第149話 御約束の展開でした
『やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!やだったらやーだー!うぎゃあああああん!!』
『うぎゃあんて…良い子だから聞き分けなさいっ』
…眠ってた末子の妹ドラゴンが目覚めたので兄ドラゴンが俺達が此処に来た目的を説明。
ミスリルドラゴンに会ってみたいと言う兄ドラゴンに対して真向から反対する妹ドラゴン。
…なんてダイナミックな駄々っ子スタイルだこと。地面に寝転がってジタバタと手足を振っているだけなのだが、傍にいると地面が揺れるし土埃が凄い。
「けほけほっ…まるで子供ですわ…けほっ」
「も~…ウチの自慢の黒髪が…実際、ドラゴンとしては子供なんでしょ。とてもそうは見えないけどさ」
『すまないね…ほら、いい加減になさい。お客さんに御迷惑だよ』
『ほら、話の続きはあっちでしな。ほらほら』
『うぅ~………ふんっ!』
おう…妹ドラゴンが俺達に対して中指立てて挑発して来たぞ。
アレか、大好きなお兄ちゃんを奪おうとするお前達は敵だ!ってか?
『ハァ…あの調子じゃいつまで経っても兄離れ出来そうにないね』
『困ったもんさね。…それじゃ話の続きだけど、あんた達からは何か聞きたい事はあるかい?無ければ、あたしからいいかい?』
「あ、じゃあ俺から質問が。あなた達は何という種族なのでしょうか?」
『うん?見ての通り、ドラゴンだけど?』
「そうではなくて。ドラゴンの中でも何と呼ばれる種族なのか、という事です。ミスリルドラゴンではないですよね?」
『ああ、うん。私達はアダマンタイトドラゴンだよ』
『知られてないって事は此処を出て行った連中は何処で何してるんだろうねぇ』
アダマンタイトドラゴンと来たもんだ。
という事はあのワインレッドの鱗はアダマンタイトの鱗なのか…いや、それよりももしかして?
「あの、もしかして貴方達の棲み処であるこの地下空洞はアダマンタイトの鉱床になってたりしまうか?」
『いや、なってないよ』
『あたし達の魔力の影響を受けてアダマンタイト鉱石が出来るのはお察しの通り。でも此処には幻魔石があるからね。幻魔石の魔力が邪魔をしてアダマンタイト鉱石が出来ないのさ』
むぅ…それは残念。しかし、もし兄ドラゴンがミスリル鉱山に来てくれたなら。ミスリルとアダマンタイト、両方が採れる鉱山になるという事では?
いや幻魔石の魔力が邪魔をしてアダマンタイト鉱石が出来ないのではあればミスリルとアダマンタイトのどちらか片方になるか?
そこんとこどうよ、メーティス。
『そんなんわからんわ。過去に事例のある話やないし。せやけどどちらか片方は出来るやろ。ミスリルしか出来んくても問題なし。アダマンタイトが出来るんならアインハルト王国にはアダマンタイト鉱山は無いから希少性が上がってラッキー。両方出来るんなら超ラッキー。その程度に考えておいたらええんちゃうか』
ほう。アインハルト王国にはアダマンタイト鉱山は無いのか。となると確かに希少性がミスリル鉱山よりも上がって収益も上がりそうだな。
…面倒事も増えそうだが。
『もう他にない?なら一つ聞きたいんだけど、あんた達はどうやって此処まで来れたんだい?ただの人間に森の影響から逃れる事は出来ないと思ってたんだけど』
「ああ、それはカクカクシカジカで」
『へぇ?この森の植物を食べたら迷わなくなった…つまり一時的に森が放つ魔力の波動と同種の波動になったから無効化されたのか』
『じゃあ昔、迷子になって奥まで来た人間の子供は森で何かを食べたんだろうねぇ』
『そんな事もあったなぁ』
おっとぉ?その話は本当の事で、親ドラゴンがその時の当事者らしい。
本当に人間に友好的なドラゴンで良かっ…ん?何か飛んで…
「って、危なっ!」
『チッ!避けんじゃないわよ!』
『こ、こら!何やってるんだ!』
妹ドラゴンが石か何かを投げて来た…一体何のつもりだ?
『こら!何してんだいあんたって子は!』
『だってだって!そいつらが居るからお兄ちゃんが居なくなるんでしょ!じゃあ追い払えばいいじゃない!』
『だからって石を投げちゃダメだ!人間はね、石に当たっただけで死んじゃうんだよ』
『えー?嘘でしょ。そんなに貧弱なの?そんなに弱いくせに何で生きてるの?バカなの?ゴミなの?カスなの?』
………フッ。いいさ。何年生きてるのかは知らないし、相手はドラゴンだが子供だ。子供の言う事に本気で怒ってられないさ。
「だからアイ、落ち着きなさい」
「いやいや…いやいやいや。子供にしちゃさっきのは度が過ぎてるし、やっていい事と悪い事はキッチリ叩き込まないと。後々あの子自身の首を絞める事になるから。大丈夫、ウチは子供を叱るの得意だよ。昔取った杵柄ってやつね」
「なら指を鳴らしてるのは何故だ。あと、拳を光らせるな」
よそ様の子に親御さんの前で体罰はあかん。説教なら親御さんに任せなさい。
『あ?何よ、やるつもり?そんなにちみっこい身体であーしに勝てるとでも~?』
「上等よ、やってやろうじゃない。その無駄にデカい身体をボコボコにしてデブに見えるよう膨らませてあげるわよ」
「ア、アイシャ殿下、落ち着いてくださいませ!あっ、きゃん!」
何も無い所でイーナが転んで、ドラゴンの頭蓋骨に顔面からぶつかった…痛そ。額から血を流してるし。何やってんだか。日常茶飯事過ぎて全く驚かなくなってしまったが。
「はぁ…気をつけなイーナ。ほら、手を……んん?」
「あ、ありがとうございますわ…どうかしまして?」
「がうぅぅぅぅ!」
なんか、今…ドラゴンの白骨死体が動いたような……んんん?なんだ、なんか妙な感覚だ。
何かが白骨死体に集まっているような?それにハティは反応してるのか?
『なんかヤバいで、マスター!こりゃもしかしたらもしかするんちゃうか!』
もしかってなんだよ…って、まさかアンデット化が始まったのか!?
『ちょ、ちょっとあなた!これってもしかして!』
『ああ!ひいじい様がアンデット化する!皆、距離をとるんだ!』
「え、えええ!?ちょ、嘘でしょ!?こんなのが動き出したら此処崩れるんじゃないの?!」
「それ本当ですの!?きょ、距離をとれと言われましても!」
『ああ、もう!仕方ないわね!あんた達、あーしに乗りなさい、早く!』
妹ドラゴンの言う事に大人しく従う俺達。
四匹のアダマンタイトドラゴンが上空に逃れてすぐ。地上から声が聞こえた。
『グゥオォォォォォォォォ!!』
何百年も前に死を迎えたドラゴンがアンデットになった瞬間だった。




