第211話 利用してました
~~エスカロン~~
「――エスカロン様」
「戻りましたか。結果は?」
私はエスカロン・ガリア・ドライデン。生まれ変わったドライデン連合王国の初代国王です。
ま、名ばかりの国王なのは自覚しています。真の国王が…ジュン様が国王になられるまでのつなぎに過ぎません、私は。
国民の支持率は精々半々と言ったとこでしょうね…と、そんな事はどうでもいいのですが。
今回、内戦を終わらせたばかりだと言うのに無理をしてでもツヴァイドルフ帝国まで来たのには勿論理由があります。
その理由の一つが――
「暗殺者は撃退されました。が、多少の手傷は負ったものの逃げおおせました。撃退したのはノワール侯爵です」
「ほう…またしてもですか。素晴らしい」
一つはそう、ジュン・レイ・ノワール侯爵。彼を直接見定める為。
これまでは部下からの報告のみで判断していましたが、間違いない。彼は間違いなく王になる器。そして恐らくはエロース様の使徒です。
「宜しいのですか?奴らはノワール侯爵もターゲットにしてる様子。彼が殺されてしまっては…」
「ジュン様なら大丈夫です。彼は殺されたりしませんよ。真の王ならばね」
「……」
それに王国も帝国も、会ったばかりのその他大勢も。ジュン様に御執心です。必死に護るでしょうよ。我々が手を貸さずともね。
「国からの連絡はありましたか?」
「はい。国内のアルカ派残党の殲滅はほぼ完了。帝国に来てる戦力を潰せばアルカ派残党の掃討は終了したと見て良いでしょう」
「そうですか」
これが私が帝国に来た二つ目の理由。
アルカ派残党の殲滅。これが済んで漸くドライデンは完全に生まれ変わったと言える。
ですが、それを成すには我々の戦力だけでは時間が掛かり過ぎる。そこで私は一計を案じました。
私自身を囮にし、差し向けられた戦力を帝国に排除してもらう。
アルカ派残党が生き残るには私を殺すしかない。だから私が帝国に行けば少ない戦力を更に分けるしかない。
何も他国にまで追わなくてもいい、戻って来た所を仕留めれば…などと考えられないように帝国の力を借りて大規模なアルカ派残党掃討作戦が行われるとの噂を流しました。
そんな噂が流れれば戦力を割くしかない…まるっきりの嘘でもないですしね。国内の残党は帝国の力を借りるまでも無く殲滅に動いたのですが。
「皇帝や宰相に気付かれては厄介ではありませんか?後々面倒な事に…」
「バレても問題はありません。金銭的な補償ならいくらでもしますし。今の所、帝国にも王国にも大きな被害は出ていませんしね」
それに少なくとも皇帝は気が付く事は無いでしょう。ジュン様に相当御執心のようですし、密書の御蔭で私の狙いはジュン様だと思い込んでるようですし。
まぁ…それは間違いではないのですが、今回はどうするつもりもありません。強引な手段に出るとしても今ではないですね。
宰相に関しては……掴みどころが無くてよくわかりませんね。正直苦手なタイプです。ですが仮に私の目論見に気が付いても何も出来ないでしょう。
何せ私は招待客。狙われていると判っても追い出す訳にも行かない。これまで通りに護るしかないと判断するでしょう。
追い出す口実を与えない為に私自身、不要な外出は避けて大人しくしてましたし、共の者達にも大人しくさせてました。傭兵を納得させるのに多少御金を余分に使いましたが、問題ありません。
「それで今回の暗殺者はどのような?」
「糸を使う暗殺者だったようです。捕縛される寸前に煙のように消えたとか」
ふむ…それはアルカ派の暗殺者の中でも最強と噂される『死糸』ですね。残党の中では間違いなく最高戦力…それが失敗したとなると連中に残された手段は少ない。
「明日には決着が着きそうですね…フフフ」
「はっ…」
これが片付けばジュン様をお迎えする環境が整うまであと少し……帝国には頑張って欲しいものですね。ジュン様の手を煩わせるのは本意では無いのでね。
~~ジュン~~
「――とか考えてるんじゃないかなぁ。エスカロンは」
「…なるほど」
暗殺者を撃退した夜が明けた朝。朝食前に王国組の代表格は全員集まってもらい、闘技場の件と暗殺者の件を改めて説明。
その後、少ない情報で答えを導き出す事が出来るギフトと頭脳を持ったユウに一連の事件の背景を推察してもらい、皆の前で語ってもらった。
フィーアレーン大公国の間者エルケ以外の二つの事件。闘技場と城で起きた事件はドライデン絡みだとユウは推理した。
エスカロンがアルカ派残党を殲滅する為に帝国を利用したのだと。
そして今日、アルカ派残党は最後の勝負に出るだろう、と。
「でも、それなら何故ジュン君を狙うの?エスカロンを直接狙わない理由が無いじゃない」
「闘技場の…帝国騎士を操っての襲撃は貴賓席に居たエスカロンを狙っての事で、間違いないと思いますよ。でも失敗した。だからお兄ちゃ…ノワール侯爵様に狙いを変えたんです」
「だから、それは何故だ?ドライデンの事にジュン殿は関係が…」
「ノワール侯爵様を確保すればエスカロンも帝国も王国だって要求に従うしかなくなりますよね。ノワール侯爵様に御執心な女性は一杯居ますから」
「「あっ…」」
あの暗殺者は俺を殺すつもりは無く、誘拐が目的だったと言う事か。
エスカロンが俺を狙っているのは向こうも承知。帝国だってサーラ皇帝やジェノバ様から求婚されてる話は広まってるし。
仮にエスカロンが要求に従わなくとも王国と帝国の力でエスカロンを始末させればいい、と。
三者を一度に従わせる道具として俺を選んだわけだ。
「…ふむ。何の為に呼んだのかと思ったが…平民の、それも子供とは思えない聡明さではないか。ノワール侯爵、その娘を我に譲る気はないか。平民としては破格の、高い地位に就かせる事を約束するぞ。爵位をやっても良い」
「………ほ、本人が望むのであれば」
「あ、私はノワール侯爵様の下で働きたいと思ってますので」
Oh…ノータイムで御断り…相手は女王陛下だよ?断るにしてももう少し言い方が…
「ふん…相変わらずの人誑しだな、お前は」
「あ、はは…恐縮です…」
「…陛下、それよりも」
「ああ、対策だな。ユウと言ったか。アルカ派残党は次にどう動くと予想する?答えてみよ」
「はい。次はノワール侯爵様の身近な人物…此処に居る皆さんや家臣団の中から適当な人物を誘拐、ノワール侯爵様を脅す…のではないかと」
…俺本人を誘拐するのが無理なら俺の身内を攫って言う事聞かせようって?確かに有効なだけに否定出来ないな。
そして腹が立つ。
「…なるほど、有効なようだな。レーンベルク団長、イエローレイダー団長。聞いての通りだ。我々の誰か、特にノワール侯爵の身内が攫われる可能性が高い。その点を踏まえ、厳重に警戒せよ。詳細は任せる」
「「御意」」
…今、俺を見て判断されたな。そんなにわかりやすく顔に出てただろうか。
「それから…ローエングリーン伯爵、グリージィ侯爵、ポラセク侯爵、レッドフィールド公爵。お前達の娘、家臣達にも十分警戒させよ。護衛には白薔薇騎士団、黄薔薇騎士団と上手く連携するよう伝えておけ」
「「「「御意」」」」
さて…二度の失敗により王国も帝国も警戒を強め防備を固める事になるが…どう出て来るかな。




