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第166話 来てました

「そこ!飾りが傾いてる!違う、そっちじゃない…そう!」「テーブルの数が足りてない!あと10は要るよ!」「食材の手配は終ってるの?!」「お客様用の御部屋の用意は!?」


 …修羅場ってますなぁ。


 使用人の皆やアニエスさんやソフィアさん…クリスチーナらが陣頭指揮をとって忙しそうにしてるというのに。俺には仕事が無い。働かせてくれない。


「ジュン様は自由になさっててください!」「我々だけで大丈夫ですから!」「後で御褒美だけください!」「愛とか御慈悲とか!」「脱ぎたての下着とか!」


 …とまぁ、こんな感じで。


 御褒美と愛と御慈悲はまだしも下着はスルーでいいな、うん。いや愛と御慈悲もアレか…


 明日は女王陛下に言われて開く事になったパーティーの開催日。


 今はその前日準備で忙しいというわけだ。俺を除いて。


「どうしたんだい、ジュン。随分と暇そうだけど」


「クリスチーナ…仰る通り、暇なんだよ。手伝うって言っても仕事させてくれなくて」


 ボンヤリとパーティー会場の準備を眺めてるとクリスチーナが傍に来た。パーティーに出す料理の食材や土産の品を持って来たんだろう。それらはエチゴヤ商会…クリスチーナに任せてるからな。


「それなら自分の部屋でゆっくりしてたらいいじゃないか。そりゃ君が見てたら使用人達は張り切るだろうけどさ」


「部屋に居たら突撃して来る人がいるから…此処で仕事してる事になってる」


「……ああ」


 パーティーは明日だが遠方から来る人は余裕を持って来る人が多く、何人かは昨日からうちに泊まってる。


 シーダン男爵にレッドフィールド公爵、ブルーリンク辺境伯。そしてその護衛や使用人達。


 俺の家臣であるシーダン男爵はいいとしてレッドフィールド公爵にブルーリンク辺境伯は自分の屋敷が王都にあるのに何故うちに泊まるかな。


 シーダン男爵も暇だからって昼間から飲酒に付き合わせようとするし。それか賭け模擬戦…賭けなきゃ模擬戦するのはいいんだけどさ。


 あとブルーリンク辺境伯とその妹のカミーユさん。二人は俺に料理を作ってくれとせがんで来るか街に出て新しい料理を探しに行こうと誘って来る。二人だけにそんな事すると後々もめるので勘弁して欲しい。


 あとレッドフィールド公爵の夫ベルナルドゥさんとブルーリンク辺境伯の父シブリアンさんも来ている。


 二人も何かと俺と話そうとして来るので…部屋に居ても落ち着かない。


「じゃあアム達と冒険に出るのは?」


「パーティーが終わるまで自粛しなきゃだから…」


「そうだったね…」


 タイラントバジリスクの一件はすぐさま王都中の話題になった。


 ひいじい様ドラゴンゾンビに比べると小物ではあるのだが、それでもSランクの魔獣を単身で討伐は十二分にインパクトがあるらしく、更に最近話題のノワール侯爵様(俺)がまたしても大活躍!となれば噂にならない訳も無く。


 直ぐ様女王陛下の耳に入り、事の真偽を確認する為に登城するようにとのお達し。


 真実だと報告すると「これでまたお前に会わせろ、仲を取り持て、お前を連れて来い、という陳情が我に殺到するじゃないか…暫く自重しろ」と、女王陛下だけでなくアニエスさんとソフィアさんにも言われてしまい。


 パーティーが終わるまで冒険者活動は禁止されてしまったのだ。


 折角ドミニーさんに装備を新調してもらったというのに…残念極まりない。


「訓練場で訓練しててもいつもよりギャラリーが増えてて気になってしょうがないし…」


「ふむ…じゃあ私の仕事を手伝ってくれないかい?」


「クリスチーナの仕事?」


「うん。こないだのポテトチップスと唐揚げの売り上げも順調だけれど、新商品のアイディアはいつだって欲しいからね。ミスリルやアダマンタイトとかの利権にエチゴヤ商会は殆ど絡めなかったし」


「ああ…」


 ミスリルの販売に関してユーバー商会に一任して欲しい、それがゼニータ会長が出した鉱山運営に関するノウハウを提供する条件だったからな。


 勿論、ノワール侯爵家に利益が出るような契約内容になっているし、実際大きな利益が出ているのだけど、他の商会や貴族家はほぼシャットアウト。


 俺の婚約者候補達の家やクリスチーナのエチゴヤ商会が僅かに絡めているだけで、鉱山の利権に関してはユーバー商会のほぼ独壇場になった。


 だからこそエチゴヤ商会と同じくノワール侯爵家のお抱え商会のようになったのだけど。


「ま、アレもコレもと手を出しても良くないのはわかってるからね。それでどう?」


「エチゴヤ商会に行って新商品の開発か…わかった、いいよ」


 このまま此処にいてもやる事が無いしな…そうだ、新商品の開発ならユウかアイも呼んで―――


「そうこなくっちゃね。フフ…久しぶりにジュンと二人きりになれるね。さ、邪魔が入らない内に行こう」


 ――という提案はしない方が良さそうだな、うん。俺にだってその程度の空気は読めるんだ、うん。


『それは何よりやな。ま、わてという乙女と一心同体やねんから、それくらいは出来んとな』


 …逆にお前は男心を理解してくれないよな、相棒。


「あ、ちょっと!クリスチーナ!ジュンを何処連れてくの!」


「ちょっとね。エチゴヤ商会で仕事の話をするだけさ。というわけで私はジュンを連れて先に本店に戻るから。君達は荷物の運び入れを頼んだよ」


「「「ずーるーいー!」」」


「ハッハッハッ!商会長の権限というやつだよ!」


 クリスチーナの部下、同じ孤児院育ちの仲間達がエチゴヤ商会から運んだ荷物を屋敷に運び入れてるのを横目に。俺とクリスチーナはエチゴヤ商会に。


 道中の話題はエチゴヤ商会の最近について。


「さっきも言ったけどポテトチップスと唐揚げの売り上げもあって経営は順調そのもの。とは言え、油断出来ないのが商売の世界だからね。新しい商売のネタはいつでも探しているよ」


「ふうん。じゃあダイアナ商会みたいな明確な敵は出て来てない?」


「競争相手はいるけれどね。それは健全な商売の範囲内での話だから、物騒な事をするような相手はいないさ。でも悩みが無いわけじゃないんだけどね」


「うん?何かあったのか?」


「贅沢な悩み…に、なるのかもしれないけどね。エチゴヤ商会の支店を出そうかと思ってるんだけどね、何処に出すか決めかねてるんだよ」


 ああ…支店か。支店を出してないのが不思議なくらいではある…いや、そうでもないか。


 クリスチーナは今十九歳。商人になってまだ四年目だもんな。それで支店を出すって考えてるんだからかなり早い方か。


「実は私にも手紙が届いていてね」


「手紙?誰から?」


「明日のパーティーの招待客の中から複数人にね。それ以外だと一番の大物は何とツヴァイドルフ帝国の宰相殿さ」


「……何で?」


 ツヴァイドルフ帝国の宰相がなんでわざわざアインハルト王国のエチゴヤ商会に手紙を?


 会話の流れからして手紙の内容は自分の領地で支店を出してくれって内容なんだろうけど…わざわざ他国の商会にそんな依頼するか?


「さぁてね。ま、大方ジュンとの繋がりが欲しいんだろうさ。その他の連中もね。私がジュンの婚約者の一人なのは調べればすぐにわかるだろうし、エチゴヤ商会がノワール侯爵家のお抱えなのも知ってるだろうさ」


 …女王陛下を通しての俺との接触に失敗したから今度はクリスチーナを使って接触しようって?今度は随分と遠回りな気がするけど、ようやる…帝国の人なら俺の事なんて精々が噂程度にしか知らないだろうに。


「他にもレッドフィールド公爵やブルーリンク辺境伯…お二方とは昨日私も話をしたけれど好感触だった。だけど支店を出すのはもう少し先になるだろうね」


「そりゃまた何で?クリスチーナなら上手くやるだろうに」


「ふふ、ありがとう。でも支店を任せられる人材が居なくてね…こればっかりは即席で用意するわけに行かない。信頼できる人物を育てるのは時間が掛かるものさ」


 ああ…そりゃそうか。クリスチーナが雇ってる従業員は多くは孤児院出身の仲間…いや、確か元ダイアナ商会の従業員も何人か雇ったんじゃ?それに店舗の買取もしてたような…支店、既にあるじゃん。


「元ダイアナ商会の従業員は…私を恨んでいるかもしれないからね。逆恨みされないように抑止力として雇い入れはしたけれど、他所で出す支店を任せられるほどに信頼は…出来ないかな」


 逆恨み…そうかなぁ。元ダイアナ商会の会長さん、エンビー会長だっけか。あまり人望なさそうだったし、むしろ感謝されてそうな。


「ま、それくらいかな、私の悩みは」


「…なんか、悪いな。帝国以外には問題ある人から手紙は来てないか?」


「帝国の宰相からの手紙は驚きはしたけど問題って程じゃないよ。問題あるのは――ああいう事する人かな」


「――うん?」


 クリスチーナの視線を追うと…エチゴヤ商会が。どうやら本店に着いてたらしい。


 でもクリスチーナが見てるのは本店の前に停まっている馬車だ。


「どこぞの貴族のようだけど…今日は誰とも面会の予定は無かったはずだけどな」


「ただの客として来ただけじゃ?」


「だったらいいんだけどね…行こうか。面倒な相手だったらジュンは直ぐに奥に行くんだよ」


 いや、そりゃカッコ悪い…男を護るのが女の役目?そろそろその常識なんとかならない?


 俺が強いのは証明出来たっしょ?ダメな物はダメ?


 ナンデヤネン…


「ただいま。表の馬車を見たけれど、アレは?」


「あ、クリスチーナ、良かった。今、店内を見て周ってるあの人がそうなんだけど…カラーヌ子爵様だって」


「何だって?カラーヌ子爵?」


 ええ…何だってカラーヌ子爵が?王都に居るのは明日のパーティーに参加する為だってわかるけど、何だってエチゴヤ商会に?普通に客として来ただけか?


「…兎に角、挨拶するしかないか。ジュン、君は見つからない内に奥へ――」


「いや、無理だろ」


 店内に居た客は俺に気付いてキャアキャア言ってるもの。既にカラーヌ子爵らしき人物も俺を見てるもの。


「いや、しかしだね…」


「どうせ明日会う予定だったんだから、いいよ。それに一応は侯爵の俺が傍に居ればクリスチーナに無茶な要求はしないだろ」


「…すまないね。じゃ、挨拶に行こうか」


 おう…いや、挨拶に行くのはいいけど腕を組む必要は無くね?


 なんか周りの客からの視線に殺気が混じってるけど…影響出るんじゃね?売り上げに。


「失礼、私は当商会の会長クリスチーナと申します。カラーヌ子爵様で御間違いありませんか」


「ええ、ええ~。アーメイ・ヨー・カラーヌ子爵よ~。よろしくね~」


 少し濃い化粧に派手めな装飾品。間延びした口調はのんびりさん、或いはおっとりさんな印象を与えるが眼が獲物を狙うかのような鋭さを持っている。


 何処かちぐはぐ。そんな印象を思わせる深緑色の髪をした女性。それがカラーヌ子爵だ。


「ところで~そちらの男性は~?もしかして~もしかするのかしら~」


「…御挨拶が遅れ申し訳ない。ジュン・レイ・ノワール侯爵です。カラーヌ子爵は領地が隣接する関係上、もっと早く御挨拶するべきでした。遅れて申し訳ない」


「いえいえ~。貴族になったばかり、それも男性ですもの~。その辺りの事をフォローするのが~婚約者の仕事ですのに~。それが出来ない婚約者が~悪いと思います~」


 …おう、いきなりダメ出しかい。俺の事はフォローしてるけど自分より爵位が上の伯爵であるアニエスさんにソフィアさんを悪く言ってるけど、わかってるのかね。


「…それで、本日はどのような御用件で?確か面会の御連絡は無かったと思うのですが」


「ええ、ええ~。今日は只、お客として来ただけなのよ~。居たなら~ついでに~挨拶をさせてもらおうと思っただけから~気にしないで~。でも~手紙のお返事は~今聞いても~いいかしら~」


 …手紙?カラーヌ子爵もクリスチーナに手紙を出していたのか。内容も支店を出して欲しい、でいいのか?


「…支店を出さないか、という御話しでしたら今すぐには難しい状況です。他の方にも御話しは頂いているのですが、同じように説明して御断りするつもりです」


「あらあら~それは残念~一応~理由を聞いていいかしら~」


「様々あるのですが、一番の理由は人材の不足です。離れた場所に出す支店を任せるに足る人材が不足していまして」


「なるほど~確か~エチゴヤ商会は設立してまだ三年くらいの商会でしたよね~なら仕方ないですね~」


「…ご理解いただけたなら何よりです」


「ところで~冒険者のお友達はいないのかしら~?そちらにも御挨拶したいのだけど~優秀なんでしょう~?」


「…彼女達は今は冒険者としての仕事に出ています」


「あらあら~またまた残念~」


 …こりゃ相当調べてるな。本当の目的が俺との繋がりを持つ事なのか純粋にエチゴヤ商会に支店を出して欲しいだけなのかは置いとくとしても、こういうタイプは油断しない方が良さそうだ。


「それじゃ~今日の所は失礼…する前に~。あちらのお菓子~一通り包んでくれるかしら~御土産にしたいの~」


「ありがとうございます。直ぐにご用意しましょう」


「ええ、ええ~御願いね~」


 …意外とアッサリとしてるな。明日も会うんだし、今日は様子見と言ったとこか?


「それじゃ~失礼しますね~明日のパーティーは~楽しみにしてますね~ノワール侯爵~」


「…ええ、御待ちしてますよ、カラーヌ子爵」


 何か仕掛けて来るなら明日って事か。


 こりゃメーティスに偵察させた方がいい…かな?

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