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第263話 御怒りでした

「うっうっ…あんまりですぅ…」


「「「「「うっうっ…」」」」」


「何も泣く事ないでしょう…」


 ジークが勇者だと発覚した翌日。


 機会が無くて伝えれずにいた帝国行きの件。


 教皇一行と共に帝都に行く件をカサンドラとミネルヴァにようやく伝える事が出来た…のだが。


 内容を聞いたカサンドラは号泣。カサンドラに付いて屋敷に来るようになったカサンドラの冒険者パーティーの仲間も号泣。


 ミネルヴァ付のメイド達も号泣…傍から見たら俺が泣かせてるみたいだからやめてくんない?


 女の涙は凶器なんだからさぁ…その武器は俺に効く。


「そうよ、みっともない。あたしを見習いなさい。余裕たっぷりよ」


「お前はグータラしてただけだろう…しかし、だからこそこの生活が終わるのはお前だって辛いはずだろ」


「まぁね。でもまぁ元々春までって話だったし。それにまた来るつもりだしね~」


 また来るってあーた…勝手に決めるんじゃないよ、全く。


「だってあんたと結婚したら此処で暮らす事になるんだし」


「結婚って…ミネルヴァもその気になったのか」


「だって此処に居たら働かなくていいんだもの。妻が千人も居たら一人くらい働かなくても平気でしょ」


 動機がアレ過ぎる…なのに何故だろう。一目で結婚を申し込んで来る人の言葉より納得出来ちゃう。


『まぁ、一目惚れして即求婚ってパターンばっかりやもんな。それよりそろそろ孤児院に行かなあかんのちゃうか』


 ああ、時間か…気が重いなぁ。


「それじゃ私はこれで。詳しい日時が決まったらお伝えします」


「詳しい日時…はっ!姉さんに出来るだけ遅らせるように裏工作を依頼すれば!」


「「「「「それだ!」」」」」


「それだ、じゃねぇ。堂々と何を口走ってんだ」


 そうまでして此処に来たいか…あんたら帝国民だよね。ここ王国よ?故郷離れて平気なんかね。


 …平気なんだろうなぁ。


 それよりも何よりも院長先生だ。


 何だかんだと会いに来れなかったけど…冷静に話を聞いてくれたらいいんだが。


「…なんか感じねぇ?」


「うん…凄く怖い何かが…」


「帰ろ」


「……」


 今日、司祭様がレイさんが失踪した事を院長先生に伝えるというので俺も一緒する事になった。そこでアム達とドミニーさんにも同行してもらったのだが…孤児院に近付くにつれ圧迫感というか空気の重みを感じるというか。


 荒ぶるドラゴンがいるような…いやもうはっきり殺気じゃね?


「あっ、ちょっ、何本気で帰ろうとしてんだよドミニーさん!」


「……」


「ぜんぜん聞こえない!兎獣人のわたしでも聞こえないからぁ!」


「でも解る。逃げるが勝ちって言ってる」


 ファウの解答で正解なんだろうな。恐らく、つうか間違いなくこの殺気の主は院長先生。


 孤児院に近付く程静かになってるのは気のせいじゃないだろう。鳥も虫もいないし通行人も無意識に孤児院に近付くのを避けているように見えるし。


「あ!侯爵様!」


「は、早く来てなの!」


 孤児院の前では青い顔したルー達の姿が。皆小刻みに震えてるし涙目だ。


「怖えんだよ!なんかわかんねぇけどすげえ怖えんだよ!」


「い、院長先生の部屋から寒気が…」


「他の子達もすっかり怯えちゃってて…」


「兎に角今すぐなんとかして欲しいの!」


 なんとかって言われてもな…確かにその為に来たと言えばそうなんだが。


 孤児院の外に居ても感じるような怒気を鎮める事が出来るのだろうか。


 ………生贄が必要なんじゃね?


「というわけで出番です、生贄(ジェーン先生)


「何か不吉な事言われた気がする…」


 相変わらず俺の視線の意味なんかには察しが良いのね。


「てかジェーン先生は平気そうだね。ピオラお姉ちゃんもユウも怯えてるのに」


「むしろ皆が何に怯えてるのかがわからないんだけど」


 …生物としての生存本能が弱すぎないだろうか。気配とか殺気とか感じる事が出来ないだろう子供達ですら感じているというのに。


 鈍感…いや大物なのか?


 …………鈍感が正解だな、うん。


「しかし今はその鈍感さが役に立つ。だから院長先生の様子を見て来てください」


「ねぇユウ。ママはなんでいきなり鈍感呼ばわりされてるの?」


「ごめんお母さん。私もお兄ちゃんに同意なの」


「息子も娘もひどい。後で覚えてなさい…」


 そう言いつつも院長先生の部屋に行くジェーン先生。


 その背中が最後に見たジェーン先生の姿…にならなきゃいいけど。


『大袈裟やなぁ。そら院長が怒ってるんは間違いないと思うけど、それでも分別無く暴れ回るような人とちゃうやん。ちゃんと話せばわかってくれる人やって』


 それはそうだろうと思うけども。此処まで怒気を発してる院長先生は初めてなわけで。冷静じゃない可能性も十分に有りうるだろ。


「ピオラお姉ちゃんも怯えてるしな。大丈夫?」


「大丈夫じゃない…あんな怖い院長先生初めて見たもの。今日世界が終わるのかと思った…」


「あ、直に見たんだ」


 ピオラが此処まで怯えるんだからやっぱり相当怒ってるんだな。そりゃ息子が失踪したの一日だけとは言え秘密にされてたんだから無理もないけど。


「ただいまー。院長先生、いつも通りだったわよ?ジュン達が来てるって伝えたら部屋に来て欲しいって」


「「「「「「え」」」」」」」


 いつも通り?…ソンナバカナ。孤児院の外にまで漏れるような怒気を発してるのにいつも通りなわけが…


「もしかしてジェーン先生…既に死んでる?」


「突然怖い事言わないでよ!ちゃんと生きてます~!バカな事言ってないで院長先生のとこ行きなさい!もう!」


 ほんとかよ…仕方ない、覚悟を決めて行くか。


「おう、任せた」


「わたし達は此処で待ってるねぇ~」


「健闘を祈る」


「……」


 …この際、アム達はまだしも。ドミニーさん、あんたは付いて来なきゃだめでしょが。給料下げっぞ。


「失礼しま~す。院長先生、ジュンで…す?」


「ジュン、来てくれたのね。良かったわ」


「っ…ひぃ…」


 ノックして開けた扉の先では。


 土下座する司祭様の頭を踏みつける院長先生が。


 ジェーン先生…どこがいつも通りですのん。やっぱりかつてないほどに御怒りですやん…

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[一言] これがかつての「いつも通り」なのでは? ボブは訝しんだ
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