第205話 出番でした
『さぁ始まります予選二回戦!此処からは舞台を四つに分け、四試合同時に進行致します!ケフッ…おっと失礼!これからの熱い戦いを更に盛り上げる為に気合を入れて食事をしたのですが少々食べ過ぎたようです!』
宰相という、平民からすれば雲の上の存在がゲップをするというのが面白いのか親しみやすさを覚えたのか。
観客席からは小さな笑いがチラホラ。
貴賓席からは何も聞こえなかったが。
…さてと。俺にとっては此処からが本番だ。
貰った対戦表によると…俺の出番は中盤だな。
二回戦の試合、半分が終わった頃が俺の出番の予定だ。
『さぁーそれでは!予選二回戦!第一試合から第四試合まで!一気に開始しちゃってください!』
一気に四試合同時というのはじっくり観戦したい人にとっては不満かもしれないが時間短縮には有効。
何せまだ三百人以上の選手が残ってるからな。
その中で注目すべき人物は…
『四試合同時進行ですから消化が早い!さて注目の試合は―――おおっと!皆様、三番の試合を御覧ください!私、宰相の推薦による参戦!アインハルト王国の王女アイシャ殿下の御登場です!』
先ずはアイの出番か。
今回のアイの服装は例のコスプレ…ではなく。いや、例のゲームヒロインのコスプレではあるのだが。
物語の数年後の話でヒロインが着てた服装に変わってる。黒を基調にしたやつに。
いつの間にあんなの用意してたんだか。
そんなアイが対戦相手は…槍使いか。背も高い上に手足も長い。
対してアイの武器は拳。リーチの差が大きいが…それをどう埋めるのかが見どころか。
「お姫さんが相手とはやり難いねぇ。お綺麗な顔に傷がつく前に降参してくれないかい?」
「大丈夫。かすり傷一つ負わないから。貴女の気遣いの御礼にウチも怪我させないように倒してあげるね」
先ずは舌戦から始まったアイの試合。相手が王女だから強く言えないのか、相手は言い返すつもりは無いらしい。
黙って槍を構えた。
『注目のアイシャ殿下の対戦相手はグレタ選手!見た通りに槍を得意とするBランク冒険者!王女を相手に萎縮せずに戦えるか――試合開始です!』
「はっ!あたいは相手が誰だろうと遠慮なく――えっ」
「反応が遅い」
試合開始直後。一瞬で相手の懐に入ったアイはグレタの腹に掌打を放つ。
グレタは踏ん張る事も出来ずに場外まで吹っ飛び、勝敗が決した。
『決まったぁ?!一瞬、一瞬です!開始直後に消えたかと思ったアイシャ殿下!瞬きの間にグレタの懐に入り一撃!その一撃で勝負を決めてしまいました!流石私の推薦で参加しただけはあります!流石私!偉い!』
そこで自分を持ち上げるのな。アイはどちらかと言えば自薦になるだろうに。
『因みに皆様も噂で聞いた事があるでしょうアインハルト王国の男性当主ノワール侯爵。アイシャ殿下はそのノワール侯爵と婚約されてるそうです!強く美しく権力者で更には美男子の婚約者まで!羨ましいですな、全く!』
凄いな、宰相。ただでさえ王国と帝国の関係って微妙なのに。
こんな大勢の前でアイをイジるとか。下手すりゃ斬首もの……
「アハハー!素直でよろしい!」
…そう言えばアイも宰相を気に入ってたっけ。あの程度のイジりはなんでもないらしい。
一応、俺との婚約は公表されてるし問題無いと言えば問題無いか。
でもアリーゼ陛下や皇帝に怒られなきゃいいけど。
さて、お次の注目試合は…あ、居た。
間者予定のエルケ選手だ。
「つあぁらぁぁ!!」
「ぐぁっ!こ、こんのぉぉぉ!」
エルケの武器は大剣。対戦相手は剣と盾。
対戦相手も悪くは無いが…終始エルケが圧倒。危なげなくエルケが勝利した。
一回戦では宰相の解説があったエルケだが今回は無し。そこまで注目の選手では無いってだけかエルケが間者だとまるで関知してないのか。
或いは知っているからこそ、何も言わないのか。
どちらにしても、メーティスが偵察機で探ってるし、予選が終わる頃には証拠固めも終わって…そう言えばメーティスの出番がまだだな。
『さぁさぁ来ましたよ!私が個人的にも注目している選手の一人!謎のヒーロー・ブラック!アインハルト王国のお客様からの情報では確かに彼女はヒーローとして名が売れていてグッズまで販売されているとか。あの変わった兜の下はどんな顔なのか!』
「ハッハー!それは秘密やなぁ!なんせ謎のヒーローやし!」
『それでは対戦相手のマクダ選手が兜を剥がしてくれる事に期待しましょう!』
「だから秘密やっちゅうねん!そう簡単に素顔晒せるかいな!」
「隠されると見たくなるよねぇ!その兜、叩き割ってやるよ!どーせぶっさいくな顔があるだけなんだろうけど!」
「誰が不細工やねん!マスターも一目惚れする超べっぴんさんやっちゅうねん!」
…あいつ、簡単にノセられて俺の事バラしたりしないだろうな。それだけは勘弁してくれよ。
「いくよ!ハァァァ!」
「おうおう。元気やなぁ。でも…」
「今だ!烈風豪断―ぶはっ!」
「隙だらけやな!」
マクドは両手に持った斧で連続攻撃を仕掛けていたのだが、メーティスに見切られ大きな隙を作った所を回し蹴りで仕留められた。
水切り石のように跳ねて場外まで行ったけど…殺してないだろうな、アレ。生きてても大怪我して―――
「くはぁ!いやぁまいった!完敗だよ!強いねぇ、あんた!」
「アッハッハッ!せやろ?ま、ヒーローは強うないとな!」
――ピンピンしてらっしゃる。派手に吹っ飛んではいても、ちゃんと手加減していたか。
熱くなって冷静さを失ったり失言しないか心配して――
『見事な回し蹴りでしたブラック選手!一体何処の流派なのでしょうか!アインハルト王国出身ならばもしかしてアイシャ殿下と同じ流派でしょうか!」
「わいの流派は言うなれば神――いや、それも秘密や!女は秘密が多い方が魅力的に見えるもんやしな!」
…後で釘さしておこう、マジで。ポロッと言いそうだわ。
アレかな、普段は俺としか会話しないし、俺には隠し事とかしないから聞かれればついつい答えてしまうのかな。
さて、此処から先は注目すべき人物は……おやぁ?
『遂に来ました!皆さん御注目!我らが『姫騎士』ジェノバ様の御登場です!』
…出るの?あの人…そんな事一言も言ってなかったやん。
『ジェノバ様は軍務大臣の推薦により出場。故に二回戦からの出場となります。また闘技大会の出場はジェノバ様は初。果たしてどんな戦いを見せて…おや?ジェノバ様、どなたかを探しておいでですか?』
舞台上でキョロキョロと周りを見回すジェノバ様。…もしかしなくても俺を探してる?
『もしかして探しているのはジェノバ様の想い人でしょうか。ツヴァイドルフ家で1,2を争う美人に想われる人物とは一体何方なのでしょうか!憎いですね、こんのモテモテ男!』
…それ俺の事ですよね、宰相。名前は出してないけど…俺の事までイジりだしたか。
『まだジェノバ様は想い人を見つけられていないようですが試合開始です!』
「…皇女だろうが姫騎士だろうが、遠慮はしな――あ、れ…」
…速いな。剣の腕も確かだが何より速い。試合開始直前までキョロキョロしてたジェノバ様は開始直後には対戦相手の背後に周り鞘に納めたままの剣で首に一撃。意識を刈り取っていた。
試合開始からほんの2.3秒の出来事。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
『強い!流石は私採点で95点の高得点な女性!まさか此処まで御強いとは!今の勝利で98点まで上がりましたよ!70点の姫様は大ピンチですな!主に姉の威厳的な意味で!』
「やかましい!余計な事言うな!あと陛下って呼べ!」
…皇帝陛下が70点?ジェノバ様が98点なのは良いとしても皇帝陛下が70点は厳し過ぎない?最低でも80点はあるだろ。良いおっぱいしてたし。
『うるさい姫様は放っておいてー!お次の注目選手はー…おっとその姫様、我らが皇帝陛下の推薦!謎の仮面戦士の登場です!』
なんだよ、謎の仮面戦士って。謎なのはブラックだけで十分……あ、俺か。




