第279話 試練でした
~~女神フレイヤ~~
「邪魔するぞ、エロース」
「邪魔するなら帰ってね~」
「そうか。それじゃっ…って、そんな神々の間でも使い古されたネタはいらぬわ!」
「うるさいなぁ…なんだ、誰かと思えばフレイヤじゃん。久しぶり~御帰りはあちらでーす」
「だから帰そうとするでない。話があるから来たんじゃ。大人しく茶でも出して迎えんか」
全く、こいつは…なんだってわしがこやつの尻拭いせねばならんのじゃ。
いや、わしのせいなんじゃけども。
そもそもの原因はエロースにあるのじゃからして。わしが頭を下げる気はないんじゃけども。
「なにブツクサ言ってるのさ。見ての通り忙しいんだから、用件があるならチャッチャとすませてよね」
「忙しい…のう」
以前やらかした罪に対して与えられた罰、複数の世界の立て直しはほぼ全てが問題無いとこまで完了しておるくせに。
あれだけの数の世界を僅かな期間で立て直すその手腕は見事だと認めざるをえんが……腹立たしいから認めん。
今は殆ど自分の趣味でしかない作業と嫌がらせをして来た神々に意趣返しをこっそり仕込んでおるだけじゃろ。
「それに相変わらずの趣味の悪い部屋じゃのう。眼が痛くなるわ」
「僕の趣味にケチをつけに来たのかい、君は。暇なら僕の仕事を手伝っていきなよ。取り合えず全裸になって…えっと、この世界に降臨なさって崇められて来てよ」
「全裸になる意味を言うてみい、たわけが」
どうしてこやつはそっち方面ばかりなのじゃ…いや、そういう神だからなんじゃけども。
部屋も全体的にピンク…もう少し落ち着いた色合いに出来んかったのか。なんちゅう悪趣味な部屋なのじゃ。
「なんか自分の事思いっきり棚上げしてるでしょ。フレイヤ、君だって淫乱女神なクセに」
「誰が淫乱女神じゃ!わしは気に入ったらヤる!それだけじゃろが!」
「それを淫乱って言うんだよ。で、何さ。長居して欲しくないからお茶は出さないし椅子にも座らせないよ。サッサと用件を言いなよ」
ぐ…わしだって長居しとうないわい。しかし責任ちゅうのがあるから仕方なしに来とるだけじゃ。
こやつがまた何かろくでもない事考えとる気配もした…というのもあるがの。
「…話というのは他でもない。お主、あの世界をどうするつもりなのじゃ」
「あの世界ってどの世界さ。御存知の通り、僕はいくつもの世界を管理しててだね――」
「真面目に話しておる。とぼけるのも大概にせい。みなまで言わずともわかっておるのじゃろ」
「……ふん」
いつまでもわしらが気付かぬとでも思っておったか、たわけめ。前回の反省が見られんぞ。
「お主は大罪を犯した身。監視はされとるんじゃぞ。いつまでもバレぬとでも思うたか」
「別に隠してないからバレるとかバレてないとか、考えてないよ。悪い事してるわけじゃないし」
「ならば言え。あんな存在を下界におきよって。何を考えとるんじゃ」
下級神じゃ話にならぬようなスペックを持った肉体に最上級の神器に匹敵するデウス・エクス・マキナなんてもんまで持たせおって。
あんな存在はいつまでも下界に居ていい存在ではない。本来ならばな。
「勿論、メインは世界の安定化と改善だよ。あのくらいの存在置かなきゃいけない状態だったのは君も知ってるんでしょ」
「そりゃ知っとるが何も神に匹敵するような存在じゃのうてもよかったろうが。しかも不老不死…明らかにオーバースペックじゃろ」
「そうでもないんじゃない?現に今、他世界のヤバい存在とやり合ってるみたいだし。並のスペックじゃやられちゃってたよ。ほら」
……ほんとじゃ。あの馬鹿は…あやつもあやつで何考えとるんじゃ。嫌がらせの範疇を越えとるじゃろ。
「ああ、それも聞きたい事の一つじゃった。お主、何故止めなんだ。気付いておったのじゃろ」
「ん?何が」
「あやつの嫌がらせじゃ。あやつが送り込んだ存在、嫌がらせの内容に気付いておりながら放置したじゃろ。他世界の存在を嫌がらせ目的で送るなぞ、いくら上級神でも許されん事じゃぞ」
「えー君だって送ってるくせに、何言ってんの。まぁ君の場合、嫌がらせじゃなく自分の失敗のフォローで異物を送ったのじゃなく転生だから問題無いけど」
…………………アイの事もバレとったか。相変わらず抜け目ない……いや、それならば尚更じゃ。
「わしの事はいいんじゃい。気付いていながら何故止めなんだ。キリキリ答えんか」
「だって懲罰委員会のお達しじゃん。僕のやらかしで被害を被った神々からの報復は甘んじて受けるべしって」
「それはお前にのみ被害がある場合に限る。お前が管理する世界に被害が出るような事は御法度じゃ。わかっとるくせに答えをはぐらかすな」
「…チェ。まぁいっか。どうせもう、あとは見届けるだけだし」
「…見届けるだけ?」
「成果をね。ねぇ、フレイヤ。あの子…ジュンにとってさ、今の状況ってどう見えると思う?」
そんなもん……ただ神々の事情に巻き込まれただけの被害者じゃろ。現地人とっても迷惑でしかない、天災そのものじゃろ。
「被害者とか犠牲者。それも一つの見方だね。でも見方を変えれば試練でもあるんだよ」
「…はぁ?アレが試練じゃと」
「そ、試練。神が与えた使命を果たす為に神が与えた妨害。それは試練ともとれるよね」
「アホゥか。神が与える試練とは人間にのみ与えるもの。既に神に匹敵するような能力を持った者に試練も何もあったもんじゃないわい」
「あの子は人間だよ。まだ、ね」
「…………………お、おお、お主!お主、まさか!」
「あ、気付いた?そ!あの子をホンモノの神にしちゃおうって思って!」
こ、このドアホウ…………何か裏があるとは思っておったが…なんちゅう……
「いや流石の僕も最初っからそのつもりだったわけじゃないんだよ?でも何処かのアホウが情報をもらした御蔭でヘラがちょっかいだして来たからさぁ。丁度いいや利用しちゃっえってね」
ぐっ!……此処でわしの責任を持ちだすのか、こやつは。
…確かに、力ある人間が神に認められ試練を乗り越えれば神になる資格、神格を得る。
エロースが認め、ヘラの妨害を凌ぎ切り与えられた使命…子作りに励めば神格を得る事が出来る……じゃろうな。
しかし、じゃ。
「お主、そんな思いつきで神を増やすなど……何を考えとるんじゃ」
「え~いいじゃん。別に悪い事じゃないし。一柱の神の独断で神格を得た人間なんて珍しくもないし」
……確かに人間との間に子をもうけて、我が子可愛さにホンモノの神にしよう画策した神々はおる。
じゃがそれらは相応の試練をもって神に成ったのであって決して思いつきと流れで神に成ったわけじゃないんじゃがな…
「で。お主はジュンを神にしてどうする。まさか神にして終わり、後は放置じゃあるまい」
「いや放置だよ」
「……はぁ!?」
「ジュンにはそのままあの世界の守護神になってもらってね。僕の代わりに世界の管理をしてもらうのさ」
「な、何を言うとるんじゃ!神が下界に顕現するのは――」
「それは神界から下界に降りた時の話。下界で神に成った者がそのまま世界に残る分には大きな影響はでないよ。世界の存続と管理についてはね」
ぐっ………確かに、そうなんじゃが……いや、しかし……
「例え神に成ったとしても、じゃ。いきなり世界の管理を任せるなど…」
「だいじょーぶ。その為のサポート役も居るし。あの世界はまだまだ神の管理が必要だしジュンが神格を得て神に成っても管理が必要。あと数千年は必要かな。それが終わった頃にはジュンを神界に招けば問題無い無い」
「……何故そうまでするんじゃ。ジュンを神にする、絶対的な理由なんぞないはずじゃろ」
「……だあって~まだまだ僕が管理しなきゃいけない世界が多すぎて大変なんだもん!あそこは元々僕が管理してた世界だし、新人の神に託すくらいいいでしょ!」
「それが本当の狙いか。このドアホウ」
ジュン…すまぬ。お主が神に成った暁にはわしもフォローするからの……




