第318話 船でした
「来たか。まぁ、座れ。早速本題に…いや、御茶が先だな」
「ですね。ああ、ノワール侯爵。お母様とカミーユ同様、今日から私もお世話になるよ。土産は用意してるから期待してくれ。あ、お父様も一緒だから」
「いやいや…そんな話の前にですね……服を着ろぃ!」
女王陛下と辺境伯に対しあるまじき暴言だとか言ってられん!
な~んでアンタらまでパンツ一枚なのよ!威厳とか尊厳とかあるでしょーよ!
「だからそこ!キョトンとしない!恥じらいを持ちなさい恥じらいを!」
「…ああ。王国会議から結構経ったが…まだ矯正出来てないのか。奥手過ぎないか、お前達」
「そう言えばベルムバッハ伯爵らにも随分と気を使っていたな。これは思ったよりつけ入る隙が…」
「いいから早く服を着なさい…」
やれやれと言って渋々シャツだけを着る二人。ちゃんとした服を着なさい。
いくらでも待ってあげるから。
「久しぶりに鍛錬をしたんだ。ブルーリンクを相手に、さっきまでな。まだ汗が止まらんのだ。これでいいだろう」
「汗で透けてますやん…」
殆ど意味無いですやん…王族がそんなんでええのん?
「やかましい。もういいから座れ」
「…はい」
「なんか、ママがごめん。でも、もう慣れるしか無いとウチは思うんだけど」
これに慣れるとダメな方に向かって行く気がしてならない…
『ええ加減我慢せんとヤッてもうたらええのに』
ばーか言っちゃいかん!この場で我慢やめたら陛下まで妊娠してまうやろがい!
「さて本題だが…お前達がベルに会いたがったのは予知に変化は無いか聞きたかったのだろう?」
「その通りなのですが…陛下、よろしいので?」
アニエスさんは目線でブルーリンク辺境伯に聴かせても良いのかと問う。
ベルナデッタ殿下の事は限られた人間しか知らない秘匿事項だった筈だが。
「かまわん。ベルの事は既にブルーリンクには話してある。そうでないと話が進められなかったからな」
「いや驚きました。まさかベルナデッタ殿下が聖女様で未来予知が出来るとは」
…ジーク殿下が勇者になったのは秘密のまま、と。
てか何時になったら発表すんの?時期を見て発表するみたいな事言ってた気がするけども。
『ジークが次期国王になるってのと同時に発表するつもりなんちゃう。あとは…ジークの婚約者がまだ決まってへんし』
…婚約者、決めないと発表出来んのん?
『そらそうやろ。そうでないと余計なんが湧くし。つまりはジークが次期国王になるんに一番の障害はマスターっちゅうわけやな。女王にとって』
やめて。なんか刺客とか送られそうだから止めて。
俺Tueeeeeはしたいけどそういうのはやだ。
「…つまりベルナデッタ殿下の予知に変化があり、ブルーリンク辺境伯が関わっていると?」
「その通りだ。流石に察しが良いな、ローエングリーン伯爵」
「これを読んでみるといい」
陛下が出したのは一通の手紙。差出人は…まぁ、うん。
予想通りなわけで。
「エスカロンですか」
「うむ。内容は想像出来てるだろうが、まぁ読め」
代表してアニエスさんが読…あ、俺が読むんすね。
内容は…カミーユさんに聞いてた通りに建国記念の式典への招待だな。
俺も招待されてるのも予想通り。何故俺に直接手紙を送らないのか。
あとノワール家預かりになってるツヴァイドルフ皇女とフィーアレーン公子も連れて来ていいとある。
「…俺、監視されてるみたいですね」
「監視などせずとも皇女と公子らが居る事はすぐにばれる。それ以上の情報は抜かれていないだろう。お前の屋敷は今じゃ王城並の警備らしいからな」
五大騎士団が詰めてますし、カミラ達もいますからね。
「他に呼ばれているのは…陛下とブルーリンク辺境伯、だけですか」
「どういうつもりなのか知らんがな。我とブルーリンクはオマケなんだろう。ノワール侯爵さえ来るなら、な」
「しかし陛下が行くわけには行かない。理由はわかるな」
そりゃまぁ…危険だって解り切ってるのに国のトップがノコノコ行くわけに行かないのはわかるけども。
「そうなると誰かが代わりに代表として行く必要がありますが…残念ながら私ではは少々格が足りない」
まぁ陛下の代わりとなるとそうなるのか。ローエングリーン伯爵家は王国の重鎮だがブルーリンク辺境伯も行くとなると陛下の名代としては少し足りない、か?
「となると…アイが?」
「あ、ウチ?まぁ…そうなるのかなぁ」
「うむ。アイが我の代わりだ。だがベルも行く」
「「「「は?」」」」
え…ベルナデッタ殿下が?今まで社交も公務も殆どしてなかったんじゃなかったっけ?外交デヴューには少々危険が過ぎると思うし。
「ママ…本気?」
「……ハァ。仕方ないだろう。それが変わった予知の内容だ。そうなんだろう、ベル」
「うん。私もドライデンに行かなきゃいけないみたい、船で」
「船?」
「えっとね…」
細かい部分はわからないが。ドライデンから船に乗って帰って来る予知夢を見たそうだ。誰が一緒に行くか、全てはわからないが少なくとも俺とアイ、五大騎士団の団長、ブルーリンク辺境伯は一緒だったと。
「それが大団円のハッピーエンドなのかはわからないけど、少なくともジュンが死ぬ未来予知が変わったのは確かなわけね」
「そういう事だ。それでもベルが行くのは我は反対したんだがな…ベルがどうしてもと聞かなくて…」
「うん。絶対に行く。私もお兄ちゃんを助けたい」
お、おう…あんまりかまってあげれてないけれど、それなりに慕ってくれてるらしい。
えっと…飴ちゃん食べます?あ、いらない?
「餌付けしようとするな…クッキーいるか?」
「へ、陛下……んんっ。話の続きだが。船で行くとなると少し問題があってね」
「というと?」
「ぶっちゃけ船が無い」
「それ大問題ですやん」
そもそもドライデンに行くのって陸路が主流だと思ってたけど。船でも行けるもんなの?
『行けるで。ほらいつぞやの国境の要塞。あっこの傍に河があったやろ』
ああ……あのワニが居る河な。確かドライデンも船を用意してた。
「ブルーリンク辺境伯家所有の船は軍船ばかりでね。定期的にメンテナンスに出してるんだが…ちょうど時期が被っている。そもそも式典に参加するのに軍船で行くというのがね」
「となると……王家所有の船とかですか?」
「あれば話は楽だったんだがな。あの河に出せる船は無い。あの河は大きく河港都市に船を置いてる貴族も居るが…それほど大きな船はない。漁師の船に乗せてもらう、というのは論外だしな」
「では…どうしろと?」
「うむ……あの河は途中で別の河と合流する。その河は帝国と繋がっていてな」
「……まさか」
「どうせ一緒に行く事になるんだ。帝国に船を出させろ。魔法船なら遡上も問題無い。ブルーリンク辺境伯領まで迎えに来させればいい」
えらく簡単に言ってくれますけども。その辺りの交渉は誰が?あ、俺っスか……




