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第132話 新鮮でした

 アニエスさんから無断でミスリル鉱山へ入ろうとした人物が居ると報せを受けた俺達は、取り合えず現地に向かう事に。


「しかし、何故私達に報せる必要が?そんな不届き者、ローエングリーン伯爵の一存で決めていい筈では?」


「そうもいかん相手…かもしれないんだよ、レーンベルク伯爵。その冒険者な…Sランク冒険者のようなんだ」


 お、おう?Sランク冒険者?となると…アインハルト王国だと名誉貴族とやらになってるかもしれんのか。


 一代限りの貴族とはいえ、簡単に処罰出来ない相手、という事か。


「しかも、その冒険者は一人で活動していて尚且つ、ドワーフなんだ」


 ソロで活動してるドワーフのSランク冒険者…一人だけ思い当たるなぁ。知り合いではないけども。


「名前はドミニー。Sランク冒険者証を持っていたから間違いないだろうが、現在冒険者ギルドに問い合わせ中だ」


 ああ、やっぱり。しかし、何者かわかってるなら俺達を呼ぶ必要は…あるか?


「いや、それが…名前をボソッと小声で呟いた以外は何も話さなくてな。何が目的で鉱山に入ろうとしたのかもわからん。埒が明かないので今、大急ぎで院長先生らを呼びに行かせてる所だ」


 …捕まって事情聴取されても名前以外は喋らず、冒険者証を提示しただけって事か?


 無口だと聞いてはいたが、そこまで行くともはや別物じゃね?


 罪の発覚を恐れて黙秘権を行使してるとしか。


『アインハルト王国に黙秘権とか無いで。確か』


 無いのか…法整備も遅れてそうだもんな。


 しかし、本当にSランク冒険者のドミニーなら目的は予想が出来る。


 ドミニーは鍛冶をやっていて、素材集めを兼ねて冒険者を続けていると聞いた。


 ならば目的はミスリルだろう。


 何処でミスリル鉱山の噂を聞きミスリルを求めて此処まで来た…よくよく考えてみればミスリルドラゴンの存在は秘匿されているからな。


 ミスリルは僅かとはいえ、市場に流してるのだから隠しようが無いし。


 ミスリルはアダマンタイトに並んで貴重な鉱石だからな。

此処のミスリルは上質らしいし。十中八九、間違い無いだろう。


 という事を話てみたが、反応は良くない。


「ミスリルが目的なのは直ぐに考えたさ。アイツが本者だろうと偽者だろうとあのミスリル鉱山に入る目的なんてミスリルかミスリルドラゴンかの二択だろう」


 ……それはそうですね。ミスリル鉱山に入るって時点で目的は限られてるわけで。


 関係者以外なら誰であろうと目的はミスリルに決まってるわな。


「それでドミニーさんは今何処に?」


「集積所だ。アソコなら兵士が常駐してるし、簡易だが宿泊施設もあるからな」


 ミスリル鉱山からトランの街までは少し距離がある。


 そこで鉄鉱山が稼働していた頃に使われていた集積所を再利用。


 貴重なミスリルを狙っての襲撃を警戒して兵士が常駐。騎士も数名は派遣されている……らしい。


 らしい、というのは俺は話を聞いただけで実際に手配したのはアニエスさんやソフィアさん達なので。


 本当に侯爵になっても仕事は殆ど振られていない。今回、シーダン男爵との会見が仕事と言えば仕事か。


「見えたぞ。彼処が集積所だ」


「……なんて言うか、砦みたいですね」


 土魔法使いを動員して作られたのだろう石壁で囲われた集積所。


 見張り台が四方にあり外壁にも兵士の姿が見える。


 敷地面積も大きいし…本当に砦として活用出来そうだ。


「砦か。確かに砦としても使えるぞ」


「ミスリル鉱山は此処を含めて王国内に三箇所。その内一箇所は採掘量は僅か。もう一箇所は採掘量も埋蔵量も豊富で安泰なのですが…それでも貴重なミスリルですからね」


 …話を聞けば聞くほど、よく俺に渡したもんだと改めて思う。


 そりゃいつ枯渇してもおかしくないミスリル鉱山なんて欲しくないかもだけど。


 何をも俺みたいな新人貴族に渡さなくてもいいじゃん。レッドフィールド公爵とかいるじゃんか。


「ああ、それは…元ノワール侯爵家の家臣達をどうにかしたい、というお考えも陛下にはあったんだと思うぞ」


「…というと?」


「シーダン男爵の前で言うのもなんだが…」


 アニエスさん曰く。


 ノワール侯爵家が熾烈な家督争いの末、断絶の憂き目にあった際、生き残り独立した家臣達。


 ノワール侯爵領を分割、独立した家臣達の中で領地運営が上手く行ってるのは一家のみ。


 その一家も他の領主に比べて並程度でしかない。


 シーダン男爵のように厳しい状況にある領主は主家である王家に頼りっぱなし…親の脛をかじり状態が続いているとの事。


 ミスリル鉱山の運営を軌道に乗せれば、そんな奴らを引き取ってくれる…かもしれないという期待を王家…女王陛下はしているのだとか。シーダン男爵が家臣になったように。


「何せミスリル鉱山の元々の持ち主はノワール侯爵だし、引き取って欲しい奴らはシーダン男爵のように元ノワール侯爵家家臣。元に戻るのは自然な流れ、と言いたいのさ、陛下は」


「借金苦に陥ってるから返す言葉もないけどさ。アタシは陛下の脛かじりはしてないからね」


 つまりは元ノワール侯爵領を元通りにしたい。現ノワール侯爵の俺の領地になるようにしたい、と。


 そう女王陛下は考えてると言いたいらしい。


「直接陛下に聞いたわけではないがな。…此処だ。入るぞ」


 集積所内の詰所のような建物に入ると数名の騎士と兵士に囲まれた人物。


 全身鎧を着て、兜は外している少女。


 量が多く三つ編みにされたピンクの長い髪。135cmくらいに見える小柄な体躯。少し尖った耳。


 間違い無くドワーフだろう。


「待たせたな。何か話したか?」


「いえ、まだ何も…冒険者ギルドから返事が来て、間違い無くSランク冒険者のドミニー殿だ、との事なのですが…」


「……」


 やっぱり本者か。ステラさんが王国に戻って来てると話してたし、間違い無いだろうと思ってたが。


「そうか。ではドミニー殿。改めて聞くが此処には何をしに?」


「……」


「…このミスリル鉱山の現在の所有者は彼、ノワール侯爵だ。ミスリルが欲しいなら彼が居る前でした方が早いが?」


「………彼?」


 ん?今、ボソッと何か言ったか?よく聞こえなかったが。


「ようやく名前以外の言葉が聞けたな。そうだ。非常に珍しいが我が国では唯一の男性当主ノワール侯爵だ」


「!!!???」


「む!何をする…か?」


 突然、兜をかぶり立ち上がり壁に立てかけていたハンマーと盾を構えて壁際まで下がるドミニーさん。


 盾でよく見えないが…震えてる?


 ドミニーさんの突然の行動に抜剣しかけた騎士も困惑してる。


「…ドミニー殿?何をしている?」


「………男、怖い」


「…今、男が怖いと言ったのか?」


 また俺には聞こえなかったが…男が怖い?男性恐怖症ってやつか?


 男性恐怖症の女性…それを新鮮だと感じてしまう俺は毒され過ぎだろうか? 

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