第352話 やり直すのでした
「ベルナデッタ殿下……救うとは?」
「あの人の魂は、まだ此処にあるから」
「それって……あの男ですか?」
レイさんを救える?でもレイさんはもう……
『……マスター、それは早計かもしれんわ。マイケルの最期、思い出してみ』
……そうだ、マイケルはアンラ・マンユが死んだ後に——
「まさか、ひょっとして」
「ジュン君?」
村正宗の死体……塵の山を崩す。中から出てきたのは……レイさんの生首だ。
「レイさん……」
「まさか……その状態からの蘇生が可能だと?」
治癒魔法では不可能だ。世界最高クラスの俺の魔法でも不可能。
そもそも……
「形は残ってはいますが……既に死んでいます。普通の魔法では蘇生不可能です」
「……それを、ベルナデッタ殿下なら可能なのですか?」
そう、ベルナデッタ殿下の治癒は時間の逆行。魂はまだ此処にあると言うなら——
「ううん、足りない」
「足りない?ベル、何が足りないの?」
「この人の肉体。この人を形作る、魂の器が足りないの」
……つまり?どういう事かと言えば?
『要はレイを救うにはレイの肉体が必要やっちゅう事やろ。何をどうするんかは不明やけど、大事なんはそこや』
レイさんの肉体……でも塵の中にはもう何も……
「よくわかんないけど、腕ならアソコに落ちてるけど」
腕って……斬り落としたレイさんの右腕!
「ナイス!レッドフィールド団長ナイス!レオナちゃんに頭ナデナデしてもらってください!」
「……だってさ、レオナちゃん」
「だからレオナちゃん言うな!」
まさか斬り落とした右腕がレイさんを救う鍵になるとは……うっ、冷えた右腕って酷い感触……夢に出そう……言うなればこれも死体だもんな……
「べ、ベルナデッタ殿下……これでどうでしょうか」
「……多分、大丈夫」
いける、のか……レイさんが生き返る?
「……そうだ!院長先生!レイさんが生き返る!早くこっちへ!」
「……へ?は!?おい、マチルダ!」
「ジュン君がなんかとんでもない事叫んでるわよ!」
「……」
「……レイが?」
泣き崩れてた院長先生をステラさん達が慰めてたので、こちらの話は聞いてなかったらしい。
「な、なんかよくわかんねーけど……なんか凄い事が起きそうな……」
「なんか凄い光ってるよ!?」
「眩し」
「わふん」
眩しいのは俺もだから怒らないが。俺を盾にするんじゃない。
ベルナデッタ殿下はレイさんの遺体の前で祈り始め。
直ぐに光が場を満たした。
時間の逆行によって身体を元に戻すのとはまた違うようだが……
「光が……治まって来た?」
「ベルナデッタ殿下は一体何を……レーンベルク団長は説明出来るのか?」
「……私にもよくわからないわ」
……時の大精霊の力で時間を巻き戻してるんだと思うが……それだけで何とかなるのか?メーティス、わかるか。
『ならへんな。でもベルナデッタがやっとるんわ……巻き戻しと再構築?いや、再生か?こんなん出来るなんて……聖女、いや時の大精霊って何なんや……』
……メーティス?
『あ、ああ……わいにわかるんはベルナデッタはただ時間の巻き戻しをしてるだけやないって事や。レイの肉体を胎児よりも前に巻き戻し再構築、肉体を作り直してるって事や』
肉体の作り直し?何故、そんな事を。治癒魔法でも欠損部位の再生は出来るんだぞ。
『再生出来へん理由はわからへんわ。多分、魔王の力が関係しとるんやろうけど……いや肉体が完全に死んでるからかもな』
……肉体が完全に死んでいる、か。そう言えばゾンビに回復魔法をかけても肉体は再生されないもんな。
『せやな。お、終わったみたいやで』
光が治まって、そこに居たのは……赤子?いや、2歳くらいの幼児だ。何処となく院長先生に似た子供がそこで寝息を立てて……いやいやいや!
「べ、ベルナデッタ殿下?もしかしてこの子は」
「うん……あの人、レイさん……」
「「「「「「ええええええ」」」」」」
な、えええ?わ、若返ってますやん!時の大精霊って若返りとか出来たの!?
『まぁ出来るやろな。時間の巻き戻しで怪我とか無かった事に出来るんやから』
あ。そこは予想してたのね……しかし、これって知られたらヤバい事になるのでは。
『なるやろな。でも多分、魂……精神も巻き戻ってるから記憶も戻ってるで』
……それでも望む人は望むだろうな。ベルナデッタ殿下が聖女だってのは引き続き秘密にするのがよさそうだ。
いや、それを考えるよりも先に、だ。
「院長先生!レイさんですよ!ほら!」
「……レイ?本当に……」
「これは……若返ったというの?命が助かった代償に?でも、そんな……」
「見た所、一歳か二歳くらいか。丁度誘拐された時と同じくら――ごっふ!?何をするドミニー!」
「……」
ステラさん、今その話題を出すのは少々無神経かなと思う……院長先生はまだ現実を受け止めきれていないのだから。
見るからに戸惑っていて状況を理解しきれていない。
「……あ、あの、ベルナデッタ殿下……本当に、この子は……レイ、なのですか」
「うん……ごめんね。私の力じゃ、完全に元に戻、せな……」
「ベル!?」
「おっと」
凄い汗だ。どうやら魔力と体力を消耗しすぎたらしい。眩暈がして立っていられないようだ。
「ベル、大丈夫?」
「うん……少し休んだら歩けるよ。でもさっきと同じ事は暫く出来ないかな……」
つまり、もう誰も死ねない、と。しかし、十分だ。完全に救えたとは言えないかもしれないけど、十分だ。
「感謝申し上げます、ベルナデッタ殿下。院長先生、ほら」
「え、ええ……ありがとうございます、ベルナデッタ殿下……ああ、レイ……」
地面に横たわってるレイさ……レイを抱き上げ、院長先生へ。軽いな……二歳児ってこんなもんなのか?
『どれどれ……体重は約10kg。平均的な二歳児の体重やな。問題は無さそうやで。健全な身体やで』
それは良かった。若返ったのは幸か不幸か、何とも言えない。でも命が助かっただけでも良かったと思うべきだろう。
少なくとも……
「ああ、レイ……レイ……」
さっきまでと違って院長先生の涙が安堵の涙に変わっているのだから。
「レイ……やり直しましょう、二人で。今度こそ、親子の生活を……」
そう院長先生が思えるなら、これで良かったんだろう。
そう思う事にした。




