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第144話 トラウマでした

 調査開始から約三時間。


 昼食を採ってから森に入ったので今は午後四時くらい。


 アイとハティも野イチゴを食べてからは急に方向を変える事は無く真っ直ぐ進めている。


 イーナの御手柄だがドジ…というより無警戒さに救われた形なので素直に褒めたくない。


「結構進みましたが…何も発見出来ませんわね」


「そうね…魔獣と何度か遭遇したくらいね」


「わふ」


 遭遇した魔獣は猪型の魔獣ビッグボアとジャイアントホーンラビット。


 どちらも王都近くの森で遭遇する弱い魔獣だが…この森の個体はどれも赤い。正確には本来の色に赤が混ざったような色合いで、ビッグボアは赤茶色。ジャイアントホーンラビットは薄紅色だった。


 普通の動物、鹿も見かけたが鹿の毛色も赤茶色だった。もっと言えば虫、蜂や飛蝗も赤色だった。


 ついでに言えば花も赤い花ばかりだった。


 その辺りは事前に調べてわかっていた内容なので良いとして。


 メーティス曰く、魔獣ではない筈の動物や虫、雑草や花、樹木に至るまで極微量ながら魔力を持っている、らしい。


 ならば石や岩等はどうか、と問えば。それは赤くも無ければ魔力を帯びてもいないただの石、岩だそうだ。


 そして本来持つ筈の無い虫や動物、植物が魔力を持てばそれはもう魔獣じゃないのか、と言えばそうではなく。


 魔獣ならば体内に魔石を持っているがメーティスの (デウス・エクス・マキナを使っての)調べでは発見出来ず。


 結論として、これらは赤くなって魔力は持っているものの、ただの動物、虫、植物に過ぎないと判断された。


 だが、それらは妙な波動を発しており、それが精神に働きかけ方向感覚を狂わせているのではないか。


 波動は森全体から発しており、それはあの野イチゴも例外ではなく。


 あの野イチゴを食べたからこそ、その波動の影響を受けなくなったのではないか、と。


 此処までがメーティスが立てた推測だ。


 何故、この森の動植物はそんな特性を持つに至ったのかは全く不明。


 偵察機は飛ばし続けているが未だ新たな発見は無し。


「ふぅ…少し休憩しませんこと?」


「そうね…ウチも少し休みたいかも」


「了解。あの大岩の辺にで休もう」


 大岩の周りに木々は無く。少し開けているので見晴らしもいい。まだ午後五時くらいだが、今日は此処でキャンプするのも良いかもしれない。


「というわけで、この中で休もうか」


「えっ、今、何処から出したんですの?!」


「おおー!ジュンの収納スキルは家までしまえるんだ」


「わふっふ!」


 家というか、コテージだな。


 結構昔に用意してはいたのだが…今回初登場だ。


 いや今までもさ、旅はしてたし使いたい場面はあった。だけど収納スキル…デウス・エクス・マキナの空間収納能力を知られるわけにはいかない部外者がいたり通りすがりの他人が街道側に家が出来てる事に気が付くかもしれない。


 もしもを考えると使えずにいたのだが…この森ならば心配ないだろう。


 というか、夏場の森だけあって虫が凄い。灯りに虫が集まって来るし、テントじゃ心許ない。


 虫を嫌ってテントで寝れないとか、それでも冒険者かって?なんとでも言いたまえ。嫌なモノは嫌なのだ。


 兎に角、今回はコテージだ。どうせ寝るなら快適に寝たい。


「此処で少し休憩したら周辺を探ってから夕食にしようか。あ、靴は此処で脱いで。ハティは脚、拭いてあげるから待機」


「く、靴を脱ぐんですの?」


「それはいいんだけど、周辺を探索してから休んだ方が良くない?そんな広範囲を探索しないでしょ?」


 それもそうか…二度手間になるしな。一度装備を外したら朝まで外してたいし。


「ところで、何故周辺だけ探るんですの?」


「此処を拠点とするのに問題が無いかを調べる。魔獣の巣が近くにあったら不安だろ」


「それはそうですわね」


「ウチが居れば魔獣なんて怖くないけどね。…こんな風に、ねっ!」


「キュ!」


 茂みから飛びかかって来たジャイアントホーンラビットを手刀で仕留めるアイ。


 俺もハティも勿論気が付いていたが、アイならば心配ないと任せた。


 これが超大物だったり、狙われたのがイーナだったら俺がやっていたが。


「お見事ですわね、アイシャ殿下。ですが、わたくしも当然気が付いていましたのよ?」


「はいはい。わかってるわかってる」


「信じてくれてませんわね…」


 そりゃそうだっちゅーの。俺だって信じないっちゅーの。


「むむぅ…ならば次に魔獣が出たらわたくしにお任せあそばせ!華麗に仕留めて…………」


「…イーナ?」


「どしたの?」


「…その前に、お花摘みに行って参りますわ。オホホ…」


「「…いってら」」


「わっふぅ…」


 本当にイーナは……って、何処へ行く?


「イーナ、コテージはそっちじゃない。コテージはあっち」


「え?あのコテージ、お手洗いまであるんですの?って、きゃあああ!!」


「イーナ?!」


 歩いてたイーナが突然消えた?!いや、あの消え方は落ちた?


「おい、イーナ!」


「何処行ったの!返事してよ!」


「わふわふ!」


「こ、此処、此処ですわ〜」


 声が聞こえるのは…やっぱり下?


 って、おおう?


「なにこれ…穴?」


「穴というより…トンネル?」


 イーナが入った茂みの向こうには人一人入って行けそうなトンネルが。


 トンネルは斜めに地下に向かっているようで、どれくらい深いのかはわからない。


「イーナの御手柄…かな?」


「今回はそれで良いんじゃない?やったじゃん、イーナ」


「そんな事より早く助けてくださいまし!」


「いや…落ちても大丈夫だろ」


 イーナはトンネルの淵から出てる木の根にしがみついてるのだが。


 その位置から手を離したところで落差は精々三十cm程度。


 お年寄りでもあるまいし、その程度じゃ怪我もしないはず。


「酷いですわぁ!わたくしに死ねとおっしゃるのですか!」


「そうじゃなくて。落ち着いて下を見ろ、下を」


「嫌ですわぁ!わたくし以前崖から落ちて以来、高い所が苦手なのですわぁ!グスッ、は、早く助けてくださいましぃ」


「あぁ…はいはい…」


 そう言えばそんな事もあったな…仕方ないなぁ、もう。


「ほら、もう大丈夫だから。落ち着け」


「ひっく…グスッ…こ、怖かったですわぁ…」


 …君、ベルナデッタ殿下の予言じゃドラゴンの背に乗って空を飛ぶんやで?


 とは言えないし…黙っとこ。


「それより、ほら。落ちても全然平気な高さだろ」


「ほ、本当ですわ…わたくしとしたことが取り乱してしま…い…」


「イーナ?」


「なんでまた泣いてんの?」


「……わふっ」


 ハティが嫌そうな顔してイーナから離れた。


 イーナは涙を浮かべて内股になり股間に手を当てて隠してる……もしや……


「……アイ」


「…仕方ないなぁ、もう。ほら、おいで」


「うっ、グスッ…恥ずかしくて死にそうですわぁ…」


 元々トイレに行こうとしての突然の落下感。それに過去のトラウマもあって少しばかり粗相をしてしまったらしい…


「今日はイーナに優しくしてあげような、ハティ」


「わふっ」


 取り敢えず、近くに野イチゴが生ってないか探す俺とハティだった。

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