第137話 怒らせました
「…ねぇ。いい加減機嫌なおしておくれよ」
「そっスよ、ジュン君。そりゃ折角助けたのに結局身内に殺されたのは気の毒だとは思うっスっけど~事情を知らずにやっちゃったシーダン男爵を責めるのは酷っスよ」
俺がカメレオンベアーを助けた経緯を説明後、山からトランに帰るまで、謝ってはくれたが…頭ではわかっていても…モヤモヤ。
シーダン男爵が悪い訳ではないと解ってはいるのだが…
「えっと…ほら!今夜はカメレオンベアーのフルコースにしたげるからさ!前菜からメインディッシュまで!デザートは流石に無理だけど…あ、あと毛皮はなんと魔法道具に加工出来るんだよ!周りと同化するように保護色を纏えるコートになるんだ!結構良い値段で売れるんだけど、アンタにあげるよ!」
これだ。シーダン男爵の機嫌の取り方が的外れ過ぎる…それ、俺が喜ぶと本気で思ってる?
「だからさぁ、いい加減に―――」
「そこまでっスよね。冒険者ギルドに着いたっスよ。って、この馬車は…」
冒険者ギルドに着くと、ギルド前に馬車が一台。
それは白薔薇騎士団の紋章が着いた馬車だった。
「団長達が来てるんっスっかね」
「入ってみりゃわかるよ。邪魔するよ」
シーダン男爵が先頭で冒険者ギルドに入ると、ソフィアさんだげてなくアニエスさん、院長先生、司祭様も一緒に居た。
床には簀巻きにされて転がされたドミニーさんが。
受付嬢の…ウーシュさんだったか。彼女は何故か青い顔して震えている。
「戻って来たわね。思ったより早く帰って来てくれて良かったわ」
「時間に多少は余裕があるが…頭が痛いな」
「…何かあったんですか?」
「ええ…説明するけれど、その前に受けた依頼の完了報告を済ませて来て。その間にギルドマスターが戻ると思うから」
ギルドマスターって、此処トラン支部のギルドマスターじゃなく、ステラさんの事だよな。姿が見えないと思った。
「ウーシュさん、依頼の薬草です…どうしました?」
「ど、どうもこうも!貴方は貴族、それも侯爵だっていうのは本当ですか?!」
「ああ、まぁ…はい」
「どーして言ってくれないんですかぁ!後ろの人達に貴方の事聞かれて何故止めなかったとか何処に行ったかと問い詰められてすっごい怖かったんですから!」
後ろの人達…ああ。ナヴィさんは先ず、シーダン男爵の屋敷に行ってから俺が戻ってないのを確認して、冒険者ギルドに来たんだな。
で、問い詰められて俺が受けた依頼を白状した、と。
「ウーシュさん」
「は、はい」
「受付嬢が冒険者の情報洩らしていいんですか?」
「この流れで私を責めるんですか?!仕方ないじゃないですか!領主様に白薔薇騎士団ですよ?逆らう方がどうかしてますよ!」
それはわかるけど、それはそれ、これはこれ。
ウーシュさんが黙っていてくれれば俺Tueeeeeも出来たし、親熊だって死なずに済んだのに。
「まぁ、罪に問う事はしませんけど。今後は気をつけてくださいね」
「はいぃ…うぅ…なんで私が怒られてるんだろ…」
落ち込むウーシュさんを無視して依頼の薬草を納品。
ブツブツ言いながらも手続きはしてくれたので問題無し。
「ありがとうございました。また来ますね」
「はいぃ…お願いですから、次に来る時は誰かと一緒に来てくださいね」
次がいつになるかはわかりませんけどね。
それに人気がないトラン支部はソロで来るのに便利だから、次に来る時もソロだと思うし。
だから先に謝っておこう、心の中で。
Sorry!
『なんで英語なん?いや、真面目に謝ってないんはわかるけども』
細かい事は気にするな。
あと、前々から思ってたんだけどさ、メーティスよ。
『ん?なんや?』
お前、関西弁のクセにツッコミ力が低すぎ。
我はもっと鋭いツッコミを求む!
『なんやツッコミ力って…てか関西弁使ってたらツッコミ力高くないとあかんのん?』
そう、それが日本人の共通認識だ。
『…ほんまかいな。鋭いツッコミって言われてもやなぁ…どっちかちゅうとわいがボケ役でマスターがツッコミ役とちゃうのん?』
………まあ、変な奴多いからな。否定は出来ない。
「おい、ジュン。こっちだ。この部屋で話そう」
おっと、ステラさんが戻ってた。隣には知らない女性……女性?
いや、服を着たゴリラだわ。冒険者ギルドに何故ゴリラ?
いつから此処を冒険者ギルドだと勘違いしていた?とか言われるの?
動物園でもジャングルでもないよね、此処。
「どうした?早く入れ。他の連中はもう中に入ってる」
「いえ、あの…そちらの方は?」
「ん?あぁ、初対面だったな。こいつはモンジェラ。此処トラン支部のギルドマスターだ」
「初めまして、ノワール侯爵様。聞いていた通り、美しい殿方ですのね」
……語尾に「ウホッ」ってつかないんだ。人語を解するゴリラ…ってわけじゃなさそうだ。
シーダン男爵は兎も角、ナヴィさん達も驚いていない所を見ると特におかしな存在ではないらしい……メーティス!説明!
『はいはい。彼女は猿頭族やな。アムやカウラみたいな獣人とはまた別の、亜人種として認識されとる種族で、絶対数の少ない種族やな』
……ゴリラ族って、まんまですやん!もっと捻らんかい!
あれか、犬頭族や猫頭族と同じような種族って事か。
しかし、それならそれで何故豚頭族のように人間に近い容姿になっていないのか……謎だ。
「あの……何か?」
「……いえ、何も。失礼します」
「じゃ、暫く部屋を借りるぞ。シーダン男爵も来てくれ」
「あいよ」
部屋に入るとドミニーさん以外は全員ソファに座っているがドミニーさんは簀巻きのまま床に転がされたまま。
察するに彼女が何かしたようだが…
「…説明してもらえますか」
「ああ…何となく察してると思うが、そこのバカがやらかしてくれたんだ」
アニエスさんが指差すのはやはりドミニーさん。
院長先生も司祭様も申し訳無さそうな顔してるし、ステラさんに至ってはドミニーさんの上に座ってる。
ソフィアさんも不機嫌なのを隠そうとせずに睨みつけてるし…本当に何した?
「全く…ドミニー、私はお前を味方に引き入れろとジュンに薦めたんだぞ。その私の顔に泥を塗りたくってくれたな、おい」
「ずっと会って無かったせいで貴女の考えがわからなくなってたのかしら…本当に予想外だったわ」
「私の精神魔法で記憶をイジるのも無理だし…困ったわね」
「……」
司祭様の精神魔法が効かない相手?…心当たりはありますけど?
「ドミニーはミスリルドラゴンの鱗を剥がしたんだ。いきなり、無許可でな」
「それに激怒したミスリルドラゴンはあの鉱山を出るって大騒ぎで…何とか宥めて落ち着かせたのだけど…」
「一ヶ月以内に番となる雄を連れて来い。そういう条件を出されたの」
……Oh。
つまりドミニーさんの目的はミスリル鉱石の採掘では無くミスリルドラゴンの鱗を手に入れる事。
それを言葉足らずに説明した為に、院長先生達も勘違いした、と。
そしてミスリルドラゴンへの接近を許し…鱗をベリっとやったと。
「私達に言えない訳だ。許可するはずがないしな」
「私達も油断してましたね。Sランク冒険者で、院長先生達の仲間なら心配要らないだろうと…」
一ヶ月以内に番となるドラゴンか人間を見つけないとミスリル鉱山は廃鉱になる、と。
……詰んでない?




