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第325話 想定内でした

 新情報をもたらしたのは意外な事にジーク殿下。


 魔石の消費量が増えている事もレイさんの情報も気になるが、王都ガリア迄の旅路で懸念。これについて話し合う必要がある。


 本音を言えば俺のファンクラブなる物の存在について問いただしたいが…


「ノワール侯爵様、どうぞ」


「ありがとうございます、ガブリエラ様。…美味しいです」


「ウフフ…やった!」


 俺達の御茶は皇女達が交代で淹れてくれているのだが。皇女全員の御茶を飲まなければならないのだろうか。


 既に三杯目…そろそろ辛い。が、次は私と気合いを入れてる皇女達を見ると断れない小心者な俺。


「さしあたっての問題は爆発する人間ね」


「難民や盗賊は対処のしようがありますが。爆発する人間は…我々の中から爆発する人間が出たらどうしようもありませんな」


 爆発する人間て、アレだよな。ベッカー辺境伯が爆発したやつ。アレと同じ事がドライデンの各地、王都周辺を除いて起きている、と。


「それに関しては王国の人間は対策済です。後でそちらにも施しましょう」


「ほう。対策とはどのような」


「爆発というのがベッカー辺境伯の時と同じであれば、ですが」


 メーティスの見解ではアレは怒りが爆発の鍵となっている。ならば精神系の防護魔法と鎮静剤を配ってある。


 そしてレティシア…闇の大精霊ルナ。彼女は精神に対する攻撃・干渉を感知する事が出来るらしい。ルナの加護があるシルヴァンが居れば味方の精神力が強化される…ポラセク団長の船酔いは精神力ではカバー出来なかったようだが。


「なるほど。精神系の防御魔法に鎮静剤ですか。流石ノワール侯爵ですな」


「そちらも同じような見解なのでしょう?皇女様方が淹れてくださったハーブティーも、心を落ち着ける作用がありそうですし」


「あら。ノワール侯爵は御茶の知識が豊富なのね」


 お茶会には何だかんだと参加させられてるしな…お茶とお菓子くらいしか楽しみが無かったし。偶に媚薬や睡眠薬が混ぜられてたりもしたが。


「ならば人間の爆発に関しては双方対策出来ているということですな」


「ええ。後は現地人との接触を可能な限り避ける事で爆発に巻き込まれる心配は無いでしょう」


「……ちょっと待ちなさいよ。さっきから言ってる爆発ってベッカー辺境伯と同じ?それがドライデンでも頻発してるって言うの?あたし達は何の対策もしてないわよ」


「あらそう?じゃあ帰ったら?今ならまだ王国からはそう離れてないし。川岸まで泳げば?」


「ワニが居る河を泳がせようとすんじゃないわよ!」


 つか対策はしてる筈なんだが。魔法は俺がかけたし、鎮静剤も渡してある。


「持ってますよね、カトリーヌさん」


「はい~ちゃんと持ってますよ~」


「……あたし、聞いてないんだけど」


「マルちゃんに言ってもあんまり意味が無いと思って~」


「どうしてよ!」


 そうやってすぐカッとなるからじゃないでしょうか。少なくとも彼女にハーブティーは効果が無さそうだ。牛乳の方がいいかも。


『乳が小さいからか?』


 …今の話の流れで何故乳の話になる。カルシウムなカルシウム。


「…ふぅ。で、人が突然爆発する事件が多発してるのに行くの?危険過ぎないかしら」


「ですので、極力街や村には入らず、入っても滞在時間は短くする予定ですな。ミトラスには夕方に到着して一泊する予定ですので、現地人との接触は避けられないのですが」


「ミトラスはギリギリ安定してる地域からは外れてるのよね。だからミトラスさえ凌げば王都ガリアまでは問題無く行ける…筈よ」


 ミトラスは気を付けなきゃいけないってわけね。でもなぁ…院長先生がレイさんを探しに街に出るとかしそうなんだよなぁ。


『多分、レイは王都ガリアに居るやろうしな。ミトラスで探しても徒労で終わると思うんやけど』


 ほう?何故そう思う?


『自然に考えてレイはエスカロンの保護下にあるやろ。若しくは協力関係にあるか』


 協力関係って…爆発事件の事言ってるのか?


『せや。王都ガリアとその周辺では爆発は起きてないって、明らかに爆発させる場所を選んどるやろ。選んどるのはドライデンの内情に詳しくないレイよりも国王のエスカロンって考える方が自然やわ。協力関係にないとしても神子のレイが一人で歩いてたら保護対象やしな。でもエロース教に保護したって連絡が行ってないとこ見ると協力関係にあるんやろなって』


 …そうだとするとエスカロンはレイさんが勇者…魔王だと知ってる事にならないか?


『知っとるやろうな。それどころかエスカロンが魔王の可能性があると睨んどるで、わいは』


 マジか。その心は。


『エロース様からの情報で魔王がドライデンに四体居るんは確定しとるわけやけど。それにしてはレイ以外の情報は無いわけやん?魔王関連の情報が』


 それは…確かに。でも、それがどうした?マイケルみたいに阿呆じゃなくて隠れて活動してるだけかもしれんぞ。


『まぁなぁ。でもやで?魔王ってどうしたって目立つもんなんとちゃうかなぁ。勿論、マスターの言うように上手く隠れてるんかもしれんけど、王国と帝国の情報網になんにも引っ掛からんっちゅうことは、や。かなりの権力で隠されとると見るべきや。となると…』


 エスカロンが絡んでると見るべきで、エスカロン自身が魔王だったとしても何ら不思議ではない…という事か。


『何の魔王なんかは知らんけどな。エスカロンは元は商人やねんし強欲の魔王とか似合いそうやな』


 …魔王が七つの大罪から来ててレイさんが憤怒の魔王だとしたら。残りは傲慢、強欲、怠惰、嫉妬、か。確かにその中で言えば元商人のエスカロンには強欲の魔王になってそうではある。


「――大体、こんな所かしら。後は何かある?宰相」


「いいえ、陛下。後は歓談しててよろしいのではないですかな。勿論陛下愛しのノワール侯爵と」


「陛下と呼びなさ……貴女どうして姫様呼びをやめたの。アレだけ言っても直さなかったくせに……」


「此処は帝国ではなく他国ですからな。流石に他国では陛下と呼びますとも」


「どういうこだわりなのよ……」


 メーティスとの会話中に会議は終ってたらしい。で、このまま此処で皇帝陛下とのお茶会に移行―――


「話合いが終わったなら我が友よ。僕と親睦を深めようじゃないか。ジュンもその方がいいだろう?」


「……ジーク殿下、この船は帝国皇家の船で我々は乗せてもらってる立場ですので。皇女様方の御相手をしていただければ……」


「……僕に皇女の相手をしろとか、酷な事を言うね、ローエングリーン伯爵」


「ウチも一緒だから怖くないわよ、ジーク。ベルも一緒しよ。皇女と友達になったらいいんじゃない?」


「う、うん」


 ナイスです、アニエスさん。俺の安寧は保たれ…るかはわからないけど。アイもナイスアシストだ。


「…ハァ。この場の護衛はイエローレイダー団長とレッドフィールド団長に任せる。アズゥはジーク殿下に張り付いていろ。私とレーンベルク団長は帝国側の護衛と護衛計画について話して来る」


「えー…めんどう……」


「駄目ですよ、レッドフィールド団長。ノワール侯だけでなく殿下達もいらっしゃるのですから」


 普通は俺の事よりもジーク殿下達を優先すべきじゃないでしょうかイエローレイダー団長。レッドフィールド団長は論外。首になっても知らないぞ…


「ささ、ノワール侯爵。此処からは気を楽にしてお茶を楽しんでください」


「私も御茶を淹れますね」


「あ、あたしは…あっ、お酒もあります!」


 俺としては話が終わったなら院長先生の様子を見に行きたかったが、仕方ない。乗せてもらってる立場なんだから皇帝陛下らをないがしろには出来んし。


 とまぁ。ジーク殿下の密航という事件はあったものの。船の旅は順調そのもの。ミトラスまでは何事も無く行く事が出来た。


 ……ミトラスまでは、ね。


「あんたらイイねぇ!サイコーだよ!どうだいあたいと酒でも!」「おいおい、待ちなよ。あんた一人で独り占めする気かい」「それは見過ごせないねぇ。あたしらも混ぜてもらおうかい」


 港に降りて早速絡まれちゃったよ……想定内だけども。

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うん? 前におっ死んだ魔王が強欲でなかったっけ?
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