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第141話 謎のままでした

「結局、ドラゴンに関する新情報はありませんでしたわね」


「無駄骨ね。仕方ないけど」


 アマリロから領都トレッドに移って三日目。レッドフィールド公爵の言うように図書館に通いつめ『赤の楽園』に棲むというドラゴンについての情報を集めたのだが、特にこれといった情報は無かった。


 『赤の楽園(レッドガーデン)』に関しての情報もあまりなく、この三日間の図書館通いは本当に無駄骨となってしまった。


 強いて言えば情報が無いとわかったのが情報か。


 レッドフィールド公爵家の書庫も見せてもらったが収穫なし。


 こっそりデウス・エクス・マキナの偵察機を飛ばしメーティスに探らせているのだが…なんか見つけたか?


『これっちゅうもんはないなぁ。巨体のドラゴンが居るんなら痕跡くらい簡単に見つかりそうなもんやけど、それも無し。魔獣はそこそこおるんやけど。しっかし広い森やなぁ。街一つくらいならすっぽり入りそうなくらいデカいわ』


 先に空から森全体を視たのだが外周部だけ赤いのではなく中心部まで全てが赤い森なのは確認済み。


 棲んでいる魔獣も赤い魔獣ばかりだと言うので、植物や魔獣が赤くなる何かしらの理由がある筈だが、それはまだ不明。


 あとはもうぶっつけ本番でやるしか無さそうだ。


「じゃ、今日はもう帰って早めに寝て、明日出発しようか」


「そうしよっか。…今日もパーティーなのかな」


「パーティーは嫌いではありませんが、こうも連日開かれると疲れてしまいますわね…」


 アマリロから引き続きレッドフィールド公爵の居城でも連日パーティーが開かれていた。


 やはり周辺の領主にも声をかけていて、一日目と二日目で面子が増えていた。パーティーの度に挨拶アピールに来る女性が増えるし…正直、俺はもうウンザリしている。


 そしてそれだけではなく…


「御帰りですか?」


「それでは馬車の用意を」


「さ、こちらへ」


「「「あ、今夜もパーティーだそうですよ。良い魚が手に入ったそうですので楽しみになさってください」」」


 …レッドフィールド公爵家の三つ子がわざわざ王都から戻って来てるのだ。

 

 トレッドに着いた翌日に彼女達も帰郷。それからはずっと俺達に付きっきりだ。図書館での調べものも手伝ってくれているので、文句はないのだが…『赤の楽園(レッドガーデン)』まで付いて来そうで怖い。


 つか、あんた達はジーク殿下の教育係なんだろ。放って来て良いのかよ…という疑問が沸くのは当然だろう。


 俺も直ぐにしたさ。でも返って来た答えは「「「問題ありません」」」の一言。


 何でも年に数回の帰郷は認められているとかなんとか。ジーク殿下が付いて来なかっただけ良しとするべきなのか。


 レッドフィールド公爵家の居城に戻ると、すぐさま公爵の出迎えを受ける…のは良いのだが、どうしてかロッソ子爵も居るんだよなぁ。


「戻ったか。…その様子だと収穫は無かったようだな、ノワール侯爵」


「ええ。後はもう現地で調べるしかないですね」


「そうか。無駄骨を折らせたようですまないな。お詫びと言っては何だが、今日は上質な魚を取り寄せた。料理長が腕をふるうので楽しみにして欲しい」


 …ああ、はい、娘さんから聞いてます。そしてやっぱり今日もパーティー何ですね。


 今日も周辺領主が到着した?ああ、そっスか…


「皆、ノワール侯爵と縁を結ぶ機会が欲しくてたまらないのだよ。ノワール侯爵とて貴族になったばかりで人脈という物が殆ど無いだろう?私は周辺領主にノワール侯爵と縁を結ぶ機会を与えて感謝される、ノワール侯爵は人脈を作る機会を得る。双方得のある話というわけだ」


「win―winの関係だって言いたいのですね」


「う、うぃんうぃん?…ノワール侯爵はよくわからない言葉を使うな。王都での流行りかね?」


 日本で使われてた言葉です、などと言えるはずもなく。愛想笑いで誤魔化しておいた。


 が、その愛想笑いで周りにいたメイドさんや騎士、兵士から黄色い歓声が。レッドフィールド公爵も何やら照れてるし…


「ところで、何故ロッソ子爵が此処に?」


「そそ、それはですね、はい。公爵閣下の御命令でして、はい」


「ノワール侯爵だけでなくアイシャ殿下までいらっしゃるのだ。我が領地の治安の良さは確かだが、より高い安全を確保しようと思ってね。ロッソ子爵を含む家臣達と綿密な計画を立てているのさ。『赤の楽園(レッドガーデン)』に着くまでの道のりは安全・快適な旅になるよう尽力させてもらうよ」


 王女が一緒なんだから、治安に力を入れるのはわかるのだけど…俺の安全を一番に考えてそうな視線を感じる…のは気のせいではなさそうだ。


 で、わざわざアマリロからロッソ子爵を呼び寄せるくらいには重用してる、と。


「しかし、今回私も改めて『赤の楽園(レッドガーデン)』について調べてみたのだがね…レッドフィールド公爵家の成り立ちに深く関わりのある場所だというのに、わかってる事はあまりに少ない。私含め、歴代の当主は何故調べようとしなかったのか…いや、答えはわかっているのだが些か情けない話だな」


 んん?レッドフィールド公爵の成り立ち?それに何故調べなかったのか?…言われて見れば領内に未開の土地があるとなれば普通調べるよな。


 開発可能か不可能か。不可能なら不可能で、その理由くらいは調べてそうなものなのに、その情報も無し。


 しかし、それについては答えがあるとの事ですが?


「私よりも何代も前の当主が調査隊を編成し送った事がある。結果は誰一人欠ける事も無く帰って来ただけだった」


 …うん?誰一人帰って来なかったのではなく、誰一人欠ける事無く帰って来た?…それなら情報を持ち帰った筈では?


「いや、それが何度森に入っても少し進めば森の外に出てしまうのだと。魔獣に遭遇する事も無く、ただ真っ直ぐ進んだ筈なのに、どうしてか森の外に出てしまうのだと。どうしてそうなるのか、全く不明だそうだ」


 …メーティス。


『偵察機は森の外に出る事も無く進んでるで。察するに精神に作用する結界か何かが働いとるんやな。偵察機は勿論やけどマスターにも影響は無い筈や』


 なるほど。それが未だに『赤の楽園(レッドガーデン)』が未開の土地という理由か。


 うん?いや、しかし…迷子になった子供をドラゴンが助けたとかなんとか宰相は言ってなかったか?何故その子供は森で迷子になる事が出来た?直ぐに森の外に出る筈だろう?


『所詮、それは噂に過ぎんて話やろ。仮に事実やとしても現状では理由は不明や。それも現地で調べるしかないな』


 そうなるのか。多少の進展はあったもののぶっつけ本番なのはほぼ変わらんな。


「でもさ、そんな情報図書館にも此処の書庫にも無かったよ?」


「ああ、これは書庫では無く当主の部屋に残ってる報告書の山にあった情報ですので。それはアイシャ殿下と言えども簡単にはお見せする事は出来ない物も含まれておりますから」


「「「私達も手伝ってようやく見つけた情報ですし」」」


 …まぁ、うん。そりゃ部外者、余所者に見せる物ではないだろうけどさ。公爵…俺達を此処に長く、出来るだけ長く逗留させる為に今まで言わなかった…とかないよね?


「…んんっ。さて、そろそろ宴の時間だ。楽しんでくれたまえよ」


 俺の疑惑の視線を誤魔化すようにレッドフィールド公爵は離れて行った。


 それ、認めてるようなものですやん…全く。

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