第355話 英雄でした
『ゴォォ!ジュンサマ!ジュンサマ!ゴォォン!』
……ゴーレム、いやカルボウの声がエスカロンの声に似ている。
それに肉声のようであり機械音声のようでもあり。
ファフニール様はこいつが魔神だと言った。リヴァはどっちの魔神なのかはわからない、と。
カルボウの顔はエスカロン。しかし、顔以外はカルボウのまま。
『ゴォォ!ジュンサマ!』
「ちょっ、ジュン!」
「ジュン君!逃げるか避けるかしないと!」
こちらに向かって近付き手を伸ばすナニカ。その動きは非常に滑らか。まるで生物のよう。見た目は無機質なゴーレムのようなのに。
「ジュンてば!」
……取り敢えず、メーティス!
『はいな。スクリーン、最大展開するで。マスターはファフニールとリヴァを治したりぃや』
展開されたスクリーンに触れた腕は吹き飛ば……ないな。スクリーンをこじ開けようと両手で触れているのに。
犬神は腕が吹き飛んだが、こいつは指先から血が流れるに留まっ……血が流れる?
アレは本当に生物なのか?魔神になって生物に……村正宗と同じか。
ならアレは巨人とでも呼ぶべきか。
『ぐっ……助かったぞ、御同輩』
『ありがと……これでまた戦える。次はあーしが勝つ!』
「待った。もっと状況を詳しく。アレが魔神なのは確か?どっちが魔神になったのかは本当にわからない?」
『わからん。じゃがアレが魔神なのは確かじゃ』
『多分、お互いに喰らいあったんだと思う。どっちが勝ったのかはわかんない』
喰らいあった……カルボウには感情が無い、つまりは自我が無いんだと思っていたが。エスカロンは知らなかっただけで実は自我があったとか?
『ゴォォン!ゴォォン!ジュンサマ!ジュンサマ!』
……スクリーンを殴りつけ始めた。その度に血が舞ってるが御構い無しだ。
とても知性のある行動とは思えない。痛みは感じないのか?
『どうやろうな。痛覚の有る無しはわからんけど、アンラ・マンユ並の再生能力はあるみたいやで。いや、アンラ・マンユ以上やな』
……ほんとだ。血飛沫でよく見えなかったが、どうやら殴りつけた拳は吹き飛んでは直ぐに再生してるらしい。
あの巨体の拳が。拳だけで小さな家くらいはありそうな大きさなのに、それが一瞬で。
『ゴォォン!ジュンサマ!』
「うあっ……グロっ」
一歩後ろにさがった巨人は腕をこちらに向けて……腕を飛ばし、直ぐにスクリーンに接触、弾けた。
腕は直ぐに再生されたが生身の腕をロケットパンチにすると血と骨まで見えてしまう。巨体だから尚の事。
『ジュンサマ!ゴォォ!』
一度やって無駄だとわかった筈なのに。それでもロケットパンチを飛ばして来る。
やはり知性が……少なくとも理性は感じない。
『せやな。エネルギーもガンガン消費しとる。このままスクリーン内に閉じ籠もってるだけで勝てるんちゃう?』
それは楽で良いな……俺Tueeeeeが出来ないが。
で、メーティス。どう見る。
『せやなぁ。マスターも何となくわかっとるんやろけど。暴走してるんやろ、アレ』
……だよなぁ。怠惰の魔神なのか強欲の魔神なのかはわからん。
だけどアレは確かに魔神でエスカロンとカルボウが喰らいあった結果なんだろう。
しかし、何故暴走する?それに魔神になったと言っても……なんと言うか、半端な姿に思えるし。
『それはやなぁ……多分やけど村正宗がレイに言ってたこと、覚えとる?』
……最後の種明かしの内容か?
『せや。魔王は同格。同格のまま喰いあえばどちらが勝つかわからない、とか言うてたやろ』
つまりアレは同格のまま喰いあった結果の、どちらとも言えない魔神と言う事か。
『多分カルボウから仕掛けた喰い合いやろ。村正宗はそれを予見してた……いや知ってたんかな。そんなこと言うとったし。村正宗はカルボウが勝って強欲の魔神になると予想しとったみたいやけど。エスカロンがかなり頑張ったんとちゃうか』
……その結果がアレ、か。俺に執着を見せる辺り、確かにエスカロンの意識が残ってるみたいだが……哀れだな。
「……ジュン、どうすんの?このままこうしてるだけで良いの?ウチ、それで終わるとは思えないんだけど」
「私も……アレがエスカロンとカルボウの成れの果てなのは何となくわかるけれど……気をつけて!何かするつもりよ!」
これは……魔法か!最上位火魔法ヘルフレア!
『魔法じゃと!?さっきまで魔法なんぞ使っとらんかったぞ!』
『しかも超凄な魔法なんですけど!直撃したらあーしでもヤバそう!』
それでもスクリーンは突破出来ない……が。スクリーン周辺の地面は焼け焦げガラス化、岩は溶けている。
凄まじい威力……カルボウがこの世界の魔法を使えたとは思えないから、これはエスカロンの能力か。
魔王になる前から使えたのかはわからないが、優秀な魔法使いだったらしい。
『ゴォォン!ゴォォン!ジュンサマ!』
「改めて聞くけど……このままなのはマズいんじゃない?早く仕留めないと周りにどんな被害が出るかわかんないよ」
「殿下先生の仰る通り。此処は街からそう離れていませんし」
確かに。今は俺に執着してるけど暴走している以上、街に攻撃しないとも限らないか……
「リヴァ、アレ使える?」
『アレって……あーしの世界?だったら無理かも……一度使っちゃったし、中での戦闘で結構消耗しちゃったし……』
ダメか……仕方ない。俺が戦うからメーティスは周りの被害を―—
「じゃあ手早く倒すしかないね。皆でやれば——」
「いえ、殿下先生。此処は私にお任せ下さい」
「へ?」
私にお任せ下さいって……ソフィアさん一人で戦うと?
そりゃいくらなんでも無茶が過ぎる。
「何か言いたそうな眼をしてるけれど。ジュン君だけは人の事言えないからね?」
『まぁ、そやな。はたから見れば無茶してるんはマスターやな』
……内から見てるお前が言うな。
「い、いや……いやいや。確かにジュンに言えた事じゃないだろうけどさ。レーンベルク団長が一人で戦うのは無謀だと、ウチだって思うよ」
「ご安心を。私にもギフトがあります。一対一の戦いならまず負けないと胸を張って言えるギフトが。ただ強敵相手だと使った後は暫くまともに動けなくなるのですが……」
……此処が使い所だと?魔神相手に勝つ自信があるのか。
「そんな心配そうな顔しないで。いい?私はアインハルト王国最強の騎士団、白薔薇騎士団の団長。つまり私がアインハルト王国最強の騎士なの。最強騎士の力……見せてあげるわ」
おお……凄い自信。流石は戦争の英雄……そう言えば未だにソフィアさんの全力は見た事ないな。それにギフトも知らないし。
本当に勝てる、のか?
「……危ないと感じたら即座に割って入りますからね」
「それで良いわ。ジュン君の出番は無いと思うけれど……あの結界、何処か一部だけ開けるとか出来るかしら?外に出たいのだけれど」
……メーティス?
『出来るで。左側を開けるわ』
スクリーンの左側、そこに人が一人通れるくらいの隙間が開く。
巨人は魔法を止めて再び拳で殴りつけてる。隙間が開いた事には気が付いた様子は無い。
「それじゃ倒して来るわね。王国に帰ったら結婚式の相談しましょ」
……それ、死亡フラグじゃないよな。
『まぁ、この距離なら直ぐに割って入れるし、大丈夫やろ。でもマスター、ええのん?俺Tueeeeeのチャンスやん』
まぁ、そうなんだけどな……ソフィアさんも俺にいいとこ見せたいみたいだし。
ソフィアさんのギフトの力を見たいのも確か。
仕方ないから此処は譲って——
『でもやでマスター。カルボウとの戦闘、中継されとるで』
………………中継?
『偵察機で会場の様子見てるんやけどな。ほら、会場でカルボウの映像見たやん。アレ、リアルタイムでの映像やったみたいで。今、会場でアニエスやらが見とるわ。絶好の俺Tueeeeeチャンスやと思うんやけど』
……なーぜそれを先に言わん!
「ちょっ、ソフィアさん!カムバック!お願い代わって!」




