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第274話 初めてでした

~~アンラ・マンユ~~



 コレハ ナンナンダロウ コイツハ 一体ナニ?


 ゲームノ中カラ出タ時ハ 沢山ノ ハジメテ ガ アッテ 沢山ノ事ガ 知レタ


 痛ミ イラツキ 快感 空腹 満腹 喜ビ 他ニモ 色々


 人間ヲ 狩リツクシテ ハジメテハモウ無イト 思ッテタ


 デモ コイツヲ 見テルト ナンダカ ワカラナイモノガ コミアガッテクル


 コレハ ナンナンダロウ… ダレカ オシエテヨ




~~ジュン~~



「…院長先生、ドミニーさん、リヴァ。三人は下がって、アム達と合流して。ここからは俺とアイでやる。従わない時は無理やりにでも従ってもらう」


「ジュン…あなたを置いて逃げるなんて絶対にしなっ、うっ!?」


「ごめんなさい、御義母様。今は問答してられないの」


 …アイが院長先生を気絶させよった。


 そりゃ一番手っ取り早いしれんが決断するの早すぎねぇ?


『いや英断やろ。ほら来るでぇ!』


 チッ!元々がゲームのラスボスってんならパーティーの準備が終わるまで待ってろってんだ!


 空気を読め空気を!化け物には無理か!


「リヴァ!院長先生を担いで逃げろ!ドミニーも早く行け!」


「!!!!」


「お前と姫も逃げろ!あんな化け物どうにもならない、ってこんな時くらい自分で大声だしなさいよ!もういいから行くわよ!」


「逃ガサナイヨ キャハハハ!」


 なんか声が少し人間っぽくなったな。姿が人間に近付いた事で声もそれっぽくなったか。


「その無茶苦茶な動きは化け物そのものだけどな!アイ!まだ切り札があるなら出し惜しみするな!」


 二本足になった事で移動能力が向上するのは理解出来る。こっちの攻撃に対し無反応だったのが回避行動をするようになったのも当然。


 だがその無軌道な移動はなんだ!何も無い空中で何かを蹴って飛び回るとか!そんなん俺もやりたいわ!


「お、オッケー!リヴァ達が逃げる時間を稼がないとだしね!いっくよぉ…ハァァァァ!」


「おおう!?なんだそれ、かっこいいな!」


 アイからエネルギー、いやオーラが溢れだしとる!なにそれ!カメハメっちゃうの?!それとも何とかフィンガーか!?


 俺にもやらせてくださいお願いします!


「キャハハハ! キミモ ゲームカラ 出テ来タノ?」


「ふふん!これはウチが自力でゲットしたスキルだよん!いっくぞぉぉぉ!」


「キャハハハ!イイヨ 遊ンデアゲル!」


 アイのアレは攻撃力・防御力・スピードの全てが上昇するらしいな。アンラ・マンユみたいに出鱈目な軌道での移動こそ出来ないが対応出来ている。


 これなら俺が防御に周ればリヴァ達を逃がせる!


「ヤルジャン キミ ナラ 僕モ!」


「うがっ!またそれぇ!?人型になったくせに!」


 げ。腕と脚…いや身体全体から触手を伸ばしての攻撃。人型をとった事でより醜悪さが際立っとる。


 しかも触手攻撃もパワーアップしてる!数も多いしアイ一人じゃ捌ききれない!


「アイ、フォローする!」


「ちょっとおおお!こっちもちゃんとフォローしなさいよ!これじゃ逃げたくても逃げれないわよ!」


 してるだろうが魔法で!ビビってないで走ればいいんだよ!


『僕ト 戦イナガラ 魔法デ援護…ヤッパリ キミガ 一番強インダネ ナラ 君カラ!」


 ぬ!俺に攻撃を集中して来たか!触手攻撃だけじゃなく手足を使った打撃も交えてのトリッキーな動きとオールレンジ攻撃!


「モーライ!」


「なっ!んっがぁぁ!」


「ジュン!」


 今のは危なかった…アイツの本命は暴食の紋とやらがある舌での攻撃か。動き方こそ他の触手と大差ないが攻撃力が違う。


 ドミニーさんの力作、オリハルコンも含まれたミスリル・アダマンタイト合金製の剣がひん曲がってしまった。


 これじゃもう使えないな。


『ならデウス・エクス・マキナ、使う?てか、他の予備武器じゃ御話しにならんし。使うしかないで』


 …いや。それよりも、だ。こっちを試してみよう。


「ジュン、大丈夫?」


「ヨク 防イダネ ヤッタト思ッタンダケドナー」


「そう簡単にやられてたまるか。さ、続けようか」


「武器ガ ナクナッタノニ 強気…ナニ ソレ」


「魔法剣、ってやつさ」


 魔法で象られた剣…ゲームやアニメではありがちな技だが、この世界には存在しなかった。故にこの世界では俺のオリジナルという事になる。


 むかーし…幼児期に開発して以来実戦で使った事は無かったりするが。コイツにはうってつけだ。


 再生能力なんて持つ、化け物には。


「おお!蒼い炎で出来た二本の剣…カッコいいじゃん、ジュン!」


「ハッハッハッ!そうだろうそうだろう!…って、それよりも早く逃げ…って流石にもういないか」


「ア 逃ゲラレチャッタ」


 …逃げろとか言っといてなんだけど。ちょっと寂しく感じちゃうボク。


 いやだって俺Tueeeeってギャラリーがいてこそってとこあるじゃん?ギャラリーがアイだけってなると物足りなさが出て来るって言うか。


『アホな事言ってる時やないでマスター。なんせコイツは赤ちゃんの心臓を喰いまくったド外道や。俺Tueeeeよりも赤ちゃんの敵討ちや。そうやろ?」


 …悪い、そうだったな。


 コイツは今日、此処で倒す。


「だから…こっからは俺も全力だ!やるぞメーティス!」


『はいな!やったんでぇ!』


「…メーティス? ダレ?」


 傍に居るのがアイだけになった今!攻撃に集中出来る!一気に削りきってやる!


「触手ヲ斬ッテモ 無駄ダヨ イクラデモ出セ…熱イ熱イ!」


 触手を途中から斬ろうが根本から斬ろうが。脚を斬ろうが腕を斬ろうが。すぐさま生えて来るのはわかってた。


 なら再生能力を持った敵を倒す王道手段。火を点けて再生する端から燃やして再生能力を封じる。


 こいつの場合、それでも再生能力が勝っているようだが抑制する事には成功している。


 ならばこのまま攻撃あるのみ!


「ウウ… ソレ 火デ出来タ 剣ナンダ ソンナノズルイ! インチキ!」


「元々はゲームのキャラの癖に魔法剣を知らないとか。無知だな。勉強不足の己を恥じながら消えろ!」


「ウチも居るのを忘れないでように!」


「…僕ハ 負ケナイゾ! ダッテ僕ハ ラスボスダモン!」


 負ける運命にあるのがラスボスなんだよ!



「ウ… ウゥ…」


「…どうした?後ろに下がったりして。もしかして今更ビビッてるのか?それとも逃げるつもりか?」


 本気モードに入って数分…いやもっと長い時間戦ってるのか、それとももっと短いのかはわからないが。


 ようやくアンラ・マンユの動きが鈍り、エネルギーも切れかけで再生能力にも陰りが見え始めた。


 このままだと死ぬ。それを此処に来てようやく実感しているのか、アンラ・マンユが俺達からジリジリと距離を取り始めた。


「ナニ コレ… 最初カラ 感ジテタケド 今ハ 凄ク 君カラ 離レタイ コレハ ナニ?」


「…それは恐怖ね。アンラ・マンユ、あんたはウチと…ううん、ジュンに恐怖を感じてる」


「…恐怖 コレガ?」


 …生まれて初めて感じたんだな、恐怖を。元居た世界では絶対的強者でゲーム内じゃ恐怖を感じる心も無かっただろうしな。


「だが可哀想とは思わない。恐怖どころか喜びも幸せも、悲しみも感じる事無く、苦しみだけ味わって死んだ赤ちゃん…お前に喰われて死んだ赤ちゃんを想えば、お前が今感じている恐怖なんて何ほどのものか。せめて初めての恐怖を魂にしっかりと刻み込んで消えろ」


「ウ、ウゥ… ウアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「あ!ちょ、逃がすか!」


 一体何処に逃げるって…そっちは王都じゃねぇか!


『ああ、マズいでマスター。あの速度やと王都まですぐや。それに…王都方面には例の勇者もおる筈やろ』


 勇者と合流して共闘しようってか!そうはさせるかっての!

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