第302話 それぞれの思惑がありました
~~ジュン~~
前回のあらすじ。
俺は救世主になるしかないらしい。
…………ならなきゃダメ?
『まぁまぁ、そんな嫌そうな顔しない。それに君、偶に様子見てたけどさ。放っとけばいつまで経っても子作りしなかったんじゃない?なんだかんだ理由付けて。これで踏ん切りがつくでしょ。というか、よく我慢してるよね、その世界で』
………見透かされとる。
いや、だって……子作りしたら100%妊娠させるマンなのよ、俺。だと言うのに無責任にバンバン子作りしていくってのもなぁ。
『だぁからぁ。それが本来の使命なんやって。男が生まれたら手厚い補助が受けられる世界なんやって。そこらへんの町娘に手を出して孕ませても男が生まれたら感謝される世界なんやって。何回も言うけども!』
何回聞いてもとんでもない世界だよなって感想なんだよ!
『ま、僕からの話は以上だよ。それじゃ――』
「あ、待ってください。まだ聞きたい事が」
『――何かな?』
「……魔王を倒すだけでいい、という話ですが。倒す、というのは……殺す、という事ですか」
『うん、生物が相手ならそうだね』
「………殺す以外の方法は?」
『無いかなぁ。魔王が……何だっけ、魔王の紋だっけ。他の魔王の紋を奪えば、奪われた魔王は殺さずに済むだろうけど。奪うって事がどういう事かはもう知ってるよね』
……相手を喰う事、か。アレは暴食の魔王ならではの手段、というわけではないらしい。
「…エロース様の力でなんとかなりませんか」
『殺したくない相手でもいるのかい?悪いけど僕は直接的な手助けは出来ないんだよ。こうやって助言したり情報を与えるのもグレーゾーンなんだよね。………やりすぎると試練じゃなくなっちゃうし』
「…なんです?」
『いやなんでも。兎に角、僕を当てにはしないで欲しい』
一部聞き取れなかったが……エロース様の力は借りれないらしい。だけどレイさんを殺さずに済む方法を見つけないとな。それだけは諦めるわけにはいかない。
『話はもうないかな?』
「まだあります。残りの魔王の数は四体で間違いないですか」
『うん。それは間違いないよ』
「……本当に?」
『疑り深いなぁ…僕、君に嘘ついた事ないんだけど』
どうだかなぁ。嘘は無くても隠し事はありそうなんだよな…突っ込んでも言わないだろうから置いておくが。
「別世界の魔王って七つの大罪と関係してるんじゃないんですか?別世界にも七つの大罪という概念があるのならですけど」
『七つの大罪?……ああ~あったね、そんなの。今回は関係……あるのかな?色欲と暴食が居たんだから他のも居そうだけど…だとしたら一つ足りないね?』
口ぶりからして何が居ないのかまではわからないし、本当に七つの大罪と関連があるのかもわからないって事か。
『少なくとも現時点では残り四体なのは間違いないよ……もう終わりでいい?』
「あ、ウチからも一つ。フレイヤ様に連絡するように伝えてくれる?」
『ええ…僕を使いパシリにするつもり?しかもフレイヤって』
「伝言頼むだけじゃん。いいでしょ、それくらい」
『はいはい………じゃあね』
そこでエロース様の声は聞こえなくなった。
電話やアーティファクトと違って終わった感が無くて、まだ会話通じるのか通じないのかいま一つわからんな。
「で、フレイヤ様に何の用事あるんだ?」
「今のウチじゃ魔王に対抗しきれないなって。少なくとも魔神になられたら正直お手上げ。だから何かが欲しいなってね」
……アイに無理をさせるつもりは無いが、アイの安全を考えたらもらえるにこした事はないな。
ソフィアさんやアム達の装備も可能な限り強化しておくか。
~~サーラ~~
「――ふぅ。まさか本当にノワール侯爵が使徒だったとはね」
「使徒ではなく救世主ですな、姫様」
「同じ事よ。エロース様が選んだ存在なのだから。あと陛下と呼びなさい」
使徒だろうと救世主だろうと漏らすわけには行かないけどね。それに実際にはまだ世界は救われていないわけだし。
「で。あと四体の魔王、ね。それについての情報は何かあるかしら」
「ありませんな。そもそも魔王についての情報が不足していますし。アインハルト王国を襲ったという化け物の情報も大したモノはありませんな。ただ――」
「ただ、何よ」
「魔王という存在が世界を乱す存在であるのならば、異常事態が起きてる国や治世が乱れてる国、謎な事件が多発してる場所等を調べればよいのではないですかな」
なるほど。となると現状で一番怪しいのは――
「ドライデンね」
「ええ。あとは此処ですな」
「…此処?」
「姉さん、ベッカー辺境伯が爆発した事、忘れてないか」
「アレも原因はよくわかってないままですから」
そう言えばそうだったわね……その後のノワール侯爵のヌードで記憶が一部吹き飛んでたわ。
「で、姉さん。ドライデンが怪しいって話みたいだけど。あの国で何かあったのか?」
「内乱後、特に大きな問題もなく復興されていると聞いていましたが」
「内乱後、暫くの間は、ね」
「最近はそうでもない、というわけでしてな」
荒れ放題…ではないけど、アレじゃ近い内に崩壊するわね。
そして国土が隣接してる帝国と王国に難民が押し寄せる事になる。その対策も必要ね。
「というわけで、ドライデンの動きにも注意を払いなさい、ジェノバ」
「はい、姉さん」
「ん?ジェノバが何かするのか?」
ああ……カサンドラは王国に行ってたからまだ話していなかったわね。
「実はね、カクカクシカジカ」
「ま、マジで!?」
「マジよ。ま、本人の許可は貰ってないんだけど」
「ま、断られる事はないでしょうな。マルレーネ殿の事もありますし」
魔王とドライデンの対処だけでなく、最重要事項もちゃんと進めないとね。
絶対にあきらめないわよ、ノワール侯爵。うふふ………
「あ、姫様。コレ、ノワール侯爵の写真です。明日は帝都に帰るのですからハッスルはほどほどに」
「家臣の屋敷でハッスルするか!ありがとう!」
「御礼はちゃんと言うんだ…」
全く………………………ジュルリ。
~~エスカロン~~
「……レイ殿」
「エスカロン殿か。何か御用ですか」
憤怒の勇者…レイ。元神子の彼を拾ったのはいい。戦闘において素人だったが彼の能力は使える。
だがしかし、です。
「魔獣を用意するのも簡単ではないのです。少し自重していただけますか」
「……仕方ないですね」
『ケチくさいでござるなぁ』
彼が強くなる為に支配の魔法道具を使った魔獣達。実戦での戦闘訓練を希望した彼の為に用意したのですが……必要なのは理解出来ますが、コストがかかり過ぎる。
「まだ訓練が必要という事でしたら御自分で狩に行かれてはどうです。護衛は部下を付けますし、安全に移動できるように手配もしましょう」
「……それもいいかもしれませんね。どう思う?」
『よいのではござらぬか。主殿もかなり腕を上げたでござるゆえ』
………あの剣、いえ刀でしたか。何度見ても不思議です。喋る武器とは異世界には不思議な物があのですね。
可能なら解体して構造を調べ複製してみたいものです。確実に売れるでしょう。
「…では、私は仕事に戻ります。此処の後片づけは――」
『いつものように拙者がやっておくでござるよ』
「やるのは僕だろう…」
『拙者の力でござるゆえに』
刀を一度振るっただけで魔獣の死骸がチリとなって消えた……素晴らしい。
「フフ……時が来れば存分にその力を振るってくださいね。それでは私はこれで」
「ええ、お疲れ様です」
『働き者でござるなぁ』
働く事が私の力になるのでね…………フフ、もうすぐですよ、ジュン様。貴方に相応しい国がもうすぐ出来上がります、
その時は、貴方を――




