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第287話 まだ生きてました

「お、おお……やった?」「やった、な?」「ノワール侯爵様の勝利だぁぁぁぁぁ!」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」


 上空で胴体が半ば吹き飛び、上半身と下半身に別れたアンラ・マンユが落ちて来るのを見て、五大騎士団が歓喜に沸く。


 で、勢いのまま俺に向かって来ようとするが……


「って、おおい!ジュン!終わったんだから結界解けよ!」


「これじゃハグが出来ないよぉ!」


「壁は不要」


 アム達と同じ事を言ってる声が360度全方位から聞こえて来るが…まだダメだ。


 何せ…まだ生きてるよな、アイツ。


『まだ、な。もう再生は出来てへんし、後は…朽ちて行くだけや。でも化け物やしな。イタチの最後っ屁なんて誰ももらいたないやろ。用心はしとかな』


 だな。無いとは思うがあの状態でも誰かを喰えば回復……なんて事もあるかもしれん。


 しかし、頭痛が治まらんな…もう超能力は使ってないんだが。


『まだ続いとるんか?そんな長時間つこうてないのに…あんまり便利に使える能力では無さそうやな。その辺は要検証…っと、マスター』


 ドサドサッ、と。アンラ・マンユが地面に落ちた、


 背中にある羽は残っているのだが自由落下でほぼ垂直に落ちて来た事から、もう飛ぶ力も残っていないようだ。


「……でも、生きてるな。まだやる気か?」


「ぐぐ……あ、当たり前だろ。僕は魔神……身体が二つに別れたくらいで死んだり――」


 言葉の途中で。腕の力で起き上がろうとしたアンラ・マンユ。だが、その腕が灰のようになって崩れた。


 遺灰よりも真っ白になって。


「な、なんで!僕には再生能力があるのに!……あっ」


 叫び声を上げるアンラ・マンユの視界にも映ったのだろう。下半身が既に完全に崩れて消え去っているのが。


 そして悟ったのだろう。全く再生しない己の身体を見て。


 アンラ・マンユはようやく、全てを諦めた顔をした。


「ハハ……僕の負け、かぁ……あ~あ……いいよ、今回は僕の負け。認めてあげる」


「……今回は?」


「うん。あ、僕が負けを認めるのが意外?ゲームの外に出てからは負けた事無いけど、ゲームじゃ何回も負けてたからねぇ。負ける事には慣れてるんだよ」


「違う。今回はってどういう事だ。まるでお前に次があるかのような物言いだな」


「そりゃあるよ!さっきも言ったように僕は何回も負けてるんだよ。何回も死んでる。でも一日もすれば完全復活さ。復活したら次こそはお前を――」


「お前はもう復活出来ない。次は無い。お前は今日、此処で。完全な死を迎える。確実にな」


「殺して……え?」


 こいつ……自分は死んでも復活すると思い込んでいたのか。


 だがそれはゲームの中での…プログラムの中での話。現実世界に出て来た時点で不死性は失われている筈だ。


「少なくとも今のお前は以前のお前とは別種の存在。ゲームの中に居た時と同じようになると思えないな。本当はお前自身、わかっていたんだろう。だから俺に恐怖を感じ、逃げる事を選択した。死んだら次は無いって事を本能で理解していたからだ」


「あ……」


 会話の最中もアンラ・マンユの身体は崩れていく。その崩れていく自分の身体を見て、アンラ・マンユの顔は恐怖に歪んでいく。


 此処に来てようやく、ようやっと。自覚したようだ。


 本当の死が迫っている事を。


「い、嫌だ!死にたくない!僕はまだ死にたくないんだ!どうして……どうして僕が死ぬんだよ!僕はまだ……僕は何にも悪い事なんてしていないのに!」


 赤ん坊を殺した事は悪い事だと認識したわけじゃなかったのか。


 …こいつが何故ゲームの世界から出て来れたのかはわからない。こいつの人格は所詮はプログラムされた事で人間が設定しただけの事なのかもしれない。


 だがやはり…本質は悪なんだろうな。アンラ・マンユ(悪意)の名に相応しく。


 生まれながらの悪…か。こいつにはカミラに語った俺の性善説は…真っ向から否定されてしまうな。


 ああ、そうか……こいつとは絶対に相容れないんだ。種族とか、人間とか、化け物とか、そんな事ではなく。もう、根本から、根源から。お互いに相容れられない存在なんだな。


 アンラ・マンユがどれだけ人間を理解したとしても、決して。


「ね、ねぇ!たすけて……たすけてよ!僕はそんなに悪い事してないでしょ!だって人間なんて放って置いても増えるじゃないか!そりゃ元居た世界の人間は絶滅させちゃったけど……お前には何の関係も無い人間だしいいでしょ!ねぇ!」


「この期に及んで出て来る言葉が謝罪ではなく言い逃れ……やはり、お前とは相容れない。いや俺だけじゃなくこの世界と、だな。…罪の意識が無いのならせめて、死に怯えながら死ね。怯える事すら出来なかった赤ん坊の分まで怯えながら、な」


「そんな……僕、は…ただ…楽、しく……ぼ、く……は……」


 やっと死んだか……化け物は最期まで化け物らしくあって欲しいな。灰になって崩れていく姿は人間のモノではない。ないが…人間に近い姿で恐怖に怯え涙ながらに救けを請う姿は……心に嫌な陰を落とす。


 例えどうしようもない死で救けるに値しない存在だとしても。


「……でも、終わったな。後何人、同じようなのが居るのか知らないが、とりあえずは――」


『マスター、まだや。なんかおるで」


 ――は?なんかってなんだ。何処に何が居るって……


『アンラ・マンユの灰の中や。そのこんもりとした灰の山の――ああ、出て来たで』


 これは……人間か?人間の…胸から上、下半身の無い人間の死体か。それも裸。そして…男か。


 なんだって男の死体がアンラ・マンユの灰…死体から出て来……もしかしてこいつ、色欲の勇者か。


『そうやろうな。でもマスター、こいつはまだ生きとるで。死体ではないわ。まだ、な』


 生きてる?この状態でか…あ、でも…こいつもアンラ・マンユ同様、身体が灰になって行ってる…放って置けば死ぬ、な。


 ……メーティス。


『まさか救けるつもりなんか?ここで生きながらえても地獄を見るだけやと思うで。ちゅうか王国の法で死刑になるんは間違いないやろ』


 …………そう、だな。殺された赤ん坊の事を思えば生かすべきじゃない、よな。


『そうや。それにこいつはもうどうにもならん。回復魔法じゃたすけられんわ。可能性があるとすればマスターを治したベルナデッタの力、やな』


 …アレか。確かにあの力なら……だけど無理っぽいな。


『ベルナデッタに命令とか出来へんしな。お願いは聞いてくれそうやけど……周りが止めるやろ。なんか疲れてるっぽいし。消耗の大きい力なんかもな』


 俺の超能力と同じか……やっぱり、こいつにはこのまま…………なぁ、こいつ誰だ?なんか見覚えがある気がするんだが…


『ん~?どれどれ…………ああ~なるほどなぁ。マスターに恨みを持つ男なんて誰やろって思うてたけど。こいつやったら納得やわ』


 ああ、そう言えばそんな事をアンラ・マンユが言ってたな…で、誰よ。


『こいつはやな…ちょい待ち。眼を覚ましたみたいやで』


「う、うぅ……俺様は………き、貴様は!ジュンか!」


 ん~?やっぱり知り合いか。だがわからん。誰だよ、お前は。


「貴様のせいで………貴様のせいで俺様は!」


 そんな眼で見られてもな…そこまで恨まれるような事を誰かにした覚えはないんだが………メーティス、教えてくれ。誰なんだこいつは。


『マイケルや。十年前、マスターに決闘を挑んで負けてエロース教本部に送還されたドアホウ神子の』


 ………………………………………………………………ああ。

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