第343話 遂に言ってしまいました
「よっし!行くぞ!俺に付いて来い!」
「ジュン君が先頭はダメよ!私の後ろに!」
「そうですよノワール侯!私の後ろに!」
「ローエングリーン伯爵!此処は任せた!アズゥ!ジーク殿下をしっかりお護りしろ!」
「レオナちゃん、行くよ〜」
「レオナちゃん言うな!」
会場に入って来る熊を始末!精霊達が頑張ってるのか外に配置した五大騎士団が頑張ってるのか、熊達の侵入も途切れた。
今のうちに会場から出てーー
「ゼェゼェ……ま、待って〜……」
「ベル?!付いてきちゃったの?」
oh……何してますのん、ベルナデッタ殿下。
てか、何故誰も止めない。
「い、一体いつの間に……この私が全く気付けなかったぞ」
「私は兎も角、ステラが気付かないなんて……」
い、言われて見れば確かに。俺も気付けなかったな。
もしかしなくても聖女の力か?
『そう、なんちゃう?マスターの時魔法よりも高い能力かもしらんな』
時間を操作して追い付いて来た、と。
時の大精霊の能力はやはり凄いものなのか。
「って、そんな事より。俺達に付いて来るのは危険ですよ、ベルナデッタ殿下」
「ゼェ……ゼェ……で、でも私が、行か、ないと……ダメなの……じゃないと、救えない、から……」
「……救えない?」
もしかして、これは予言か。また未来を観た結果、誰かをベルナデッタ殿下が救う事になる、と。
「わかりました。ベルナデッタ殿下、俺達から離れないでくださいね」
「お、おい、ノワール侯爵。ベルナデッタ殿下を御連れするわけには……」
「……何か理由があるのだろう。我々の預かり知らない理由がな。そうなんだろう、レーンベルク団長」
「……ええ、その通りです。ベルナデッタ殿下は御連れするしか選択肢はありません」
ベルナデッタ殿下が誰を救うのかわからないが……殿下の必死さから考えて殿下が知る誰か、身内の可能性が高い。
「ベルの事はウチが護るから、心配しないで。だから早く行こ」
「ゼェ……ゼェ……ご、ごめんなさい、アイお姉ちゃん……も、もう走れない……」
「ベル……」
会場から此処まで走って来るだけで体力が尽きたの?それは幾ら何でも体力が無さすぎ――いや、時間操作に体力を使うのか?
「……仕方ない。ベルナデッタ殿下は私が背負って走る。私は戦えなくなるから、城まで頼むぞ」
「ええ、わかってます。ブルーリンク団長はベルナデッタ殿下を御守りする事に集中してください」
「決まったなら急ご。いずれまた熊が来る」
「ああ。精霊の協力もあって何とかなってるが、このままここでまごついていたら、一体何人の犠牲者が出るか。考えたくも無い」
「あまり時間をかけられる状況では無いのは確かですし。急ぎましょう、ノワール侯」
「ええ、急ぎましょ……う?」
…………は?犠牲者が、出る?
「ジュン?どした?」
「顔色が悪いよ?」
「血を流し過ぎた?」
犠牲者……あの熊に五大騎士団が負けると?あの熊は確かにそこらの魔獣よりも強いと思う。
しかし、精々が魔獣で言えばAランクだ。一人一人がAランク魔獣に勝てる実力者ばかりの五大騎士団員。
小隊編成で当たってるのに負ける筈が……
『そら、数匹、数十匹の話なら、そうやろな。でも結界が解かれてから、開戦の合図から僅かな時間で数百匹の熊が会場に集まったって事を考えれば……王都ガリアの住民の多くが熊になってると考えてええんちゃうか。いや、考えるべきやろ』
……つまり?
『王都ガリアの住民は凡そ十万人やったかな。流石に十万人全てが熊にされてるとは思えんけど……数万匹の熊が居るのは確実やろ。昨日の王都の様子を見るに、な』
数万匹……Aランクの魔獣と同等の熊が数万匹……
『状況はかなり厳しいわな。五大騎士団に加えて精霊が協力してくれるとはいえな。せやから急がなあかんわけや。ほら、早う行こや』
いや、待て。早く行って素早くエスカロンを倒せたとしても、だ。熊は消えて居なくなるわけじゃないだろ。どっちにしろ倒さなきゃならないんじゃないのか。
『そら、そうやろうけど……そうは言うてもやな、夜明けまでっちゅう時間制限もあるんやで。何匹おるかもわからん熊の始末にどれくらい時間がかかるか。それでも熊の始末を優先するんか?』
……俺には、犠牲者が出るってわかってて、それでも魔王討伐を優先して突っ走るなんて出来ないんだよ。
『……ファフニールとリヴァに期待するって事か?』
あの二人だって負ける可能性がある。なら一刻も早く救援に行かなきゃならない、それもわかってる。
だが、しかし、だ。
『だからって犠牲者が出るのは受け入れられない、か。マスターらしいわ。デウス・エクス・マキナが使えへんっちゅうのに。ほんま無茶言うわぁ』
すまないな、相棒。
『ま、それがわいの役目や。やったるわぁ!』
お、おお?
「ジュン、どうしたって……おおおう!?」
「ノワール侯爵!?何をするつもりだ!?」
「ジュン君!?」
アッチコッチにゴーレムが出て来る……もの凄い数だ。これはメーティス、お前が?
『せや。それも魔力を奮発して作ったアイアンゴーレム!一回り小型にした分、魔力消費も抑えられてスピーディ!その分、パワーは低くなるけども数が出せる!即席軍隊の完成や!』
お、おお……確かに、これなら……いや、でも、これだけの数のゴーレムに細かい指示を出して操作するなんて出来ないぞ。
『わかっとる。ゴーレムの操作はわいがやる。全部で三千体出したけど、そこまで細かい指示は必要ないからなんとかなるわ。でも、マスターのフォローは疎かになるで。流石に両立は出来へんからな』
お、おう!お前は犠牲者が出ないようにゴーレムを――
『勿論努めるけどや。ゴーレムだけじゃ恐らく足りへんで。ゴーレムは一体一体は熊より弱いしな。耐久力はあるから壁にはなれるけど』
じゃ、じゃあ、どうするんだ?
『後はまぁ、アレや。味方のやる気を引き出す事が必要やな』
いや、やる気て……五大騎士団だぞ?俺が何かするまでもなく高い士気を持ってるだろ。
『それがやな。この魔王の結界な。どうやら結界内の人間の気力を徐々に下げる、活力を徐々に奪って行く効果もあるみたいでな』
……デバフゾーンってヤツか。そうやって王都中の人間を堕落させ熊に変えたんだな。
『そうみたいやな。んでな、味方、王国と帝国の人間は魔法とシルヴァンの加護で保護があるけど、完全には防ぎ切れて無さそうなんや。つまり、士気が高くないねん』
「それは……マズいな」
「え。何が?ウチ、何かした?」
「さ、さぁ……アイシャ殿下は何もされてないと思いますが……」
「何故お尻を庇ってますの?」
で、どうすればいい。それに対しても策があるんだろ、相棒。
『勿論や。先ず、魔王の結界の内側に結界を張るんや。それでこれ以上、気力が下がるんは防げる筈や』
おう!
『次に。カミラを使って宣言するんや。内容はアレコレニャンニャン』
…………は?
いやいや……いやいやいやいや!どど、どういうこっちゃそれは!?
『しゃあないやん。今、この場でマスターに用意出来る手札って他になんかある?千人以上にやる気出させる手札』
うっ……ぐっ……な、ないけど……
『誰にも死んで欲しくないんやろ?それに遅かれ早かれやん。マスターの使命も果たせる。皆はやる気でる。誰も死なずに済む(多分)。万事オッケーやん。何も不満はないやろ。それどころか皆ハッピッピやろ。さぁ!さぁさぁ!さぁさぁさぁ!』
わ、わかったよ!
「カ、カミラ!」
「はっ。此処に」
「か……各方面に伝達。こ、この戦いに勝って生き残ったら……生き残ったら……」
「生き残ったら?」
「ぜ、全員のお願いを聞いてやる!」
「「「「「「ふぁっ!?」」」」」」
ああああああ……言ってもうたぁぁぁ……ほ、本当にこれで何とかなるんだろうな、相棒!
『多分?』
いや多分てお前な!
『大丈夫やて。少なくともやる気は爆上がりやわ。あ、ほら』
「ちょ、ちょっとジュン君!ほ、本当に!?」
「ノワール侯が何でも言う事聞いてくれるんですか!?」
「ぜ、全員が生き残ったらね!一人でも欠けたらダメー!」
「マ、マジでか!マジで言ってんのか!」
「それは私達も入ってるんだよな!?」
「お、俺に出来る範囲のお願いならね!」
「お姉ちゃんとも結婚してくれるの!?」
「くっ、ぐぐっ……」
結婚……やはり出て来るか、そのパワーワード!
『因みに結婚はなし、なんて言うたら。テンション上がった分、激し~~くやる気ダウン。一気に堕落して熊化。な~んて事態になりかねへんで』
今になってそんなん言うなぁ!
『最初っから結婚する事になるなんてわかり切ってたやろうに。予防線張るにしてもマスターを守る会の人間は結婚するけど、他は婚約に留めますーとかやない?』
ぬぐっ……どっちにしろ結婚するって事か……
『そこら辺は後々交渉したらええやん。最優先すべきは誰も死なせへん事なんやろ?』
わ、わかったよ!
「け、け……」
「「「「「「け?」」」」」」
「け……結婚だろうと婚約だろうと同衾だろうとやってやらぁ!だから誰も死ぬなと全員に伝えて来いカミラ!」
「「「「「「お、おおおおお!?」」」」」」
ああああ……もう!本当に誰も死んでくれるなよ!




