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第182話 捕まえました

「おはよう」


「おう、おはよ」


「ジュン、おはよ」


「おは」


 いつも無言なドミニーさんから挨拶が無いのは良いとして。


 やはり昨晩はドライデンの連中は動かず。


 恐らくは明日の夜に動くんじゃないかとメーティスは予想した。


 何故、今日では無く明日の夜かと言うと。


『明日の夜に雨が降りそうやからな。月明かりもない夜の方が夜陰に紛れ易いわな』


 どうやら連中は増援だけじゃなく雨が降るのを待っているらしい。


 それらしい会話を拾ったそうな。


 てか、メーティスってば天気予報まで出来たのか。


「ん〜…」


「どうしたの、アム」


「いや、なんか新人冒険者ぽい奴らが多いなって。あたいらが来た時よりも増えてねぇ?」


「言われてみれば…」


「そうかも」


 俺達は今、食堂で朝食中なんだが他の冒険者や兵士、騎士達も居る。


 アムの言うように新人冒険者…俺と歳の近そうな冒険者が多く見える。


 むしろアム達のような高ランク冒険者は少ない。


 だが理由については推測出来るが。


「この依頼は拘束期間は長いが報酬は良い。更にランク制限が無い。何も無ければ安全な依頼だし、きっと初期に受けて帰った連中から話を聞いて来たんだろ。安全で報酬も良いならって考える新人は多いだろうし」


 何せ期間中は寝床と食事の心配はいらないしな。お金の無い新人には有り難い依頼だろう。


 逆にお金に余裕のある高ランク冒険者には拘束期間が長い事がネックになる。


 その間に複数の依頼を片付けた方が稼げるからだ。


「というわけで、新人が多いわけ」


「なるほどなぁ。…今更だけどよ、それってドライデンの人間が入り込んだりしねぇ?」


「あっ、スパイってやつね」


「ありそう」


「無いよ」


 ファウには悪いが、その意見はバッサリと斬らせてもらう。


 辺境伯や冒険者ギルドだって馬鹿じゃない。


 この依頼にはランク制限は無いがスパイ防止の為、身元がしっかりしてる王国出身の冒険者で、尚且つ依頼を受けた場所のギルドマスターの面接をクリアした人物に限る。


 その辺りの対策はされているはずだ。


「むぅ。無いのか」


「まぁ買収されて裏切る奴とかいるかもしれないから絶対とは言わないけど。そこまで考えるのは俺達の仕事じゃないから」


 臨時雇いの冒険者を買収したところで大して役に立たないと思うしな。


「さて、今日のあたいらの担当は何処だ?」


 朝食の後、各冒険者パーティーのリーダーに巡回場所と時間を割り振りが伝えられる。


 本来ならアムの仕事だが何故か俺が最初に呼ばれたのを良い事に押し付けられた。


 一度抗議したが「いいじゃんいいじゃん」と流された。


 アムはまだ甘えん坊のままだった。…アムだけじゃないか。


 で、俺達の担当だが…


「午前中に森の中腹辺り。昼に草原の奥地。夜に川の近くだって」


「また奥地かよ。なんかあたいらに危険な場所振られてねぇ?」


「ジュンが居るのにねぇ」


「平等を求む」


 そりゃ仕方ないだろうなぁ。


 新人冒険者が多いんだもの。まさか新人に危険な奥地を任せるわけに行かないんだし。


「ジュンも新人」


「……確かに」


 言われてみれば俺、まだ冒険者になって一年経ってないな。でも一応はCランクだし?


 この中じゃ上の方だからな、問題無い…はず。


 というわけで先ずは森へ。


 森の様子は昨日と一見して変わりは無い。


「…なんか変じゃね?」


「え?そう?」


「魔獣、居ない」


 この森は大きく、そこそこ強い魔獣が居て、生息数も多い。


 その割に遭遇率が低いのだ。特に俺達は森の中心部を目指してる。


 なのに魔獣とあまり出くわさない。


 何故か?勿論理由があって俺とメーティスは把握している。


 ドライデンの傭兵達が間引きしてるのだ。恐らくは数ヶ月に渡って、少しずつ。


 作戦決行時は森を突っ切る部隊だ。出来るだけ迅速に突っ切りたいはず。


 魔獣に邪魔されないように食料調達と小遣い稼ぎを兼ねて間引きしていたのだろう。


「昨日から思ってたけど、やっぱりおかしいよな、これ」


「そう言えば昨日のクレイジーバッファロー、久しぶりだって言ってたね」


「…早めに帰ろ」


 ファウは不安を感じ帰りたがるが、大丈夫だ。


 近くに危険な存在は居ない。


 見られては居るようだが。


「わうぅ…」


「ハティ?どした」


「何か居るの?何も聴こえないけど…」


 ハティは傭兵達の監視の視線に気が付いたらしい。


 俺達が警戒するように傭兵達も警戒している。今日は向こうも中腹まで監視の眼を広げたらしいな。


「…やっぱり早めに帰ろ」


 ハティの唸り声に増々不安を感じたファウが急かすように歩く。


「大丈夫だ、ファウ」


「でも…」


「不安なら、ほら。手を繋いでいいから、って、速いな」


「ん。落ち着いた」


 光速で手を繋いだファウは上機嫌。それを見たアムも手を繋ぎ…残されたカウラが不満そうに頬を膨らませるが…肩車は却下だ。


 森の中で両手を塞がれたままで肩車まで出来るか。


 諦めなさい。


「って、いってぇな!なにすんだ!」


「むぅ…」


「ドミニーさん?」


「……」


 チョップで俺達の手を引き剥がした後、サッサと歩けとばかりに俺の尻を蹴るドミニーさん。


 自分で言うのもなんですけど、俺の尻は人気なんですよ?特にステラさんに。


 蹴ったなんて知られたら怒られますよ?いいから歩けって?


 どうやらドミニーさんも不安を感じているらしい。


 連中が動くなら夜のはずなので、今はまだ監視のみだから近づかなきゃ大丈夫…と説明出来ないのがもどかしい。


 …ところでメーティスよ。何か作戦は思い付いたか?


『…まぁ、一応?思い付いたっちゃあ思い付いたけども。あんまりスマートな作戦やないで』


 ほう?聞かせてみたまえよ。


『ぶつくさ文句言われそうやし、直前に言うわ。長々文句聞きたないし。事前準備も必要無いしな』


 準備不要って…どういう事だ?


『まぁまぁ。草原奥地の巡回時に決行やから。それまで待ち』


 と、言われてから数時間後。


 草原の奥地、国境ラインギリギリまで来た。


 此処には何回か来てるが、毎回視線を強く感じる。


「…見られてんなぁ」


「うん。音は聴こえないけど、見られてるね」


「此処なら平気。吹っ飛ばせるから」


 ファウ…その役目は俺のだから。吹っ飛ばすなら俺に任せて。


『相手は人間の女やって忘れてへん?それよりも、ほら作戦開始すんで』


 おう。何すればいい?


『…脱ぐんや』


 …なんて?


『上半身だけでええから、裸になるんや。そしたら連中の作戦予定はガラッガラに崩れさるわ』


 ナンデヤネン。


 詳しい説明を求む。


『ブルーリンク辺境伯らが長い間要塞に詰めてるように傭兵らも長期間街に帰らず陣取ってるわけや。つまり色々と溜まっとるわけや。そこにマスターの裸なんてみた日にゃ。間違い無く一人や二人は暴走するわ。それを捕まえればええんや』


 ああ…なるほど。そりゃ国境を無断で越えたら捕まえるのは当然だし、捕まえたなら尋問するわな。


 そうなると作戦内容が漏れたと考えるわけで。撤退するか作戦を強行するかになると。


 考えはわかったけど…他に無いのか?


『ほらぁ、文句言うやろ?これが一番楽やって。サッサとやり』


 …いいけどね。上半身裸になるくらい。


「アム、ちょっと防具脱ぐから持ってて」


「……は?いやいや、なんでだよ」


「俺達を視てる奴等の何人かを捕まえようと思って。ファウはゴーレムを出す準備」


「…ん?」


「捕まえるのになんで防具を脱ぐ必要が…って、おいおい!」


「ちょっとジュン!露出狂はクリスチーナだけでいいからぁ!」


 露出狂…まぁ、この世界の基準だとそうなるのか。


 男が上半身裸になるだけで…てか、君ら風呂まで一緒してますやん。


「……」


「ドミニーさん、その変態を見るかのような眼はやめてくれます?」


 さて…傍から見たら突然脱ぎだしたようにしか見えないだろうが…本当に食い付くのか?


『大丈夫や。ほら、来たで』


 お、おぉ…土煙を上げて数十…いや数百人な傭兵達が向かって来る。


「男ぉぉぉ!それも極上の!」「前から気になってたけどマジで男だったぁぁぁ!」「アタシだ!アタシのモンだ!」「誰にも渡すかい!あたしが頂くよ!」


 …トランスしてません?いつぞやのゴブリン達見たく血走った眼をしてらっしゃる。


「お、うぉぉぉ?!マジで来やがった!」


「に、逃げようよ!」


「全力で吹っ飛ばす」


 おっと。ファウが吹っ飛ばす前に無力化するか。


 そうだな…気絶させるか。


「サンダーレイン!」


「「「「「「「「ぴぎゃあああああ!!」」」」」」」」


 雷魔法で感電させて気絶。うん、見事に全員気絶したな。


 あとは…ゴーレムに運ばせるか。


「よし、これでオッケ、ぐへっ!?何すんの!」


「このバカ!やるならやるで先に言えよ!説明しろよ!」


「すっごい怖かったんだからぁ!バカァァァ!」


「お仕置きが必要」


「……」


「わっふぅ…」


 お、おう…確かにそうですね、すみません、はい。

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