生物はいないが………
「ロックバレット!ファイアバレット!」
「あ~たたたたたたたたたたたた!」
『ゴ、ゴォォォ!』
再生しない……な?
『どうやらそうみたいやな。再生はエナジードレイン出来へんと無理なんやろ。となれば、や』
ああ。遠慮なく魔法を連射…………あ。
『なんや?どうし……あ』
やべえええええ!魔力が底をつく!もう飛行魔法を維持するだけの魔力しか残っとらん!
「ジュン!どしたの!魔法は?」
「魔力が切れた!もう魔法で攻撃は出来ない!」
「げ!マジ?ならウチがっ……って、うわわ!」
俺とアイの会話を聞いて反応したのか本能か。アイに対して鳥型ミサイルを連射。アイは回避に専念。
このままだと飛行魔法の維持が出来ずに地面に降りる事になる。そうなると魔神の再生能力が戻る。
それだと俺達の負けが濃厚になる……どうする。どうすれば――
『兎に角魔法薬を飲んで魔力の回復――おお!ナイスタイミング!』
なんだ?何が――これは!
『ミョルニルや!ヘパイストス様に苦情が届いたんやろな!こっちの様子見て大急ぎでミョルニルに必要なパーツを仕上げてくれたんや!勿論ミョルニルもパワーアップしとるで!』
人、それを御都合主義と言う!
「だが構わん!ミョルニル!最大展開!」
リヴァのひいじい様、ドラゴンゾンビを一撃で仕留めたミョルニルの最大展開モードの必殺技!あの時よりもパワーアップしたのなら!
「これで終われよ!トールハンマー!」
『ゴ!ゴォォォォォォォォ……!』
未だ暴走したまま俺に向かい飛んで来る魔神は自らぶつかる形でトールハンマーと激突。
結果は――
『ゴォ……ジュンサ、マ……ジュ……』
俺の勝ち、だ。




