第312話 成果は出せてませんでした
「へぇ、クオンの親戚。ウチも初耳…はっ!」
「っと!…そうなのか、よ!」
「ふっ!クオン、自分の事、あんまり、話さないから、ね!」
『別に訓練中にお喋りしてもええけど。舌かみなや』
エリザベスさんの用事を済ませた翌日。今日からアイも俺の屋敷で暮らすらしい。
そして早速とばかりにアイと模擬戦をする事に。
フレイア様に何か新しい力を貰うと言っていたが、何か貰えたのか?今のところは何も変わってなさそうだが。
「あ、見たい?なら見せたげる!」
アイの服が…一瞬で変わった?全身黒で統一されたアイが一番似合うコスプレの元ネタ。例のキャラのアニメ版の服装によく似てる。
てかクリソツ。
「どう?似合ってるっしょ?」
「あぁ…結婚してください」
「…ほわぁぁぁ!ふ、不意打ちはズルいって!」
いや、だって…すげぇ好みなんですもん。やはりアイはあのキャラのコスプレがよく似合う。
「てか、それが新しい力?コスプレが新しい力ってどういう事」
「あっ、デザインはウチが決めたの。フレイア様の眷属が作った武具で超有能でね。ネックレスをつけてさえいればウチの意思で自由に変身可能。更に身体能力向上、常時治癒の効果、身体全体を薄い防御結界で覆えるし、服が破れても自動修復される優れモノ」
「何それ超すげぇ」
見た目以上に防御力があるらしい。デウス・エクス・マキナよりは劣るだろうが、それでもかなりのモノだろう。
「姫様」
「あ、クオン。終わったの?」
「はい。荷物の運び入れは全て。アシスタントも全員揃っています」
「そっか。じゃ、ジュン。これの性能を試すのはまた今度ね」
アイが此処で暮らすにあたって仕事部屋も此処に移った…のはいい。模擬戦を中断して折角の新装備を試さずに終わるのもいい。
が。
「BL物は描くなよ」
「わ、わかってるってば…これ以上叩かれたらウチのお尻割れちゃう…」
尻は元々割れてるもんだ。だからお尻を押さえながら歩くんじゃない。誤解されっだろ。
「ノワール侯爵様はそういうプレイがお好きですか」
「ほら誤解された。違いますからね。アイとはまだそんな関係じゃありません」
「そうですか…お尻には自信があったのですが。こっちの方がお好きですか」
ああ、俺はどちらかと言えばおっぱい派で。いやお尻も嫌いじゃないんだけど…ゲフンゲフン。
「そ、それより護符の方はどうですか」
「かなり久方振りですが問題ありません。時間は頂戴しますが」
クオンさんはエリザベスさんの姪らしいのでもしかしたら護符を作れるかと思い聞いてみたらドンピシャり。
エリザベスさんは俺の分しか護符を用意してなかったのでクオンさんに全員分用意してもらうことに。
一応は俺とメーティスで対策はしてあるのだが。魔王の能力が完全に解明されたわけではないし、念には念を入れておくというわけで。
「あ、お伝え忘れる所でした。お客様がお見えです」
「客?…あぁ」
そう言えば来るって話だったな。シルヴァンとレティシアが。
俺が特訓してると聞いたシルヴァンが対抗心を燃やし。
自分も混ぜろとアニエスさん経由で伝えて来た。一応は味方のシルヴァンが強くなる事は良い事だし『月夜の勇者』の能力は精神を強化してくれる。魔王の呪い対策にもなるかもしれない。
というわけで今日来る事になっていた。幸い、教師役になってくれる人は大勢居るし。問題はないだろう。
『確か五大騎士団の中にシルヴァンとの婚姻を褒美に望んだ奴がおるって話ちゃうかった?貞操…大丈夫かいな』
………この場合、シルヴァンの貞操か。………大丈夫だろ。多分、きっと。
「今日からお世話になりますよノワール侯爵!それでは早速訓練をお願いしま、す?」
「はいはーい!ノワール侯爵はお忙しいですからね!」
「私達にお任せください!」
「ささ、こちらへ!」
「シルヴァン君、ご案内〜」
………挨拶もそこそこに。あっちゅうまに拉致られるシルヴァン君。
黒薔薇騎士団と赤薔薇騎士団の数人に。あの人達がシルヴァンとの婚姻を望んだのね。
流石に他人の屋敷で一線は越えないと思うが…そもそもな話、護衛として此処に居るんだし。
つまりは仕事中なわけで。五大騎士団員が仕事中におかしな真似をしたりは…………しないよね?
『白薔薇騎士団から散々セクハラされたやろうに。もう忘れたん?それとも内心は喜んでてセクハラされたって認識ちゃうかったとか?』
……シルヴァン、どうか無事で。
「ウフフ…シルヴァンなら大丈夫よ。セクハラには慣れてるから…」
遅れてレティシア兼大精霊ルナが登場。セクハラに慣れてるって、それは大丈夫と言え………るかもしれないな、うん。
『自分も散々セクハラされて慣れてるって自覚したか?最初の頃は「このままではよくない!」とか叫んどったのに今ではポックリやし』
……慣れってこわ~い。
「ウフフ…訓練は順調かしら」
「…まぁね。今までよりは充実した訓練が出来ているよ。でも…」
「ウフフ…思うような成果は出せてないのね…」
「………」
正直に言えばその通りだ。『海の勇者』エルリックの能力で眠っていた才能が呼び起された人は…数人はいる。
しかし、その誰もがアンラ・マンユと戦える程に強くなったかと言うと…答えはNOなわけで。
せめて団長格にならないと御話しにならない。俺やアイは新たな力に目覚めてはいない。
それでも訓練を続けるしかないのだが。
院長先生とレイさんの事もあるし、少々じれったく焦って来てるのが正直なところだ。
「ウフフ…また貴方に闇が迫ってるから…焦った方がいいわよ…」
「……うん?それはまた占いの話か?」
「ウフフ…そうよ…貴方に四つの闇が迫りつつあるわ…」
…結構正確に当ててくるじゃないか、その占い。闇=魔王ってわけね………あれ?迫りつつあるって、つまりは魔王の方からこっちに向って来る?
「ウフフ…それは…どうかしらね」
………あくまで占いだから、断言は出来ないって事なのかね。未来予知に関してはベルナデッタ殿下の予知の方が断然上か。
あれから数日経ったが、予知の内容が変わったと連絡は来ていない。このままだとよくないのは確かだ。
ならばどうするか……いっそ俺もアイのように神様におねだりしてみるか?いやでも………なんとなくエロース様は何もしてくれそうにない気がする。
う~む……
「ウフフ…安心して…私に考えがあるわ…」
「……ほう?一応聞いておこうか。言ってみなさい」
「ウ、ウフフ…どうしてそんなに期待してないって顔してるのかしら……」
だって俺知ってるもん。この大精霊、実はポンコツの可能性が大だって事を。期待はすまい。それが正解だ。
「ウ、ウフフ…不本意な評価を受けているようね……いいわ、覆してあげる……勇者よ」
「うん?シルヴァン達の事か?」
「ウフフ…そうだけどそうじゃないわ…貴方が勇者になればいいのよ……そしたら……ウフフ…」
ああ~……俺が勇者になれば俺だけでなく味方も強くなる。短期間で大幅な戦闘力UPが見込めるだろうけども。
勇者になるのって大精霊に気に入られて波長が合ってないとダメなんだろ。よしんば気に入られて勇者になれたとしても、だ。超能力のように封印する事になるんじゃね。
『それは大丈夫や。マスターが勇者になったとしてやで。この世界の勇者の能力は大精霊の加護、つまりは大精霊の能力と言って差し支えないわ。大精霊の力を借りるって形になるから容量過多にはならんやろ』
そう、なのか。でも、さ。それってさ?困った事になるんじゃないかい?
『増々女から注目の的になるって?そんなもん今更やろ。とっくに天元突破しとるんやから。今更勇者になったとて誤差や誤差』
そうかなぁ……何か落とし穴がある気がするなぁ……
『まぁ本当にマスターが勇者になれるかは未定やし。今は周りにフリーな大精霊おらんしな。そこんとこルナはどうするつもりなんや?』
確かに。勇者になりたいって希望すれば大精霊が集まって来るわけでもなし。どうやって俺を勇者にするつもりなんだ?
「ウフフ…今、私と同じ闇の子達にお願いして大精霊を探させてるわ…勝手に貴方を品定めして、気に入ったら勇者にする筈よ………多分」
「その最後にボソっと多分て付け加える辺りが残念なんだよなぁ」
デメリットが無いなら勇者になってもいいけどさぁ……大丈夫かね、ほんと。




