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第291話 想定外でした

~~サーラ~~


 はじめましてな人ははじめまして。御久しぶりな人は御久しぶり。


 サーラ・テルニ・ツヴァイドルフよ。


 今日は愛しいアインハルト王国のジュン・レイ・ノワール侯爵とのお茶会の為にベッカー辺境伯の領都メールスに向かって移動中。明日には着く予定。


 天気は快晴、とても暖かで気持ちのいい日。きっとお茶会は何もかも上手く行くわね~。ひょっとしたらそのままゴールインしちゃうかも~。


「順調ね~」


「…そうですね。姫様の仰った通りコソコソと移動しなくても襲われる事も妨害される事もありませんでしたな」


「陛下と呼びなさい。そうでしょ。だって私を害したり妨害したりしたらノワール侯爵が帝国に来なくなっちゃうもの。前回でノワール侯爵に一目惚れした人間は多い。貴族・平民問わずね。私に媚びを売ってでもノワール侯爵と接触する機会が欲しいってヤツばっかりよ。オホホ」


「逆に言えばノワール侯爵との縁が切れた時は大ピンチになる訳ですが…そろそろ現実を見ましょうか、姫様」


「……………陛下と呼びなさい」


 現実…そうね、そろそろどうするか考えないとね……ハァァァァ……


「……何なのよアイツら!何だって着いて来るわけ!?何なのよこの大行進は!ちょっとした軍みたいになってるじゃない!」


「姫様が目当てなのではなく…ノワール侯爵が目当てなのでしょうな」


「お茶会の情報が洩れてたって事!?」


「洩れてたのでしょうなぁ」


「何でよ!余計な邪魔が入らないように細心の注意を払っていた筈でしょ!」


「なら堂々と進むのではなく以前のようにお忍びで移動するべきでしたな。姫様がノワール侯爵とお茶会の約束をしていたのは公になっていたのはわかっていたでしょうに」


 ぐっ…それはそうだけど、お茶会の日取りなんかは秘密にしていたのに……くぅ!


「姫様の動きを張っていたのでしょうな。若しくは妹様方の方から洩れたかベーカー辺境伯から洩れたか。一人に洩れたらそこから更に拡がって…この結果というわけですな」


 …今回、妹達もどうしてもというので全員参加。


 だから近衛騎士団全員を連れて……全員を連れて来る必要は無かったけど全員が参加希望した為に近衛騎士団長が認めて連れて来て…招待してないのにメールスに向かう貴族どもが護衛を連れてるしで。


 この集団の総人数は既に……四桁に達してるわね。


「何なのよ、この数は……どこから湧いて出たのよ……」


「百に及ぶ数の旗がありそうですな。あの家紋は……アーレスマイアー辺境伯のものですな。大物が参戦してますなぁ」


「…軽く言ってんじゃないわよ」


 帝国の北部国境を護るアーレスマイアー家が南部のベッカー辺境伯領に誘われてもいないお茶会の為に来てんじゃないわよ……大丈夫なんでしょうね、北部は。


「他にも……おお、アレは軍の重鎮ヴァイゲル伯爵ですな。普段はあまり社交をしない家なのですが珍しい事で。我々のすぐ後ろが…おっほぉ!娘ばかり十人も産んだ事で家督争いが熾烈を極めているケプファー侯爵家ですな!馬車と護衛の数からして当主と娘達全員が来てそうですなぁ!生で姉妹バトルが見れそうですなぁ!ハッハッハッ!」


「呼んでない!そんな奴ら呼んでないわよ!」


 今回のお茶会には私達と場所を提供するベッカー辺境伯とその係累だけ!その他の有象無象は呼んでないわよ!


「有象無象……まぁ、宰相という立場でも聞き覚えのない見覚えのない家名家紋も沢山ありますが。準男爵や男爵なんて、それこそ覚えきれないほどいますし。後方には家紋の無い馬車もありますから、どこぞの商会も来てるようですしなぁ。しかし有象無象などと言ったのがバレては面倒ですから、注意してください姫様」


「そんな事わかってるわよ……あと陛下と呼びなさい」


「それで、どうされますか。この分では既にメールス入りしてる者も多数いるでしょうし。お茶会と呼べる規模の集りでは収まりがつきそうにありませんぞ」


「わかってるわよ……」


 招待してないのに参加を認めたら次回からも飛び入り参加を認めるしかなくなってしまう。かと言ってこれだけの貴族を無下にしたら後々の反発が恐ろしい。


 しかし全員の参加なんて認められるはずもなし……どうしよう。


「…宰相、何かアイディアはある?」


「そうですなぁ…アーレスマイアー辺境伯やヴァイゲル伯爵といった大物は参加を認めてしまいしょう。恩を売る形で」


「……それで?」


「恩を売って、盾になってもらいましょう」


 つまり……アーレスマイアー辺境伯達にその他大勢をブロックしてもらうのね。


「ええ。アーレスマイアー辺境伯らにその他大勢の参加を諦めさせましょう。本来なら招待者(ホスト)である姫様かベッカー辺境伯がやるべきことですが……姫様は大手を振って出歩けるようになったばかりですし、ベッカー辺境伯は……これ以上は胃に穴が空くどころか胃が無くなってしまいそうですからなぁ」


「………そうね」


 私も胃が痛い時あるし、わかるわぁ。ベッカー辺境伯には良く効く胃薬を差し入れしましょ。


 そして翌日。メールスのベッカー辺境伯邸に着いた私達の前には想定内だけど想定外の事態が待っていた。


「こ、これは……」


「街に入った時から覚悟していましたが……これは想像以上ですな。数えるのも馬鹿らしくなりますな」


 ベッカー辺境伯邸に大勢の貴族が押しかけいる事は想定出来た……でも、まさか此処までとは。


「我々の大行進……その倍は軽く居ますな。他国の貴族が参加する、言ってしまえばそれだけのお茶会にこれほどまでの人数が押しかけるとは。いやはや、ノワール侯爵の人気は大したモノですなぁ」


 一体何千人居るのかしら…というか、こいつらも諦めなさいよ。どう考えてもこれだけの人数が参加出来るわけないでしょうに。


「しかし、これでは中に入れそうにありませんな。姫様、どうされ…ん?」


「皇帝陛下、宰相閣下。ただいまベッカー辺境伯の者が参りまして。裏口から入って欲しいとの事ですが…」


 馬車のドアを開けて近衛騎士団長がそう告げて来る。本来なら皇帝を裏口で迎えるなんて無礼極まりないのだけど。


 この状況じゃ仕方ないわね。


「構わないわ。誘導に従いなさい」


「はっ」


 それにしても……こいつら何処に泊まるつもりなのかしら。メールスは大きな街だけど、これだけの人数が泊まれる程、宿の数は無いわよ。


 ベッカー辺境伯邸には元々の招待客が泊まる予定である程度の余裕はあっても既に埋まってるでしょうし。


 最悪、街の外で野宿になるわよ…わかっているのかしら。


「ああ!陛下!ようやく来やがりましてございますかこんちくしょう!もう限界です!早く速く助けてくださりやがれですよ!」


「……皇帝の私に無礼な事を言ったのは流してあげるから、落ち着きなさいベッカー辺境伯」


 屋敷に入った途端にベッカー辺境伯に詰め寄られる……皇帝の私に対してよ?余裕なさすぎじゃないかしら……わかるけど。状況からして切羽詰まってるのはわかるけど。


「もう三日はこの状況が続いているんですよ!一度追い帰しても翌日には来る諦めの悪い人間ばかりで!どーして私がこんな事に巻き込まれなきゃいけないんだこんにゃろう!どいつもこいつも上から目線で物言いくさって!たかが子爵如きが辺境伯の私に偉そうに物言ってんじゃねー!」


 ……キレてるわね。普段は弱気に見える、実際弱気なベッカー辺境伯が此処までキレッキレになるなんて…相当腹に据えかねる事があったのね。


「わかったから落ち着きなさい。私も応対を手伝うし、対応策も考えて来たから」


「お願いします!面会の申請は後を絶たないし順番待ちの整理券まで配る始末なんです!家臣達だって働きづめで!このままだとお茶会の準備にだって支障が…いえ、もう支障が出てます!準備に遅れが出ているんだ迷惑ってもんを考えろ木っ端ども!」


「落ち着きなさいってば!はい、これお土産!」


「もがっふ!もぐもぐ…」


「甘い物でも食べて落ち着きなさい…全く」


 それにしても確かにこの状況は良くないわね。こんな状況が三日も続けば嫌になるわよね……次回はなんとかしないとベッカー辺境伯が倒れ……いえ死んじゃうかも。


「もぐもぐ…ごっきゅうん。失礼しました、陛下」


「個性的な咀嚼音ね…いいわよ、赦す。早速手伝うわ。私は高位貴族の相手をする。宰相、貴女も手伝いなさい。ジェノバとガブリエラ、ザビーネにも手伝わせましょう」


「仕方ありませんな。手早く行きましょう」


「あ、御待ちを。先に会って頂きたい御方が居るのです」


「ん?誰よ」


「フィーアレーン大公国公子マルレーネ・カーヤ・フィーアレーン殿です」


 ……………………………………は?


 はあぁぁぁぁぁ?

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[一言] うんまあなんだ イ㌔
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