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第341話 裏をかきました

~~ジュン~~



「……行ったな」


「行ったようですな」


 エスカロンとレイさん、そして熊の化け物はステージから消えた。


 会場に残ってるのは招待客とドライデンの住民。見える範囲にドライデンの騎士や兵士は居ない。


 だが、残ってる住民は慌ててる様子も無い。ボッーとしてるのが殆どだ。


 ……もしかしなくても、そういう事だよな。


『……そういう事やろうなぁ。エスカロンのやつ、えぐい手段取りよるなぁ』


 ほんとにな……救えない、んだよな。


『元の人間に戻すんは不可能やな。少なくとも今のわいらに、その手段はあらへん』


 ……そうか。


「……ジュン?どうした」


「ノワール侯、何か気になる事でも?」


「……あの様子がおかしい人達。あの人達も熊になると思っていた方がよさそうです」


「……ッ、それは……」


「殺すしかないのだろうな……」


「……会場内の化け物は黒薔薇騎士団で対応しよう」


 そこでポラセク団長は俺達から離れた。こうして話してる間に、離れた場所にいたクリスチーナや院長先生らも集合していた。


「それでローエングリーン伯爵。答えは決まっているだろうが、一応聞いておこう。これからどう動く」


「無論、戦う。戦ってカルボウ、とやらを破壊する」


 ブルーリンク団長の質問に即答するアニエスさん。今回も全体指揮を執るのはアニエスさんだと、これまでの話合いで決まっていた。


 そして全員が、アニエスさんに同意を示すように頷く。


 当初の予定だとミトラスまで行き、船で王国まで逃げる予定だったのだが。それはもう出来ない。


「エスカロンの言を信じるなら、だが。逃げても無駄だし、結界に穴を空けて王都ガリアから出られたとしても。デカブツに背後から襲われてはかなわん」


「帝国も同意見だわ。こうなればカルボウを、いえ、エスカロンを倒すしかない。でも、倒せるのかしら?正直言って帝国の戦力だけでは無理よ」


「魔王が四体居れば国を簡単に墜とせる、というのが本当なのではあれば、ですがな。我々は逃げる算段でいましたし。そうでなくとも連れて来た戦力もそう多くありませんしな」


「逃げる算段だったのは王国も同じよね。戦力を分散してる筈でしょう?ガリアの外にある戦力と連絡は取れるの?ローエングリーン伯爵」


「問題ありません。こうなる事も想定した配置にしてありますので」


 こういう事態に備えた配置になっているのはベルナデッタ殿下の予言もあるが、ユウの采配も大きい。


 まさかエスカロンが此処までやるなんて予想……してないよね?


「それは素晴らしいですな。それで、具体的にどう動かれるので?」


「それは私から。今後の指揮は私とローエングリーン伯爵様とで執ります」


「……子供じゃない。それも平民の」


「確か、ノワール侯爵の妹分でしたかな」


「ユウは子供だし、平民ではありますが。優秀な頭脳を持ってますので。御心配なく」


 本当かよって眼で見る皇帝一行。まあ疑うのはわかりますけど、此処は強引に進めさせてもらう。


「先ず、この会場内の安全を確保。その後、此処を拠点とします」


「ふむ。良いのではないですかな。エスカロンを狙うにしろ、カルボウを狙うにしろ、王城を攻める必要があるようですし。拠点となる場所は必要でしょう」


「そうね……それで?」


「此処を護る戦力ですが、それは帝国の近衛騎士団をメインにお願いしたい。無論、他の招待客らの護衛と協力して」


「ローエングリーン伯爵、待ちなさい。それはつまり、他の連中も護る、という事かしら。はっきり言って他は大した戦力を持って来てないわ。私達に比べ護衛は少数。その護衛すら足手纏いにしかならない可能性が高いわよ」


「ならば見捨てますか?」


「それは嫌われると思いますよ。お兄ちゃんに。ね?」


 あ~……まぁ、うん。昨日今日会った人達ばかりだし、護衛の人達なんて名前も知らないけれども。殺されると解ってて放置するのは、ちょっと。


「……ふむ。見捨てない方が良さそうですな、陛下」


「わかったわよ……カサンドラ、ジェノバ」


「わかったよ、姉さん」


「愛するジュンさんの心を護る為ならば。必ずや」


 どうやら此処はカサンドラ様とジェノバ様が中心になって護る事になるようだ。帝国の近衛騎士団が主戦力となるなら、それがいいだろう。


「ところで、あたし達は自由に動いていいのかしら」


「居たの、あんた達」


「最初っから居たわよ!」


 ああ……フィーアレーン公子一行か。この三人はある程度戦えるみたいだけど……


「マルレーネ様達も此処で非戦闘員を護ってください」


「嫌よ。あたしはノワール侯爵に付いて行く――」


「この状況で我儘言う人は嫌いになりそうだな~俺」


「仕方ないわね!あたし達が誰も死なせずに護ってあげるわよ!」


「私は治療班でお願いね~。ターニャちゃんは頑張って熊さんをやっつけて~」


「……カトリーヌもやる」


 ……まぁ、此処の防衛はこれで良いとして――


「ジーク殿下とベルナデッタ殿下、それからシルヴァン君も此処で待機です。クリスチーナも物資係として残って」


「何!僕はジュンと一緒に行く――」


「ジーク、駄目よ。ジュンの事はウチに任せて。ジークがジュンと一緒に居ても足手纏いにしかならない。わかるでしょ?」


「アイ……くっ、すまない、友よ……この借りは必ず返そう」


 いや、何にも気にしないでください。ほんと、マジで。お願いだから気にしないで。貸しにするつもりもありませんから。


「つまり僕は此処で皆さんを鼓舞すればいいのですね!任せてください!得意分野です!」


「ウフフ……つまり私も此処ね……」


 レティシアも拠点防衛組か……となると。他の精霊達も此処に居てもらった方がいいか。指示出来るのは俺だけだし、後々になって細かい指示を出すのは難しそうだからな。


「私が此処に残るのは仕方ないと思うが……アム達はどうする?」


「当然あたいらはジュンに付いて行くぜ!」


「どうせジュンは一番危険なとこに行くんだろうしねぇ」


「当然の帰結」


「わふっ!」


「ま、そう言うと思ったよ。私の分までジュンを護ってくれたまえよ。魔法薬に魔法道具を渡しておこう」


 アム達は付いて来る、のはわかってた。


 そして、この人も。


「……ピオラお姉ちゃん?」


「当然私もジュンと一緒!絶対にお姉ちゃんが護ってあげるからね!」


 眼がキマってらっしゃる。この眼をしてるピオラに逆らっても無駄だ。いざとなったらアム達におさえつけてもらおう、うん。


「ジュン……私は……」


「わかってるよ、院長先生。ユウもわかってるから」


「うん。それじゃ次はどう攻めるか、だけど。先ず、王都中に居るであろう敵の排除についてだけど」


 これは各五大騎士団とノワール家、ローエングリーン家、ブルーリンク家の私兵で制圧する。


 会場がある王都中央区を白薔薇騎士団と各家の私兵で。北区を赤薔薇騎士団。西区を青薔薇騎士団。東区を黄薔薇騎士団。南区を黒薔薇騎士団。


 中央区が一番早く制圧出来る筈だから、制圧後各地の応援に動く、という算段だ。


「で、肝心の魔王討伐だけど。お兄ちゃんを中心にした精鋭を送り込みます」


「その精鋭の中に、院長先生も入ってるって事だよ」


「……ありがとう。レイは必ず私が何とかするわ」


「……マチルダの事は心配するな。私達がフォローする」


「ジュン君は自分の身を第一に考えてね」


「……」


 他の精鋭組はアイに五大騎士団団長達。アム達に……リヴァも、かな?


「あーしは?まだ名前呼ばれてないんだけど」


「私もまだだ」


「わたくしもですわ」


「カタリナとイーナは此処に残って――」


「ううん、二人はお兄ちゃんに付いて行って」


「「「え」」」


 ええ?この二人を精鋭組に入れるのか?確かに二人共鍛えてはいるけども。


 カタリナは兎も角、イーナのドジ属性には一抹の……いや、過分の不安が。


「で、あーしは?あーしも精鋭組じゃないの?」


「リヴァには王都から出て欲しいの。出来るでしょ?」


「ん~……多分?強引に突破は出来ると思う」


 出来るんだ?まぁ、俺も出来なくはない。空間転移なら問題無く抜けれる。


「なるほど。その方が王都から出られるならエスカロンの裏をかけそうですな」


「確かに、此処まではエスカロンの意図に沿った、エスカロンの思惑通りの行動でしかないでしょうよ。でも、たった一人で外に出た所でどうなるってのよ」


 皇帝陛下の言う通りで。招待客を護るやら王都を制圧に動くやら精鋭を送り込むやらはエスカロンも想定してるはず。


 裏をかくなら想定外の行動をしなきゃならないが……リヴァだけを外に出してどうする?


「忘れたの?王都の外に居るじゃない。単独で魔王の相手が出来る力を持った存在が」


 …………ああ。



~~エスカロン~~



「そろそろ時間ですね。結界を解きましょう。ではレイ殿、よろしくお願いしますね」


「ええ。それはいいのですが」


「なにか?」


「これで最後でしょうし、聞いておきたい。貴方の目的が何であれ、僕がノワール侯爵を殺すのは問題無い。邪魔もしない。それで本当に構わないんですね?」


「ええ、勿論。最初に約束した通りです」


『理解出来んでござる。彼の者を王にしたいのに、何故拙者らが殺す事を許容するのでござる?』


 ふむ……最後ですしね、本音を言っても構わないでしょう。此処で別れたら最後、もう二度と会う事も無いでしょうし。


「簡単ですよ。彼を英雄にしたいからです。各国の重鎮を招いた式典で、世界に向けて宣戦布告をした魔王を倒す。これ以上ないくらいに英雄でしょう?誰もが彼を王と認め、望む事でしょう」


「……つまり、僕達が彼に負けると?」


「はい。負けます。彼が真に王たる者ならば」


『……拙者らが負ければ、そうかもしれないでござるなぁ。しかし、拙者らが勝ったらどうするでござる?』


「その時は私達で殺し合いでしょうね」


『……良い覚悟してるでござる』


 そうはならないでしょうがね。ジュン様は確実に勝つでしょう。ジュン様は真の王になるのですから。


「それでは、私は行きます。今までありがとうございました、レイ殿」


「……こちらこそ。これが最後、ではなく。後でまた会う事になりそうですけど。一応、さようなら」


『おさらばでござる』


 しかし……哀れですね、本当に。


 あの刀、嫉妬の魔王は良いとして。レイ殿は出来る事なら救ってあげたかった。


 ジュン様の育ての親、聖母とでも呼ぶべきかたの実の息子なのだから。


「レイ殿が死ねばジュン様も悲しむでしょうし……おや?」


 アレは……死体ですね。


 カルボウの足下に、干からびたミイラのような死体があります。


 服装からして……まさか、彼が?


「何故、このような……まさかカルボウが?」


 此処には彼以外にはカルボウしか……何か来ますね。


「アレは……ドラゴンですか。それも二体」


 蒼いドラゴンはエロース教の守護龍ファフニールでしょう。もう一体のワインレッドのドラゴンは知りませんね。


 ファフニールの眷族か何かでしょうか。


 何にせよ、何故此処に?てっきりファフニールも人型のまま会場内に居ると思っていたのですが。


『あのデカブツをぶっ壊せばいいんじゃな、お嬢ちゃん』


『うん!あーしもやるから!サッサと壊しちゃおう!』


 なるほど、そう来ましたか。


 これは少々……マズいかもしれませんね。

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