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第221話 決めました

~~セリス~~



 私はセリス…暗殺者。


 暗殺対象のエスカロンを従わせる為の手札としてノワール侯爵を拉致する為に城に侵入するも失敗。それもノワール侯爵本人に撃退された…男なのにあんなに強いなんて、思いもしなかった。


 ならばと闘技大会出場選手に化けて闘技場に潜伏。配置した魔法玉でエスカロンを暗殺。それが失敗した場合は混乱に乗じて潜伏した仲間達と共に始末する。


 更に魔法玉が発見され不発だった場合の保険として、仲間の誰かが優勝する。そうすれば皇帝に近付くのが容易になる。皇帝を暗殺すれば…少なくとも帝国の戦力を使ってのアルカ派残党の始末は阻止出来る。


 そういう作戦だった…けれど私が試合で敗れ、捕まった事で失敗。最悪の事態として作戦内容が全て漏れたと考え、変更すると思う。


 しかも、あのギーメイの正体…まさかノワール侯爵だったなんて。


 どうして男のくせに闘技大会に出てるの…おかしいでしょ。


 どちらにせよ、捕まって逃げ道まで塞がれた私に出来る事は自決だけ…せめて仲間の事を喋らされる前に。


 そう思ったのに…まさか即効性の毒まで無効化されるなんて、思いもしなかった。


 更にはノワール侯爵本人が私を拷問…拷問に耐える訓練は受けた私だけれど、あんな…あんな想定外の拷問を仕掛けて来るなんて。


 私の弱点を知り尽くしてるかのように的確に攻めて来るし…魔法を使ってまで三本目、四本目の羽根を使って攻め立てて来る姿は悪魔かと思った。


 四本目から一気に八本まで増やした姿に私の心は折れた…ポッキリと。


 だってアレはもはや魔王…随分と美しいけど、魔王の域だった。


 散々私を辱めた魔王は洗いざらいの情報を吐かせ…突拍子もない事を言いだした。


 自分を狙った相手に部下にならないか、なんて…まともな神経じゃない。しかも仲間達まで一緒に、なんて。


 でも、これは好機かもしれない。


 何故なら私含め仲間達は皆、ジビラを捕えてエスカロンに降る事を密かに検討していたからだ。


 仮にエスカロンの暗殺に成功してもドライデンで生き残る事はかなり厳しくなったし、ジビラは私達を使い捨ての道具としか見ていない。失脚したアイツに付いて行く理由はもう無い。


 そして降る相手がエスカロンから魔王…ノワール侯爵に変わるだけ。私個人としてはノワール侯爵の方が不思議と信用出来るし、口約束ではあるけど暗殺者として働かなくていいというのも魅力的な提案だった。


 普通の娘として生きる…それが私達の共通の夢だったから。


 だから、ベテランの先輩達は兎も角、私と同じ新人達はノワール侯爵に降る……と、思っていたのだけど。


「最高じゃないか!」「ノワール侯爵の部下…それも普段はメイドをやってればいいんでしょ!?」「主人や屋敷の住人を護るのは部下として当然だし、暗殺なんて汚れ仕事より全然いい!」「潜入の為にメイド教育も受けた事あるし、何よりノワール侯爵の部下になれば…夜伽を命じられちゃったりするかも!」「そうなったら底辺な人生から一気に天国だよ!暗殺者なんて薄汚い、闇を生きる人生から大逆転だよ!」


 ……先輩達もノリノリで裏切るつもりだ。むしろ私達よりも必死に見える…気持ちはよくわかるけど。


 でも、只一人…一人だけ、そうではない人が。


「…そうか。お前達はその道を選ぶか。ならば私は別の道を選ばせてもらおう」


 私達新人を率いる先輩五人の内の一人。ずっと仮面をつけた名も知らない謎の先輩は…ノワール侯爵に降るつもりは無いらしい。


「カミラ…あんた、私達と戦うつもりかい?」


「え?し、師匠なのですか?」


 カミラ…トリスの師匠?…四大の一人『死眼』のカミラ?四大は全員戦死したって聞いていたのに…


「お前達の邪魔をするつもりは無い。私は私でやる事が…いや、やりたい事がある」


「師匠…何をするつもりなんです」


「エスカロンを殺す。それだけだ」


「カミラ…悪いけど、それはさせられない。ノワール侯爵に降ると決めた以上、エスカロンを暗殺する理由は無いし、余計な罪状を増やせばノワール侯爵に見捨てられかねない」


「行かせる訳には行かない…うっ!?」


「止められると思っているのか?お前達が、私を」


 な、なんて殺気…殺気だけで、私達全員の動きを封じるなんて…これが『死眼』…四大の本気…


「じゃあ私は行く……ああ、そうだ。高みの見物を決め込んでる愚物はもういらないだろう?私がもらって行く。あんなのでも使い道があるからな」


「なっ…待て!」


「待たぬさ」


 そう言ってカミラは…闇に溶けるようにして消えた。今のは一体…私のスキル『霧隠れ』とは違う、全く別種の能力のようだけど…


「カミラ…一人でどうしようってんだい…」


「…兎に角、動こう。私はジビラの護衛に付いてる奴らに報せて来る。きっと私達と同じ選択をする筈さね」


「私も行くよ。ついでにジビラを捕えて戻って来るよ。ノワール侯爵へのいい手土産になる」


「私達はカミラを探す。なんとか止めないと…」


「セリス、アリス、エリス、トリスはノワール侯爵の護衛につけ。カミラにノワール侯爵を狙うつもりは無さそうだったが…念の為だ」


「「「「はっ…」」」」


 ……どうして?ノワール侯爵の提案は真っ暗な世界に差し込んだ一筋の光だったはず。


 嘘だと思った?騙されていると思った?結局また暗殺者として、捨て駒として扱われる事になると思った?


 確かにノワール侯爵を信じるに足る要素は少ない…でも賭けてみる価値はある。


 何故なら今より最悪な状況に落ちる事は…そうは無いだろうから。


「四大、最後の一人『死眼』のカミラ…貴女は一体、何をするつもりなの?」

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