第254話 答えは3でした
誤字脱字報告ありがとうございます。
「それで確かなの?エルリックが勇者だって言うのは」
「どうやら間違い無さそうです、殿下先生」
おっさんから聞かされた話。エルリックが勇者だと言う話。
それを聞いてすぐにパメラとエルリックを連れて来させ、エルリックの身体を確認。
教皇曰く、勇者には聖痕があると言う。そしてエルリックの御尻に妙な形の痣があるのを確認した。
そしてパメラから可能な限りの聞き取り調査をした結果、エルリックが勇者だと言うのは間違い無さそうだと判断。
そこでアイとソフィアさんをローエングリーン邸に呼び、俺とアニエスさんの四人だけで会議をしている。
「妙な形?」
「なんと言いますか…形容し辛い形で」
「強いて言えば波のような痣だった」
おっさん曰く。最初はそんな痣、無かったそうだ。
いつから現れたと言えば、パメラがエルリックは勇者だと言い出した後からだそう。
おっさんの話とパメラの言う事、全てが真実だとしたらエルリックが勇者なのは間違い無いだろう。
しかし、それならそれで疑問が出て来る。
「エルリックが勇者なら…ジュン君と敵対すると?」
「ベルナデッタ殿下の予言によればそうだが…しかし、いくらなんでも赤ん坊のエルリックがジュンと戦うとは思えん。となれば…」
それにベルナデッタ殿下の話はそう遠くない未来の話のようだった。
となると、だ。考えられるパターンは…
「1、ベルナデッタ殿下の予言が間違いだった」
間違い、若しくは何かが原因で未来が変ったパターンだ。
この場合は元々の未来を俺達は確認出来ないので今は考慮しない。
「2、エルリックは勇者では無い」
これは望みが薄い。というか、メーティスの判定ではエルリックは勇者…だとしてもおかしくないそうだ。
『エルリックには何らかの存在の加護があるんは間違い無いわ。大体の察しはついてるんやけど…断定するには要調査やな』
らしい。
俺はメーティスの予想を聞いてはいるが…それはまた後にするとして。
「3、勇者は複数人存在する」
これが一番嫌な予想だけど…一番可能性が高そうなんだよなぁ。
勇者になる条件とか未だに…確定はしてないけれど、勇者は常に一人だけ…というわけじゃ無いんじゃないか、と。
少なくとも俺を狙う存在として勇者が来るというなら…神様が用意した勇者と、この世界の理、システムが生んだ勇者が存在するのではないか、と。
考えてみれば刺客として来る勇者も一人とは限らないんだよなぁ…勇者のバーゲンセールの如く何百何千何万と来る事はないだろうが。多分。
「で、アイの考えだと?」
「…3ね。エルリックはベルが予言した勇者とは別。ベルが言うには二十代の男らしいから。ウチとジュンの姿は今と大きく違って無さそうだから、近未来なはずだし」
だよなぁ。一番可能性が高くて、一番な最悪な予想になるよなぁ。
最悪を想定して備えるのは当然だけれど…なんだかなぁ。
いや、複数人勇者が居たとして、その全てが敵になると決まったわけじゃないけども。
「しかし、それはベルナデッタ殿下の予言が間違いだった、或いは間違いになった、という可能性もあるのでは?」
「確かにね。でも、間違いだったとしたら何も問題はないでしょ。勇者がエルリック一人で、他には居ないのなら。勇者である事は秘密にしてジュンとは敵対しないように教育していけるんだから。2の場合も同様ね」
「…確かに。楽観視して何の対策も取らずに動くのは愚かですからね」
「…そうだな。それでは今後は勇者は複数人いると想定して動くとして、です。教皇にはどう対処します」
「秘密にするのではないのですか?」
「いや広く知らしめる必要はないがエルリックが勇者だと教皇に教えるのは一つの手段としては有りだと思うぞ」
あー…つまり赤ん坊が勇者で俺の身内になったのなら。俺がエロース様の使徒だと言える根拠の一つは消える、と。
確かに、そう考える事も出来るけれども…
『逆に教皇らを勢いづける結果になるかもやな。『ほら、やっぱりノワール侯爵の周りに勇者が現れたじゃないですかー』とかなんとか』
だよな。俺もそっちになる…というかそうするだろうな。
「ですので、やめておきましょう。それにエルリックが勇者だとバラすと必然パメラの事もバレる可能性が出て来るでしょうし」
「…だな。やめておくか」
「それがいいと思います…何だか騒がしいですね?」
誰かがこの部屋に向かって来てるみたいだな。それをローエングリーン家の使用人達が止めてるのか?
「失礼します!」
「…入室を許可した覚えはないぞ、シルヴァン」
「殿下先生…いえアイシャ殿下の御前です。控えなさい」
意外にも入室して来たのはシルヴァンだった。彼は他の男と比べて理性的だと思ってたんだが……お?
「ウフフ……」
ああ…病み系女子のレティシアも登場か。何しに来たんだか、全く。
「お、おい!レティシア、シルヴァン!何をしているんだ!」
「いきなりノックも無しに入るなんて非常識ですわよ!」
カタリナとイーナも居たのか。そう言えばカタリナはレティシアの監視役だったか。イーナはカタリナに巻き込まれた口だな。
「…はぁ。ちゃんと見張っておけと言ったはずだぞ、カタリナ」
「す、すみません…ですが、まさかレティシアではなくシルヴァンが暴走するとは思わなくて…」
「申し訳ありませんわ、殿下」
「ウチは気にしてないよ。それでシルヴァン君だっけ。何しに来たの?」
「他でもありません、アイシャ殿下!殿下には僕を選んで頂きたく!」
「「「「はぁ?」」」」
僕を選んで?それってつまり…俺との婚約を解消して自分を婚約者にして欲しいと。そう言ってるのか?
え。何言ってんのこの子。
「ば!ばば、馬鹿を言うなシルヴァン!」
「そうですわ!ジュン様とアイシャ殿下の御婚約は陛下がお認めになった事ですわ!それを…こんな事が陛下の御耳に入ったら下手をすれば御家断絶ものですわよ!」
アイはそこまでやらんだろうが…周りが騒ぐだろうな。何らかの罰が与えられるのは必定。避けられない事態になるのは間違いない。
「えっと…シルヴァン君はウチが好きなの?」
「いえ、そういうわけではありません。ですが僕に相応しいのはアインハルト王国ではアイシャ殿下くらいですしアイシャ殿下に相応しいのはノワール侯爵様より僕でしょう」
「……その根拠は何?」
あ、いかん。アイの怒りスイッチが入りそうだ。そろそろ本気で止めないと。
「シルヴァン君、そろそろ止めた方が――」
「よくぞ聞いてくれました!何を隠そう!僕は勇者になったのです!」
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
……なんて?
「ウフフ…光を持って来たって、言ったでしょう?」
……………なんて?
いつも本作を読んで頂きありがとうございます。
いいね・感想・評価・ブックマーク、いつもありがとうございます。
とても励みになります。




