第324話 驚きでした
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「さぁ我が友よ!再会を祝して!さぁ!」
「「「「「………」」」」」
ジーク殿下が両手を広げて訴えて来る。何を要求してるのかはわかる。わかるが…応える気は無い。
俺も、ソフィアさん達も。頭を抱えるか天を仰ぐか。
この場に居る王国の人間は全員が困惑…いや、レッドフィールド団長は興味無さげだ。
五大騎士団の団長として、良いんだろうか。それに貴女はジーク殿下に嫁ぐよう、言われている筈では。
「どうしたんだ我が友!周りに他人が居るからと気にする事は無い!」
「いえ、ジーク殿下…そんな事よりも。何故此処に居られるので?陛下からはジーク殿下は待機だと伺っておりますが」
頭痛を堪えるように額に手を当てながらブルーリンク団長が尋ねる。
ジーク殿下の護衛は青薔薇騎士団の管轄だったから、その行動を団長が把握してないというのは問題なんだろう。
「…ふん。僕が此処に居るのは僕の意思だ。母上は関係無い」
「そんな訳に行かないでしょう…それに殿下にはアズゥを護衛に付けた筈ですが。奴は何処です」
「勿論、彼女も来ているよ」
ジーク殿下が指差す方向に…居た。大きな身体を縮こませて眉をハの字にしてるアズゥ副団長が。
その様子から大体察する事が出来た。ジーク殿下の密航の主導はあんただな、アズゥ副団長…許すまじ!
「…アズゥ、ちょっ〜と来い」
「あ、あの、団長…こ、これには深い理由が、あががが!!」
「ああ、そうだろう!深い理由も無しに命令違反なぞされてたまるか!さぁ吐け!一体どんな碌でもない理由で王族を帝国の船に密航させたんだ貴様は!」
「は、話します!話しますから!話して良いって言われてますから!だからやめ、あがががが!」
ブルーリンク団長から頭を両手で万力のように締め付ける拷問を受けながらアズゥ被告は自白する。
「ジ、ジーク殿下がどうしても、ノワール侯爵を助けたい、ドライデンに行きたいと仰るので…」
「……で?」
「い、以上で、あがががが!」
「何処が深い理由だ何処が!通り雨で出来た水溜りよりも浅いじゃないか!」
「あががが!で、でも!上手く行けば私を妻の一人にすると仰ってくださったんですぅ!」
「「「「「はっ?」」」」」
…妻?アズゥ副団長を妻?誰の?誰が?
「……ええと、ジーク殿下?まともになったんですか?」
「いきなり何を言うんだ、友よ…アズゥ副団長を妻にすると約束したのは事実だ。そうでないと彼女の立場が守られないしね」
ああ…ヤバい事してるって自覚はあるんスね。尚の事思い留まって欲しかった。
「…アズゥ副団長の事を気に入ったんですか」
「ん~…今までに居た他の女よりはマシ、という程度だけどね。不思議と彼女には嫌悪感も沸かないし」
…ほほう。アズゥ副団長の魅了スキルの効果かな。マイナスの印象がプラスにはなっているようだ。
このまま行けば…ジーク殿下の矯正は成るかもしれん!
「アズゥ副団長!やはり貴女は俺の希望!俺の救世主!今回の事はお咎め無しになるよう俺からも陛下に進言しますね!」
「あ、それウチもやる!本当にありがとね!御蔭でウチのお尻が割れないで済むかも!」
「は、はい…お尻?……あの、本当にお願いします…最悪の場合アズゥ子爵家は御取り潰しになりかねないので…」
そんな事はさせない!多少の借りを作ってでもアズゥ副団長は守ってみせる!じっちゃんの名に懸けて!
『手の平クルリ、がすごいな。マスター、さっきは許すまじ!とか言ってへんかった?あとじっちゃんて誰や』
ジーク殿下がどうにか出来るなら手の平くらいなんぼでも回すわ!
「…お前が殿下に協力した理由はわかった。だが協力者はお前だけじゃあるまい。他に誰が協力している。どうやって密航した。言え」
「そ、それは、その…」
「僕が話そう。僕の密航に協力してくれたのはジュン様ファンクラブの皆さ」
「なんて?」
「ジュン様ファンクラブの皆、と言ったんだよ、友よ」
……………………メーティス、ファンクラブってなんだっけ。食べ物?人名?あ、地名かな?
『現実逃避したいんはわかるけども。マスターが好きで好きで仕方ない連中の集まりやろ。マスターを護る会が公式やとしたらファンクラブは非公式やな』
…どうやって解散させよう。
「…そのファンクラブとやらの構成メンバーをお教えいただいても?」
「それは出来ないよ、ローエングリーン伯爵。でも、君ならある程度は想像が付くんじゃないかな」
「…どうやって密航したのかはまだ聞いていませんでしたね」
「貨物箱に入ってね。それ以上は言えない。ああ、他に密航者は居ないよ。もし居るとしたら僕とは別口だね」
「…今回の旅に必要な物資の手配はエチゴヤ商会とユーバー商会…だったよな、ローエングリーン伯爵」
「ええ。そのどちらか、或いは両方に協力者が居るというわけか」
「…資金面での協力者も必要ですよね。マーヤとか絡んでそう…」
クリスチーナが協力者ではないなら、他に資金面で協力する人間が必要だしな。
というか、王族を秘密裏に、五大騎士団団長と王国軍の重鎮ローエングリーン伯爵の眼をかいくぐって、更にはカミラ達の調査も凌ぎきるなんて。
俺達の中にも協力者が居ないと無理なんじゃ……メーティス?
『わからへん。外は警戒してたけど中はなぁ。そもそも敵対行動ってわけやないし』
それは……まぁ、そうか。ユウに相談すればわかるかな。
「ええと…私からもいいかしら?」
「…貴女はツヴァイドルフ帝国の?」
「ええ、皇帝よ。貴方には母と姉が迷惑をかけたわ。詫び状は送らせてもらったけど改めて謝罪するわ」
「不要です、皇帝陛下。思い出したくもないので」
「あら、そう。でも、それなら何故此処に?ツヴァイドルフ皇家が居るとわかってる上での密航。目的を聴かせてくれるかしら」
「勿論、我が友を助ける為ですよ。妹達も行くなら尚更」
「助ける?何からですかな…あ、私は帝国宰相です。宰相とお呼びください」
「ドライデンの国王エスカロンはジュンを狙っているそうじゃないか。それにとても危険な存在もいるとか」
…誰に聞いたんだ?ジーク殿下には俺に関する情報は流れないように制限されてる筈だが。
ジーク殿下には腹心の部下、なんて居ない筈だし…アズゥ副団長はそこまで情報通だとも思えない。
…まさか、それもファンクラブからの情報だとでも?
「‥どうするんです、アニエスさん」
「追い返すわけにも放り出すわけにも行かない…しかし先方にはジーク殿下が来訪される事は伝えていない…ジーク殿下には姿を見られないようにしていただく必要があるな…」
「それなら心配無用だよ、ローエングリーン伯爵。僕の名前でドライデンには報せておいた。問題無く伝わっている筈さ」
「……皇帝陛下」
「良いわ、乗船は許可します。ただし、これは貸しにさせてもらうわよ」
「勿論、ノワール侯爵に、ですな」
ナンデヤネン…理不尽な…
「あとジーク殿の護衛はそちらでなんとかしてよね。…それじゃ、話の続きをしましょうか。宰相」
「ええ。ドライデンでは男達が原因で治安が乱れ、難民が生まれている。そして何故、安定している地域に行かないのか、という話でしたな」
そういえばそんな話をしてたっけ。ジーク殿下の登場ですっかり頭から抜けて――
「難民は元アルカ派の領地だった場所からしか出ていないようだ。更に謎の人間爆発事件も多発。だが爆発は王都に近づく程に発生するらしい。王都と周辺都市では起こらないが近付けば爆発するかもしれない。だから外国へ。という流れらしいよ」
「…ジ、ジーク殿下?」
「…ほほう?よくご存知で」
え、正解なん?アニエスさんとブルーリンク辺境伯は…知らなかったんスね?…二人が掴んでない情報をどうやって?
「帝国は難民を多く受け入れてるからこそ把握、確信出来た情報なのですがな。早期に国境封鎖した王国がそこ迄掴んでいたとは」
「ふふん。それだけじゃないさ。エスカロンは何か大掛かりな魔法道具を開発してるんじゃないか、という噂があるそうだよ。何でも魔石の消費量が異常なまでに膨れ上がってるとか」
「…宰相」
「それは私も初耳ですな。いやはや、驚きましたな」
おいおい…何処で仕入れた情報だ、それ。まさか本当にファンクラブからの情報なのか?もし、そうだとしたら…王国と帝国、両方の上層部の情報取集力を上回ってる事になるが。
「ふっふっふ…更に更に!ドライデンでは最近、妙な形状の剣を持った男が魔獣狩りをしてるらしいよ。見た目三十代後半の男がね。どうだい、気になる情報だろう、我が友よ」
それってまさかレイさんか。妙な形状の剣…エロース教の宝物庫から奪った物の一つか?
「どうだい。僕が来て良かったろう?」
「…情報には感謝申し上げますから、太腿を撫でるのは止めてください」
ゾワっと来るんですよ…全身鳥肌が凄いんよ、本当に…
『ああ~やっぱええわぁ。嫌がるマスターをジークが無理やり…トゥンク』
だから勝手に俺の心臓をトゥンクさせるなっちゅうねん!




