第179話 陽動でした
「…ノワール侯爵。貴方の強さは本物だ。数々の暴言と非礼をお詫びする」
「はい。謝罪は受け取りましたので、もう謝らなくても大丈夫ですよ」
むしろ俺Tueeeeeさせてくれた貴女には感謝しかありません、はい。
「…取り合えず、場所を変えませんか?」
「カミーユの言う通りだな。現状についての説明も途中であったし」
というわけで場所を変えてブルーリンク辺境伯らと再度話す事に。
あ、ちゃんとカツラはかぶり直してます、はい。
「――と、カラーヌ子爵は言ってました」
「…ふうん?ただの男好きじゃなかったわけか」
さっきは言えなかった、ドライデンがもうすぐ動くと情報を含めたカラーヌ子爵との会話内容を説明…いや、カラーヌ子爵と会ったと言った瞬間何があったか事細かに説明を求められたので話すつもりが無かった部分まで話してしまったが。
「…それでノワール侯爵はどうするつもりかな?」
「どうするって…勿論戦いますよ。いち冒険者として。その為に此処に来たんですし。何より――」
「そうじゃなくてな。カラース子爵の話に乗るのか?」
「鉱石輸送の中継地を作るって話ですか。それに関しては皆と相談しないとなんとも。悪い話ではないように思ってますが」
「そっちでもなくて!カラーヌ子爵に種付けするのかしないのか!どっちかな!?」
えー…そっち?それはどうでも良くない?最重要?なんでやねん…
「鉱石の話だろうが種付けの話だろうがあんたにゃ関係ないだろーが」
「関係ある!大いにあるともさ!カラーヌ子爵に種付け出来るなら私にだって出来るだろうから!」
……………ああ。年齢差を気にしてるのか、ブルーリンク辺境伯は。
32歳のカラーヌ子爵がイケるなら27.8の自分もイケるだろうって?…まぁ、イケるかイケないかで言えばイケるんだけどもね、どっちも。
身体だけが目的ならという下種な考えが許される前提だけども。
『許される上に向こうは身体だけの関係でOK言うてるしなぁ。その上マスターなら確実にカラーヌ子爵の望みは叶えられるわけで。大義名分もあるし、同情の気持ちもあるんやろ?』
そうなんだけども。だからと言ってなんの気兼ねも無しに手を出せるはずも無く。
…悩んでいるとか正直に言わない方がいいな、うん。
「という訳で、ノーコメントで」
「いや答えてくれ、ノワール侯爵!大事な事だぞ!」
「お姉様。これはきっとノワール侯爵様の優しさですよ。普通に考えて年増好きの男性なんてそうはいませんから」
「お。おま、姉を年増と呼んだか!?」
「いいえ、カラーヌ子爵の事ですよ。オホホ」
「いいや!その眼はそうは言ってないぞ!」
「姉妹喧嘩は後にして、話を本題に戻しましょうよ」
だから剣に手をやらないで。そろそろ真面目な話をしましょうよ、ほんと。
「くっ……ドライデンがもう少しで動き出す、という見解は私も同じ。だが正面切ってぶつかって来るかは疑問だな」
「というと?」
「ドライデンの国力でアインハルト王国に勝つのは不可能だ。商人の国だけあって経済力…軍資金は豊富だが軍事力は脆弱だ。兵士より裏組織の手勢の方が強いような国だぞ?現在国境周辺で集まってる戦力の大半が傭兵だし…開戦の機運が高まってはいるが、あの程度の戦力で何をするつもりなのか」
ところがギッチョン。そうでもないんだな、これが。
既にメーティスにドライデン側の状況を探らせているが、いつぞやの村の襲撃のように支配下においた魔獣を使うつもりらしい。
多数の魔獣が大型馬車の中に隠されていた。
それでもこの要塞を落とすには厳しい戦力なのは違いないが。少なくとも大きな痛手くらいは与える事は出来そうだ。
つまり、どちらにせよ、だ。
「此処に戦力を集めているのは何らかの陽動…という可能性が高そうですね」
「…ノワール侯爵の仰る通りかと。団長はそれを警戒して臨機応変に対応出来るよう、後方で待機しています」
ああ…青薔薇騎士団の団長の先代ブルーリンク辺境伯が此処に居ないのはそういう。
でも、それならそれで別動隊の姿があっても良さそうなんだけど…メーティス?
『偵察機で広範囲にドライデンの軍、裏組織の人間、両方を探しとるけど…今のとこは見当たらんなぁ。ひょっとしたら王国やのうて別の国に仕掛ける為の陽動かもしらんで』
別の国…例えば帝国に攻め込む為に王国にちょっかい掛けてるように見せて油断を誘うって?
『せや。実際、帝国に攻め込むっちゅうのは有り得る話やで。少なくともまだ国力が回復してない帝国に挑む方が勝ち目あるわ』
そりゃまぁ…そうか。しかし帝国に攻め込むとなると手出し出来ない…よな。流石に。
残虐非道な行いをしてるとかなら遠慮なく介入するんだが。パワードスーツ着て全速力でぶっ飛んで行きますよ、ええ。
いや、俺Tueeeeeが目的じゃなくて。
「我々に対する陽動だとしても他所に対する陽動だとしても、だ。あの程度では何も出来ずに終わる。精々門や城壁に傷を付けて終わりだ。成果が残せるとは思えないな。それに私達は別の情報も掴んでいる」
「別の情報?」
「うん。ドライデンは現在、内乱の危機…国が二つに割れつつある」
…おっとぉ?それだと話がまた変わって来ますよ?国境付近の敵は陽動なのは変わらないと思うが…それが王国相手なのか帝国なのか、はたまた自国の敵対派閥なのか。全く別の相手が狙いという線もあるな。
その全てが相手、なんて事はないと思うが…どうなるかな。




