第178話 嫉妬でした
「何か始まるのか?」「何でか知らないが副団長がノワール侯爵様と決闘するとか」「……何で?」
要塞の中庭…訓練場のような場所に行くと既にギャラリーが。
見た所兵士や冒険者の姿は無く、派遣された青薔薇騎士団やブルーリンク辺境伯家の騎士の姿しか見えない。
「せめてもの情けと思ってね。貴方との勝負を見るのは私の部下と辺境伯家の騎士、そして貴方の身内のみだ。これなら例えどんなに惨めな負け方をしても噂が広まる事は無い。部下には徹底して口外しないようにさせるしブルーリンク辺境伯様も同様の処置をなさるだろう」
うんうん。普通なら怒る所なんだけども、良いかませ犬、いい道化っぷりだなぁ。俺Tueeeeeのいい添え物だな、うんうん。良い感じ!
『マスター…その考えはちょいと趣味悪いんちゃうか?あの女が勝手に熱吹いて突っ走っとるだけやけども』
ならいいじゃん。俺が積極的に煽ってるわけじゃないし挑戦して来たのも向こう。俺は文句を言っていい立場であって現状を楽しんではいけない立場では無い!故に無問題!
「それでは準備は……ノワール侯爵、カツラを外してはどうかな」
「え?何故です」
「戦場ではほんのわずかな違和感が命を奪う事もある。普段は付けてない物を付けてるせいで負けたと言い訳されても面白くないのでね」
無用な心配だけどなぁ。でも外さないと煩いかなぁ。俺としては余計な邪魔が入る前にサッサと始めて欲しいわけで。
「はいはい。これでいいですか」
「う、うむ……本当に男なのか?」
「まだ何か?」
「いや、何でもない。…勝負は一対一の一本勝負。私はノワール侯爵に負けを認めさせれば勝ち。ノワール侯爵は私に一撃でも入れる事が出来れば勝ち。それでどうですかな?」
「てめぇ!舐めるのも大概にしろよ!」
「ジュンは貴女なんかに負けないんだから!」
「泣かす」
「わふ!」
俺は平気なのにアム達が先にキレそうだな。こんなアウェイで暴れたら袋叩きにされるから大人しくしてなさい。
「副団長!ノワール侯爵様を傷付けたら承知しませんからね!」「何が何でも問題にしますから!」「具体的に言うと団長に報告だけじゃなくアイシャ殿下とジーク殿下にも報告しますからね!」「副団長100の秘密を広めてやるー!」
「貴様らどっちの味方だ!」
「「「「「「ノワール侯爵様の味方です!」」」」」」
「な、なにをー!?」
…アウェイなのは副団長だった件。味方が一人も居ないようですけど、嫌われてます?
「くっ…ノワール侯爵!」
何ですのん…ちょっと涙目になってますやん。爵位が上の人間相手にアレだけ喧嘩売って来たにしてはメンタル弱いんやね。
「貴方は部下達に一体何をしたのだ!」
「は?特に何もしてませんが。初対面の人ばかりですし」
「そんなはずがあるか!青薔薇騎士団は男性の護衛に付く事が多い騎士団!それ故に男性に対して高い免疫を持ち、簡単に惚れた晴れたと恋愛感情に溺れる事がない!そうである事が必要だからだ!なのに以前ガウル様の招待を受け登城した貴方を案内した者を僅かな時間で骨抜きにしたろう!」
ええ…そんなん言われても。本当に何もしてな―――
「ジーク殿下を誑かしただけで飽き足らずガウル様方も誑かしあまつさえ―――」
「待て待て待て待たんかい!百歩譲って部下を骨抜きにした云々は流すとしてもジーク殿下とガウル様方を誑かしたってなんじゃい!そんな事実は無いし俺にそんな趣味は無い!俺は至ってノーマルです!」
『えー…ええやん、折角やから事実にしてまえば。ちょっとジーク殿下といちゃつくくらいなら』
バーカ言っちゃいかん!腐女子に燃料投下するだけだろが!
「騙されるか!ジーク殿下はなぁ!貴方に会ってからというもの口にするのは貴方の事ばかり!あんなメス顔したジーク殿下を見た私の気持ちがわかるか!」
「そんな事聞かされた俺の気持ちがわかるか!?」
ジーク殿下に付いては何とかしなければならないようだ…早急に。いっそジーニさんに頼んで俺に関する記憶を消してもらうか。
「貴様の気持ちなど知るか!私は…私は…ジーク殿下の為にも貴様を倒す!」
…ん?ヒートアップして貴様呼びなのはスルーでいいとして…ジーク殿下の為?やけに力強い宣言ですけど。
「…アズゥ子爵?もしかしてジーク殿下に惚れてます?」
「…は!?な、なにをバカな!わ、私は青薔薇騎士団に所属する身!故にジーク殿下の御傍に居る機会が多かったから心配しているだけで!そもそも子爵家の人間がジーク殿下と結ばれる事などありえない話であって!そもそもジーク殿下はレッドフィールド家の娘と婚約するはずで―――」
Oh…わかりやすい。語気は強いが赤い顔でモジモジしはじめたぞ。
しかし、なるほど。ジーク殿下に惚れてるからジーク殿下が関心を寄せる俺が気に入らないのね。
俺としては非常に不本意なんですけどね、それは!
「な~んでぇ。ようはジュンに嫉妬して絡んでたのかよ」
「そうみたいだね。それならまぁ気持ちはわからなくもないかなぁ。同じ女として」
「意外と乙女」
「わっふん」
「うるさいぞ、そこ!乙女言うな!」
いやぁ、見た目は強面のムキムキな女性騎士ですけど中身は乙女で間違いないですやん。アム達に同意。
「なんだ、そういう事か。だからノワール侯爵に嚙みついたのだな」
「お母様に告げ口はしないであげますね。同じ女としての情けです」
「ち、違っ…ご、誤解しないでくださいブルーリンク辺境伯!お前達も!何を納得顔してるか!」
アズゥ子爵にとってアウェイだったのにブルーリンク辺境伯家も部下達からも優しい眼差しで見られてますやん。
敵意満載の眼で見られてたのに一気に味方に引き込むとは…やるじゃん。
「と、兎に角!私は貴様に勝つ!私が勝ったらジーク殿下から手を引いてもらうぞ!」
おおう!それは思わず負けたくなる魅力的な提案!俺が王家から睨まれる事無くジーク殿下と距離を置けるって事でしょ?
だーがしかし!俺は負ける事は出来ん!俺Tueeeeeに敗北の二文字は無い!
『ええ…そこはアズゥ子爵を応援する意味も込めて負けてあげるべきやないのん?マスターにデメリット無いんやし』
ダーメだ!ここで負けたら負けたで冒険者活動自粛とかなんとか言われそうだし!勝ったら買ったで何か面倒臭い事になる気がしなくもないが!
『…さよか。ならマスターが勝った場合はどーするか言ったりぃや』
ああ、そうか。俺にも要求する権利があるのか……ふむ。
「じゃあ俺が勝ったら此処に居る間に立てた俺の手柄は全てアズゥ子爵の手柄にするって事で」
「……………………は?どういう事だ。意味がわからん」
「まぁまぁ。どういう事かは俺が勝ったら説明しますね。あと条件はお互いに負けを認めさせた方の勝ちにしましょう」
「…いいだろう。どちらにせよ、私が勝つのだからな!さぁ構えるがいい!」
アズゥ子爵の得物は鉄板のような分厚く長い大剣か。ムキムキな巨体に相応しい武器だな。
じゃあ俺は…ミスリルの宝剣とドミニーさん作の新作の剣、二刀流でいってみますか。
「…二刀流だと?そんな付け焼き刃が通じると思っているのか!」
「さぁて。付け焼刃かどうかは余り関係ないと思いますよ」
こういう場合の俺Tueeeeeは一瞬で決着をつけるって相場が決まっている。いくら敵対的とはいえ相手は女性だし。甚振るつもりもない。
「…どこまでも愚弄して…後悔するなよ!行くぞノワール侯爵!」
大剣を上段に構えながら突進してくるアズゥ子爵。五大騎士団の副団長だけあって速い。見た目通りパワーもあるだろう。
しかし、だ。俺には通じないよ、悪いねアズゥ子爵。
「な、き、消え…え?」
「俺の勝ち、でいいですよね」
左手の剣でアズゥ子爵の剣を受け流し、右に半歩すれる。右手の剣でアズゥ子爵の首筋に剣を添える。
その一連の動作を一瞬で行う。視界の外に出られたアズゥ子爵には消えたように見えたかもな。
「バ、バカな…あの功績は真実だと言うのか…」
「それに関しては信じてくれなくても別にいいですよ。でも勝負は俺の勝ちでいいですよね」
「くっ…」
剣を落とし膝から崩れ落ちるアズゥ子爵。そして湧き上がる歓声。
「うぉぉぉ!やったぜ!」
「やっぱりジュンの勝ち!」
「当然の勝利」
「わほぉぉぉぉん!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!」」」」
ふっふっふっ……やっっっっと三回目の俺Tueeeee!出来たなりー!
やっぱ最高に気ッ持ちいいいいい!




