第314話 詰められました
「全員揃ったな」
「では説明して貰おうか。言っておくが今回は簡単には引き下がらんぞ」
「「「……」」」
はい、いきなりですが尋問されてます。
尋問されてるのは俺とアニエスさん。五大騎士団団長が尋問官役。ソフィアさんは尋問の返答内容を知ってるのでこちら側なのだが。
事の始まりは…十二分に考えられる事態だったので迂闊だと言われればその通りなのだが。
五大騎士団との訓練が始まって三週間目に入った頃。それまで数人だった人数が一気に増大したのだ。
何の人数か。それは何かと問われれば。
「スキルや新たな属性魔法の適性を獲得した者が僅か三週間で三百人以上。これはハッキリ言って異常だ」
「しかも五大騎士団の団員だけじゃない。ノワール家の使用人や騎士、兵士まで何らかの力を獲得している」
「冒険者はまだしも孤児院の子供まで…どういう事か説明してください」
という事で。
『海の勇者』エルリックの能力は常時発動してるらしく。
二週間くらいまでは新たな力を獲得したのは数人程度にとどまったのが三週間から一気に増加。
ノワール家の騎士や使用人、アム達やルー達を含めて三百人を超える人間が新たな力を獲得した。
団長達が言ったようにこれは異常で。二週間の間に数人が獲得しただけでもかなり珍しい、前代未聞かもしれない事だったらしい。
そんな事態になればどういう事かと調査に乗り出すのが自然で。
そしてこの屋敷で何か知ってそうな人物と言えば、俺とアニエスさんになる。
で、団長達に捕まって尋問されてるわけだ。戦力増強を狙っていたので狙い通りと言えばその通りなのだが。
迂闊だった。
「…すまないが、言えない。これはノ…いやローエングリーン家の重大な秘匿事項なのでな」
「いや、話してもらう。これは王国全体に寄与すべき事だ」
「それが出来ないなら出来ない理由を説明すべきだ。言えない話せないでは誰も納得しないし、引き下がらないぞ」
「それに陛下に報告をする義務が我々にはあります。陛下に対しても言えないと話すおつもりですか?」
…言えないんだよなぁ。エルリックの事がバレたら誘拐…いや王権で強引に連れて行かれる可能性も。
陛下はそんな事しないと信じたいが。
「…陛下には私から報告しよう。それでこの話は終わりだ」
「…そうは行かない。わかっている筈だろうローエングリーン伯爵」
「五大騎士団の戦力増強。結果だけを見れば喜ばしい事だ。だがな、バランスという物があるんだ」
「白薔薇騎士団が77人。赤薔薇騎士団が60人。青薔薇騎士団が48人。黒薔薇騎士団が63人。黄薔薇騎士団が一番少なく38人です。これはよくない事かと」
元々、五大騎士団の中では白薔薇騎士団が最強と呼ばれてはいた。
だが五大騎士団の戦力は同程度なのが望ましいらしい。
別に五大騎士団の仲が悪いわけではない。運用上の問題で五大騎士団の戦力にバラつきがあると使い辛い。
それに俺は知らなかったが五大騎士団は強さではなく出身地で所属する団が決まるらしい。
戦力の均等化を図るなら出身地で割り振るなんてやめたらいいのにと思わなくもないが、戦力の均等化がされないと重宝される騎士団とされない騎士団が出てくる。
そうなると出身地の貴族…例えば青薔薇騎士団は王国西部の出身ばかり。
青薔薇騎士団が重宝されないと西部の領主達が騒ぎ立てる…なんて懸念もあるらしい。
逆に王国北部の出身者ばかりの赤薔薇騎士団が重宝される、つまり戦力が頭一つ抜けた形になると依怙贔屓だとか北部領主達は反乱を企んでいるだとか喚く馬鹿が出たりと。
五大騎士団のパワーバランスがとれていないと面倒な事態になりやすいのだと。
団長達はそう言いたいわけだ。どうやら前団長からの引き継ぎで必ず言われる事の一つらしい。
因みに白薔薇騎士団は王国中央部。黒薔薇騎士団は王国南部。黄薔薇騎士団は王国東部の出身者で構成されている。
「それは承知している。その上で言えないと言っている」
「だからそれでは引き下がれないと言っている」
「今回は陛下から箝口令が出ているわけではないんだろう。なら話せないというのはローエングリーン家の問題。だが我々は王国の為だと言っている」
「……」
王国とローエングリーン家。どちらを優先すべきか言うまでもない、と。
アニエスさんも当然わかってる。しかし、だ。赤ん坊のエルリックを人身御供にするわけにはいかない。
こうなる事を予想出来なかった俺にも落ち度があるし。何よりエルリックはノワール家預かり。
ならば俺がどうにかせねばなるまい。
というわけで。何か案はないか相棒。
『あ、そこでわいなんや…まぁ情報を小出しにするしかないんちゃうか。全く出さへんから団長らは納得出来へんわけで』
そうだな…問題はどこまで開示するかだな。ふむ…しかし、そんな事はアニエスさんも考えてそうだが。
『そら考えとるやろうけどマスターの迷惑になるって思うてるんやろ。相談する間も無くこの事態やからな』
あー…それなら尚更俺が助け舟出さないとな。
「俺から説明しますよ。全ては話せませんが」
「…ほう?」
「やはりノワール侯爵が絡んでいるのか」
「やはりって……俺から言える事は一つ。この屋敷に居る間は強くなりやすい、それだけです。何故、どういう方法でかは言えません」
「……それだけで納得しろと?」
納得してくださいよ。無視出来ないのはわかるけど問題視する事でもないっしょ。
そもそもな話、強くなるって事態にデメリットは無いんだから。後々出て来る問題、不満は副次的なものに過ぎないのだし。
「…仕方ない。今はそれで納得してやる」
「これ以上詰めてノワール侯爵に嫌われるのは避けたいからな。娘達に恨まれそうだ」
「ノワール侯がそう仰るなら納得します」
…なんだかなぁ。望んだ結果ではあるんだけど、俺が言えばアッサリ引き下がるなら、アニエスさんにももう少し手加減してあげてよ。
「だが…レーンベルク団長。察するにお前も知っているな?」
「…ええ。私とローエングリーン伯爵はジュン君とは長い付き合いですから。それなりに秘密を共有してます。婚・約・者ですし」
「ぐっ…」
…何故そこで婚約者アピール?正式に婚約した覚えは無い…とは今更言わんけども。
「…レッドフィールド団長は何もないんですか。ずっと黙ってますけど」
「聞きたい事が一つだけ。此処に居れば私も新しいスキルが手に入る?」
「……可能性はあります。確実にとは言えません」
レッドフィールド団長はギフトだけでなくスキルも持ってるらしいが。
スキルもギフトも一人一つ限りと決まってるわけでは無い。
ギフトは後天的に手に入るものではないが。
「ならいい。私は強くなれるならそれでいい」
「…ま、極論そうなんだがな。ローテーションを考え直す必要が出て来たな」
「だな。面倒な事この上ない。ただでさえ……おい、窓を見ろ」
突然、ポラセク団長が低い声で警告しながら武器を手にする。
言われた通りに窓を見ると……
「…煙?」
「いや、これは…霧か?」
窓の外は白い煙がモクモクと…火事ではなさそうだが。
「全員、武器を取れ。誰か!外の状況を報せろ!」
「ジュン君、私達の中央に」
「私から離れないでください、ノワール侯」
突然の事態に慌てる事無く警戒を強め、対応出来るのは流石は団長と言った処か。
でも、これは敵襲…じゃないよな、メーティス。
『せやな。敵襲ではなさそうやで。穏やかな雰囲気でもないけど。因みにアレは水蒸気やな』
……水蒸気?何で水蒸気が庭一面に広がってるんだ。
『それはやな…あぁ、来たで。事情を説明出来るんが』
「ウフフ…お待たせ…来たわよ…」
「…レティシア?」
このタイミングでレティシアが来る…つまりは精霊の仕業か。
でも何で?




