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第181話 待ってました

「どうだ、カウラ」


「ん~うん。おかしな音は聴こえないよ」


「ハティはどうだ?」


「わふ!」


「大丈夫そうだな」


「じゃ、帰ろ」


 要塞に到着して四日。


 一日に2回の巡回を複数のチームでこなしているが特に何もなし。


 メーティスの偵察も新たな発見はなし。


「何もなけりゃ楽な仕事だけどよ。正直退屈だよなぁ」


「そうだねぇ。戦争になって欲しいわけじゃないけど、こんなにも何もないとねぇ」


「同意」


 確かに退屈だ。


 要塞の東には川…遡れば誘拐事件の時の洞窟傍に行ける川があり、西側には大きな森がある。


 ドライデンは要塞の北側にあり、間には凸凹した草原があり要塞から死角になる位置にドライデンの傭兵部隊が存在する。


 ドライデン側から王国に入るには草原を進み正面から来るか森を抜けるか川を越えるか。


 ただし森にはそこそこ強い魔獣が生息していて川にも魔獣が居る。


 魔獣と戦い、消耗した後で要塞攻略は現実的では無く、一度として陥落した事は無い。


 攻められた事も無いらしいが。


「折角森に入ったんだから狩りくらいしてぇよなぁ」


「ダメだよアム。襲われた時以外の戦闘は極力避けるようにって言われたじゃない」


「向こうから来たら別」


「……」


「スンスン…」


 心情的にはアムに誰もが同意なんだろう。


 ファウが言うように魔獣から近付いて来ないかなと期待していた。出来れば美味しい奴がいいと。


 そして、その願いは通じた。誰に通じたのかは不明だが。


「来る来る!なんか来るよ!」


「がうう!」


 森の奥から何かが木を薙ぎ倒しながら向かって来る。


 アレは…おやおや懐かしのクレイジーバッファローじゃあ~りませんか。


「よっしゃあ!夕食に一品追加だぜ!」


「やったね!」


 突っ込んで来たクレイジーバッファローはドミニーさんが盾で受け止め、そこをアムが槍で心臓を貫いた。


 正式はパーティーメンバーでもないのに連携が出来るのはドミニーさんが上手く動いてるからか。


「おっし!早速解体だな!」


「ん。…ジュン、どうかした?」


「いや…」


 クレイジーバッファロー…俺達に向かって来る前から興奮状態だったな。


 クレイジーバッファローは攻撃されたら狂ったように襲って来るのが習性。


 だけど何かに怯えて逃げ出す時も同じようになる。


 つまり、俺達は攻撃していない以上こいつは何かに怯えて逃げ出し、進路上に居た俺達に突っ込んで来た事になるのだが。


 というわけで…メーティス。


『りょーかい。森の奥を探って見るわ』


 そして要塞に戻り他の冒険者や兵士、騎士達にクレイジーバッファローの肉を振る舞い、軽い宴のようになった夕食後。


 メーティスの報告を聞いた。


『レッサードラゴンが二体、その飼い主っぽい奴と傭兵部隊がおったわ。連中、これを待ってたんとちゃうか』


 ふぅん…どうやってかは知らないがレッサードラゴンを従えて秘密裏に移動するのは時間がかかるだろうしな。


 それでも要塞を落とすには足りないが、陽動には足るかな。


『そうかなぁ。陽動って考えに固執するんは危険かもしらんで』


 というと?他にも何か見つけたか。


『傭兵らの装備。金の力に物言わせたんか、どれもこれも一級品やわ。そこらの傭兵部隊が用意出来る代物やないで』


 ほう?それはそれは。本気で要塞を落とす気か。


 ……いや。やはり陽動だな。


『ん?なんでや?』


 本気で要塞攻略をする気ならもっと秘密裏に動くだろ。


 ブルーリンク辺境伯が冒険者ギルドに依頼を出したのはかなり前。


 本気で攻めるなら気取られてからすぐに攻め込むだろ。


 防衛態勢が整う前に、な。


『なるほど一理あるわ。それならそれで、どうする?こいつらをこのまま監視したらええ?』


 そうだな…監視しつつ川と草原にも新たな魔獣や部隊が増えてないか探ってくれ。


『了解や』


 そんなわけで追加で上がった情報には草原に傭兵と魔獣の増援。川には船が数隻、隠れるように停泊しているのを発見。


 船には誘拐事件の時に見た怪しい奴らと同じ風体の人間が多数。


 船は黒く塗られており、帆まで黒いそうだから夜戦を仕掛けるつもりか。


 それとも夜陰に紛れて川を遡り侵入するつもりか。


『因みに船には無人の檻があって大砲とかは無い。魔法道具による推進機を積んだ高速船やな。船で戦うつもりは無さそうやで』


 …つまり本命は船か。内地へ船で侵入、村や街で男を拉致、素早く船で逃走。


 草原と森の戦力は川から目を逸らさせる為の囮か。


 船に傭兵の姿は?


『無いな。マスターの読み通りちゃうか』


 …もう動きそうか?


『いいや。船に何かを積込作業しとるからな。今夜では無さそうやで』


 ふむ…なら明日、どうにかして予定を崩したいな。


 草原、森、川…三方向から同時に来られると面倒だ。


『え?そう?わかってたらどうにでも対応でけへん?』


 いやぁ…まだ空間転移は秘密にしときたいからな。飛行魔法も秘密にしとけって言われてるし。


『…もしかして全部マスターが一人で何とかするつもりなん?』


 当然!今回はアズゥ子爵というスケープゴートがいるしな。空間転移と飛行魔法を使えないという縛りはあるが、遠慮なくやれるというもの。


 そうだなぁ…先ず草原の部隊を叩いて次に森。


 最後に魔法で船を沈まない程度に破壊して航行不能においやれば万事解決。


 という流れが理想的なんだが。どうすればいいと思うかね、相棒。


『…欲張らんと一箇所か二箇所は辺境伯と青薔薇騎士団に任せた方がええと思うけど?』


 バーカ言っちゃいかん!それすると死傷者が出るかもしれんだろが!一応は顔見知りになった人らが死ぬ様を見たくないぞ、俺は。


 傍に居るアム達は何が何でも護るしな。


『…さよか。死人が出えへんように動くんはええけど、やり過ぎんようにな。なんぼ身代わりがおるっちゅうても限度があるし。作戦は…なんか考えとくわ』


 頼むぜ、相棒。

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