第313話 希望が持てました
「ふぅぅぅ…………」
わかってた。五大騎士団の団長と言っても一般の女性と大きく違わない価値観、世界観でしかないという事は。
ソフィアさん達でわかってたんだ。
「どうかしましたかノワール侯」
「何を俯いている?」
「…震えてる?」
「なんだ、トイレでも我慢してるのか?休憩時間中なんだ、早く行って来るといい」
「服を着ろぉぉぉぉぉぉ!!!」
此処は外ぞ!?庭ぞ!訓練で、模擬戦で汗をかいたからって裸になるな!
此処はヌーディストビーチちゃうぞ!
「特にイエローレイダー団長!あーたはもっと厚着しなきゃ駄目でしょうが!」
「えぇ…私だけですよ、シャツを着てるのは…他は皆裸なのに。私だけ何故厚着を」
「殆ど隠せてないでしょうが!」
超爆乳がタンクトップ着たってほぼ見えてんだよ!汗で透けてんだよ!かえってエロエロなんだよ!ポッチの膨らみもわかるんだよ!
あーた以前乳丸出しして泣いてたやん!なんで今は平気なのよ!
「やれやれ…ノワール侯爵の初心さは相当だな。苦労してるだろう、レーンベルク団長」
「ええ、まぁ…それなりに。でも、それが良いといいますか」
水浴びしていたソフィアさんも戻って来た。当然のように上半身裸だ。
「しかしノワール侯爵もいい加減に慣れたらどうだ。此処で我々と訓練するようになって二週間。毎日のように言ってるじゃないか」
「聞き入れてくれてもいいじゃないですか…」
そう、訓練が始まって二週間。いまだ大きな成果は…出ていない。
「今は真夏だぞ。この炎天下で厚着で訓練なぞしたら倒れるわ。実戦なら耐えるが、訓練で鎧なぞ着てられるか」
「青や白はまだましだけど私は赤でレオナちゃんは黒だしね。それにしても、あのメーティスという女…なかなかやるね」
「あぁ…アイシャ殿下も凄まじいが互角に戦うあの女…何者だ」
メーティスも最近ではマテリアルボディで訓練に参加してる。
エルリックの能力で新しい力に目覚めないかを期待しての事だが…成果は無しだ。
だが団長格になってないだけで新たな力を獲得した人は増えた。
例えば…
「よっしゃあ!そこだ!やれ!やってやれファウ!」
「埋めてよし燃やしてよしアフロにしてよしだよ!」
「ターニャ!今日は負けんじゃないわよ!」
「でもアフロなターニャちゃん、また見たいかも〜」
「アフロになれ」
「…アフロ、もう嫌!」
ファウが火と土の二属性魔法使いだったのが雷も加わって三属性魔法使いになった。
フィーアレーン公子一行のターニャさんも三属性魔法使いで国で一番の魔法使いらしい。
ファウとターニャさんは魔法で勝負をよくしているのだが今の戦績は互いに二勝二敗一分。
ターニャさんが先に二勝してファウが雷魔法を使えるようになってから先ず一勝。次に引き分けして、次に二勝目。
三勝目を挙げた方が勝者。負けた方はキャラ変をしなければならないらしい。
因みにターニャさんは二回の敗北で二回とも髪がチリチリになり二回散髪。ロングだった髪がセミロングになっていた。
「あの二人もかなりの魔法使いだな」
「三属性の魔法をあれだけの技量で扱えるとなれば筆頭宮廷魔導士も夢じゃないね」
「やたら髪が多い方はドワーフの血が混じってるのか?あいつは王国の冒険者なんだろう?」
「でしたら黄薔薇騎士団団長として宮廷魔導士に推薦しても構いませんよ」
ファウが宮廷魔導士に?…ならないだろうな。
宮廷魔導士になれば貴族籍も貰えるから大出世と言えるがファウは興味なさそうだ。
「あ。決着したな」
「ダブルノックダウン…か」
これで二勝二敗二分け。決着はまた次回だな。
で、他に新たな力を獲得したのは…
「アウウゥゥ…わほほぉぉぉん!」
「冷た!でもサイッコーに気持ち良い!」
ハティが氷風を出す能力に目覚めた。それなりに歳を重ねたリトルフェンリルなら出せる能力らしいので、エルリックの存在は関係無しの成長かもしれないが。
因みにハティの練習相手になってるのはリヴァ。ハティの攻撃を受けて冷たいですませられるのは流石はドラゴンと言ったとこか。
だがリヴァは新たな力は獲得していない。アダマンタイトドラゴンのリヴァが新たな力に目覚めたら。一番魔王に近付けると思うんだが。
戦闘にあまり関係しない力に目覚めた者も居る。
「やぁ、ジュン。訓練はどうだい。はい、差し入れ」
「クリスチーナ、おかえり。ありがと」
クリスチーナは収納スキルに目覚めた。目覚めた時はどうせなら行商人時代に欲しかったと不満を言いつつも嬉しそうに笑っていた。
差し入れの飲み物を俺だけじゃなくソフィアさん達にも収納スキルから取り出して配ってるあたり、機嫌が良い証拠だ。
「ところで私も脱ぐべきかな」
「…脱がんでいい」
「皆裸だし、いいじゃないか。暑いし」
わかるよ、暑いから脱ぎたいてのは。でも男の俺が我慢してるんだしさぁ…と言ったら反発されるから言わないが。
「ところでお客様が来ていたよ。ブルーリンク家の馬車のようだけど」
「む?カミーユが来たか」
「カミーユさん?呼んでいたのですか」
「うむ。副団長の為にな。どれ、迎えに行ってやるか」
「その前に着替えてください…」
青薔薇騎士団の副団長アズゥ子爵も新たなスキルを獲得していた。
それがまた何とも意外なスキルで。戦闘に全く使えないわけではなさそうなスキルなんだが。アズゥ子爵には使いこなす事は出来なさそうな。
だが個人的に多大なる期待を寄せている。
「ご無沙汰しておりますノワール侯爵様。お会いしたかったです」
「お久しぶりです、カミーユさん」
「ご無沙汰なのは母も同じなんだがな、全く」
何故、アズゥ子爵の為にカミーユさんが呼ばれたのか。それはカミーユさんがアズゥ子爵と同じスキルを持っているからだ。
カミーユさんが持っている分には意外性は無い。むしろしっくり来る。実はコッソリと俺に使っていたと聞いた時はどうかと思ったが。俺には効かなかったらしいので見逃す事に。
「それでアズゥ子爵は?」
「あいつは今日はジーク殿下の側付きだ。王城に居る」
「あら。丁度良いですね。早速赴いてアズゥ子爵の恋を応援して来ます」
「是非お願いします」
アズゥ子爵が目覚めた新たなスキル。それは『魅了』だ。
だが色恋沙汰に弱いアズゥ子爵は『魅了』を使いこなせず。先達の教えが必要という事でカミーユさんが呼ばれたわけで。
ジーク殿下がアズゥ子爵に魅了されれば一石二鳥。
ジーク殿下の歪んだ嗜好は矯正されるしアズゥ子爵の恋が成就する。俺の心労も軽減されるし一石三鳥と言っていいな。
是非とも成就して欲しい。陛下にもなんとかしろって言われたし、王族を魅了しても問題にしないように進言しますから。
なんなら正妃は無理でも第二妃くらいにはなれるように全力を出してもいい。
アズゥ子爵、貴女は希望の星だ!
「ああ、待て。最近のドライデンはどうだ。難民は。帝国は国境を封鎖したか」
「難民は増え続けています。関所の前に難民キャンプが出来るくらいに。帝国は国境を封鎖するつもりはまだなさそうです。可能な限りの難民を受け入れるつもりなのか難民達に国境付近に町を作らせてますね。上手いやり方です」
難民自身に町を作らせている?僅かな支援で町が一つ出来るなら帝国の利になるってか?問題も多そうな気がするが。
「それから…大体二ヶ月後に建国一年を記念した式典を開くとか。お姉様に招待状が届いていました。恐らくノワール侯爵様も招待されてますよ」
……それってつまり、決戦の日じゃね?居るんでしょ、その式典に魔王が。
「それでは王城に行って来ます。あ、今日から私も此処で暮らすのでお部屋の用意をお願いします。お姉様も近々王都に来るそうです。その時はお父様も一緒だそうですから」
「それは良いな。久しぶりに家族が全員揃う。世話になるぞ、ノワール侯爵」
……此処はブルーリンク家の別荘じゃないんですけど。
なんか余計なの増えそうなんで勘弁してくれませんかね…




