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第280話 それぞれの戦いが始まりました

~~ティータ~~



 初めて彼の事を聞いた時には何の興味も無かった。


「団長、聞きました?ノワール侯爵家が再興されるって」「それも男性当主で超が付く美少年だとかなんとか!」「本当なんですかね。団長は何か聞いてます?」


 どうでもいいと思った。私も伯爵家の人間だから貴族としての付き合いはするかもしれない。でも、それだけでしかない。


 そんな事よりも今日の夕食の方が気になるもの。


「あ~…ま、団長はそうかもですね~」「なんでしたっけ。子供の頃、男の子に泣かされて以来、男が苦手なんでしたっけ」「それじゃ困るでしょ。治した方がいいですよぉ」


 苦手じゃない。興味が無いだけ。


 そう思ってた。


「面をあげよ」


「ハッ…」


 彼を初めて見たのは叙爵の儀、彼がノワール侯爵になった日。


 あの時、彼を初めて見た瞬間。私の中を何かが走り抜けた。次には祝福の鐘の音が何処からか聞こえて来た。


「うむ。イエローレイダー伯爵はどうだ?」


「はっ。事実ならば我が騎士団に加入して欲しいほどです」


「…それだけか?」


「はっ。それだけです」


「…そうか」


 違います。嘘です。本当はもっと色々言いたいんです。でも上手く言葉に出来そうにないしボロが出そうで怖いんです。


 と、あの時は黄薔薇騎士団団長としての威厳を保つだけで精一杯。チラチラと彼の顔を盗み見るしか出来なかった。興味ないとか嫌われてるとか勘違いされたらどうしよう……


「それは一目惚れってやつね。わかる、わかるわ~。私も同じだもん!」


 私よりも年下で財務大臣。友人のマーヤもあの時、一目惚れしたらしい。


 ううん、マーヤだけじゃない。彼に惹かれない女なんていない。彼を見た女は皆、彼に惹かれるに違いない。彼の為ならなんだってしてあげたい、なんだってしたい。そう思わせる不思議な魅力が彼にはある。


 だから彼の事をもっと知りたい。彼と深い仲になりたい。


 だから家臣達にノワール侯と仲良くなる為にはどうすれば良いか相談したら――


「うっ、うぅ……お嬢様が、あのお嬢様が……」「漸く、漸く殿方に興味を…」「黄薔薇騎士団に入団、そして団長になられた時。その時以上の喜びです…」「先代様も天国で喜んでくださっているでしょう…!」


「…私のお母さん、生きてるからね」


 どうして泣く程喜んだのかはわからないけれど家臣達は精力的に動いてくれた。


 黄薔薇騎士団への勧誘は失敗したけれど、それでも諦めずに色々考えてくれる。帝国行きやパーティーなんかでノワール侯と話す機会も沢山あって。少しは仲良くなれた……と、思う。


 そして私は…どんどん彼を好きになった。


 彼を見ていればわかる。彼は決して見目麗しいだけの、見た目だけの人間ではないって。


 彼を見ていればわかる。彼は優しい。彼の眼、彼の声、彼の仕草、彼の気遣い。全てに優しさがある。


 私も彼の傍に居たい。沢山いる妻の一人でいい。私をもっと見て欲しい。


 彼の為ならなんだってする。彼の為なら相手がなんだって戦える。


 ああ、なのに…


「ちょっとアッチまで付き合えやぁぁぁぁ!」


 彼は私から距離をとってしまった。


 わかってる。彼は私を戦いに巻き込まないように、あの化け物に私が殺されないように一人で戦う事を選んだ事は。


 ああ、本当に彼は優しい…だから、だからこそ私は…


「あたしの相手はあんたね。すぐにサヨウナラだけど、よろしくね」


 目の前の敵を速やかに処理して、彼を助けにいこう。


 それにしてもさっきのノワール侯…かっこよかったなぁ。緑に輝く身体と光の翼…まるで神話に出て来る神族…ううん、神様のよう。


「ちょっと、聞いてんの。騎士なら相手が敵でも礼節ってもんを――」


「…うるさいですね。化け物の手下風情が騎士を語るなど。罪人の命乞いよりも聞く価値がない」


「――っ…言ってくれるじゃないのさ」


 この女…いえ、この化け物共は最初こそ人間の姿をしていた。でも今はエロース教に保護されているというサキュバスに似た容姿をしているけれど間違いなく別種。間違いなく化け物の手下は化け物。


 そして倒すべき敵。


「クックッ…まあいいさね。どうせお前達は終わりだ。あの男も相当に強いようだがアンラ・マンユ様に勝てやしない。死んで消える人間の言葉くらい聞き流してやるさね」


「…貴方達の主人は化け物に喰い殺されたあの男だったのでは?」


「最初はね。いや…最初は私達の方があの男の主人だったのさ。それが…あの男が色欲の力を手に入れて逆転しちまった。でも、ま…今じゃそれでよかったと思うさね。こんなにも強くなれたんだからさ」


「強く…」


 確かに、貴方達は強いと思う。でも、それは…


「化け物に与えられた力で、化け物になって得た力でしょう。それがそんなに誇らしいんですか」


「ああ、そうさ!何不自由なく優雅に暮らして来たお貴族様にはわからないだろうけどね!盗賊になってまで意地汚く生きて来たあたしらにとって力こそは全て!暴力で他人を支配し!奪い!殺し!犯し!満たされる!あんたらを殺した後は王都の人間を殺し!奪い!男はペットにして飼ってやるよ!王国最強の五大騎士団、その団長だろうがなんだろうが!止められやしないよ!アハハハハハ!」


「よく喋りますね…」


 支配者が代わった影響なのかな。遠目で見てた限りでは眼に力の無い、重労働に従事する奴隷のような眼だったのに。


「さぁ!他も始めたようだしあたしらもやろうか!泣き虫ティータちゃん!」


「…私の事を知っていましたか」


「有名人だからねぇ、あんた達五大騎士団の団長は!五大騎士団の団長はどいつもこいつも強者揃い。でもあんたはその中じゃ最弱って聞いてるよ。デカいのは図体だけで肝っ玉は小さいともね。アハハハハ!」


「……ハァ」


「――あ?なんだい、そのつまらなそうな顔は」


 そんな顔になるのも仕方ないでしょ。だって本当につまらない。くだらないんだもん。


「……五大騎士団の団員は実力で選ばれます」


「あ?」


「それは五大騎士団全てが例外ではなく。身分、家柄、年齢は問わず。実力と経歴のみで判断されます。いくら実力があろうと犯罪者は入団出来ません」


「…だから?」


「各騎士団の団員数は千人前後。その千人全員、一人一人が並の騎士団なら団長、副団長の地位に居るような猛者。そして五大騎士団の団長とは。その千人の猛者の中でも最強の騎士が選ばれる。その意味がわかりますか」


「…自分はあたしより強いって言いたいのかい」


「五大騎士団の団員はギフト、スキル持ちが多い。その中から選ばれた団長が弱い筈がないでしょう」


「…っ」


「泣き虫ティータ…確かに私はそう呼ばれてました。五人の団長の中で最弱というのもまぁ…事実かもしれません。ですが……ふぅぅっ!」


「ぐぅ!」


 武器を持って対峙してるというのに私の突きに反応が遅れる…いくら強くなったと言っても所詮は元盗賊、ですね。


「泣き虫ティータの名は返上しました。今は…雷光。雷光のティータと呼んでくだ…いえ、愛の騎士でもいいかもしれません。いえ、愛の守護者?」


「……自分で言ってて恥ずかしくないかい」


 いえ全く?何処に恥ずかしがる要素が?


「さぁ、始めましょうか。奇しくも同じ槍使い同士の戦い。どちらが格上か教えてあげますよ…化け物マダム」


「上等だよ!このガキが!」

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[一言] 何故犯罪者はすーぐ調子こくのか(哲学
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