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第321話 整いました

〜〜エスカロン〜〜


 私はエスカロン・ガリア・ドライデン。


 ドライデン連合王国の初代国王。そして最後の国王です。


「今日の報告は以上です…」


「ご苦労でした。下がってよろしい」


「はっ……っ」


「?…どうかしましたか」


「あの…本当にこれでよろしいのですか?」


「国民の流出の事ですか」


「はい…国民の流出は国力の低下です。何も対策を講じないというのは…」


 …此処に来て欲が出て来ましたか。


 この者は私の親族で側近。私には子供が居ませんから、現時点では次期国王筆頭。


 自分が国王になったら、その時の事を考えれば国力の低下は望ましくない。それはわかります。


 しかし…貴方は私の目的を知っているはず。野心を持つなとは言いませんが…過ぎた野心は己を焼きますよ。


「問題ありません。流れているのはアルカ派だった街の人間ばかり。未だに男を虐げる思想を捨てきれない者ばかり。彼の国には不要です」


「しかし…」


「まだ何か?」


「…エスカロン様が国王のままではいけないのですか?」


 …今更何を言うのですかね。貴方が良くても同志が認めないでしょう。


 同志…エスカロン派の仲間達は国王に相応しい男性を見つけたら…ジュン様を国王に新国家を創り、ジュン様を支える側近となる事が望み。


 私はそれまでの繋ぎに過ぎない。わかっているはずでしょう?


「強く、賢く、愛される王。新国家の王はそんな男が相応しい…それはわかります。ですが…」


「ですが、なんです」


「エスカロン様も強く、賢い王ではないですか。今からでも方針を変えて善政を敷けば愛される事だって。何も必ずしもジュン…様でなければならない理由は…」


 …………ふむ。


 つまり私は王に相応しい、と。貴方はそう言いたいわけですか。


 予想外の意見ですし、評価が高いのは喜ばしい。


 ですが…


「私は相応しくありません。私は美しくありませんから」


「王に美しさは必須ではないと私は考えます。それに美しさと単なる見た目の美醜だけを指す言葉ではないかと」


 ……ふむ。一理ある事は認めましょう。


「私は強くなった、とは言っても所詮は貰い物の力です。自らを鍛え、苦労の先に手に入れた力ではない。誇るべき力ではありません」


「ですがエスカロン様はその力に溺れる事なく使いこなす為に努力されています。高価な武具を手に入れただけで強くなった気でいる素人とは違う」


 ……ふむ。それは確かに。努力はしているつもりです。


「…私は魔王、怠惰の魔王です。魔王が相応しいとはとても」


「それはあくまで与えられた力の事で肩書や身分を示す言葉ではないかと。それに魔王だと周りに知らしめる必要もありません。黙っていれば問題ないと愚考します」


 ……今日は随分と押して来ますね。いつもなら聞き分けが良いのに。


「…さては何かありましたか。報告していない何かがあるのでしょう」


「…例の物が仕上がりました」


 ほう、アレが。神から授かったアレを見たなら強気になるのはわかります。


「アレを使えば理想の国ではなく理想の世界を創れます。エスカロン様の理想の世界を。であるならば、他人に王位を譲る必要などない。私はそう考えます」


 理想の世界を創る…つまりは世界征服ですか。


 世界の王…それに惹かれるモノがまるでないと言えば嘘になりますが…


「…私はそこまでの器ではありません。一国の王ですら怪しいのですから。世界の王など、とても」


「ですが…」


「……この話は此処までにしましょう。ジュン様を王に、その方針は変わりません、変えるつもりもありません。それよりも例の物の詳細な報告を」


「…畏まりました。例の物は既に起動テストを終えています。ですが…」


「何か問題が?」


「必要な魔石の量が莫大です。低ランクの魔石ほど数は必要になります。高ランクの魔石でもかなりの数の魔石が。その分、強力ですし搭乗者の魔力で幾分か代用出来るのですが…」


「ふむ…報告書をこちらに」


 …Bランク冒険者の魔法使いで3分の稼働が限界、ですか。しかもその冒険者は魔力が完全に枯渇して動けなくなる。しかし、その3分の稼働でも絶大な戦果が期待出来る、と。


「大きな問題ではありませんね。魔石は今レイ殿が訓練ついでに集めてくれていますし、私が使えば稼働時間は飛躍的に伸びます。魔力量だけは並外れてありますし、魔王の力もありますから」


「それは…そうなのですが…」


「まだ何か?」


「いえ…エスカロン様がアレを使うのが最も効果的なのは理解しています。ですが、何か嫌な予感が…」


 …ふむ。この世界には無い未知の技術で造られた、よくわからない物ですからね。不安に思うのもわかります。


「いえ、そういう事では無く…アレをエスカロン様が使う事に何か…そう、まるでレイ殿達のような関係ではありませんか?」


「レイ殿?」


 レイ殿とあの刀との関係に……確かに、そうですね。私がアレを使うというのは同じ関係性と言えるかもしれません。


「恐らく貴方は魔王の関係性を危惧しているのでしょうが、問題ありません。あの刀と違い、アレには意思など無いのですから」


「……はい」


「では下がってよろしい。貴方はもう休みなさい」


「はい……あの、エスカロン様もお休みになられた方が……もう五日もお休みになられていないですし……」


「私は大丈夫です」


 フフ……怠惰の魔王が働き者で、しかも働く程に力を高める事が出来るというのは…なんともおかしな能力だとは思いますが。


 しかし王という立場の今では、とても使える能力です。


「ああ、そうです。いつまでもアレの名前が無いのは不便ですね。呼称を決めましょうか」


「はい。何かお考えがありますか」


「そうですね……アレには確か鳥の紋章が刻まれていましたね」


「はい。鴉かと思われます」


「鴉…ではカルボウとしましょう」


「カルボウ…ですか。どういう意味なのか、お聞きしてよろしいでしょうか」


「ドライデンの一部地域ではカラスをカルボウと呼ぶそうです。シンプルでわかりやすいでしょう?」


「短くて覚えやすいのもよろしいかと。では関係者にはそのように周知します」


「頼みましたよ」


 フフ……これでほぼ全ての準備が整いました。式典の日が本当に待ち遠しい……その日、ドライデンは新たな王を迎え、生まれ変わるのですから……

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