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第130話 家臣にしました

 どうしてこうなった。


「じゃ、始めますかね。先に一撃入れた方が勝ち。それで構わないよね?ノワール侯爵」


「あぁ、はい…」


 俺は今、シーダン男爵家屋敷の庭でシーダン男爵と模擬戦を始めようとしていた。


 ほんと、どうしてこうなった。


 事の始まりは一時間前…



「よく来てくれたね、ノワール侯爵。アタシがシーダン家当主、チェキータ・アンドレア・シーダンだ」


 トランに到着して真っ直ぐにシーダン男爵に会いに屋敷に向かい。


 屋敷に入って直ぐに当主自らのお出迎え。


 この人がシーダン男爵…ベリーショートなアッシュグレーの髪。服の上からでもわかる鍛えられた体躯。野性味のある顔立ち。


 見た目で武闘派だとわかる女性。


 それがチェキータ・アンドレア・シーダン男爵だ。


「初めまして、シーダン男爵。ジュン・レイ・ノワール侯爵です」


「ふぅん…噂通り、いや噂以上の美形じゃないか。あんたらがお熱になるのもわかるよ、レーンベルク団長」


「…それよりも。私達はともかく、ジュンく…ノワール侯爵にはもう少し丁寧な言葉を…」


「アタシの口が悪いのはわかってた事だろう。ノワール侯爵も勘弁しとくれよ」


 …いいんだけどさ。むしろこういうの事前に伝えとくべきじゃないの、ソフィアさん?


「で、そっちはゼニータ会長か?久しぶりだね。で、あんたは孫?」


「ええ、ご無沙汰しておりますシーダン男爵様。これは孫娘のベニータです」


 ペコリと頭を下げるベニータを一瞥してシーダン男爵は一言「弱そ」と小声で呟いた後、俺に視線を戻した。


 興味の対象は強いか弱いかで決まるのか?脳筋武闘派の考えっぽいと言えばその通りか。


 しっかし…屋敷の大きさの割に人がいないな?


 当主自ら出迎えたのは人がいないから?掃除は行き届いているようだから、使用人が居ない訳では無いと思うが。


 まさかシーダン男爵の横に控える執事とメイドの二人だけじゃあるまいし。


「そのまさか、だぞノワール侯爵。アタシの家臣は今やこの二人と街を守る衛兵くらいなもんさ」


 …なんとまぁ。


 それってもしかして借金苦が原因で解雇したと?


 あ、正解っスか…大変っスね… 


「さて、と。早速本題と行きたいとこだけど…先ずは酒だ!飲むぞ!」


「え?まだ昼前ですけど…」


「借金の話や仕事の話なんざ素面で出来っかい!」


 いや素面でやんなきゃダメ…食事も出る?


 それなら、まぁ…少し早い昼食だと思えば付き合えますけども。


「意外と真面目なんだな、ノワール侯爵。レーンベルク団長から聞いた話じゃ男だてらに冒険者をやってるんだろ?だったら昼だろうが夜だろうが酒を飲むだろうに」


 まるで冒険者は皆酒飲みの飲んだくれみたいに聞こえますけども。


 そうじゃない人も沢山いるわけで。


「ほぉん?ま、いいや。酒も残り少ないしぃ。けどメシは食おうぜ。あ、そうそう。ローエングリーン伯爵はミスリル鉱山に視察に行ってるぜ。帰りは夜になるって伝言だ」


 そんなわけで食堂へ。


 用意された食事は…決して貧相では無いが貴族としてはギリギリのライン、といった所か。


 これがシーダン男爵が出せる精一杯なんだろう。


「わりぃね。入ってくる収入の殆どは街の為に使ってるんだ。シーダン男爵家にはあまり入ってこねぇんだわ」


 …ふむ。お金に困ってるのは確かみたいだな。


 此処に来るまでに十分に伝わってるけど。


「さて…と。ノワール侯爵」


「はい」


「廃鉱山がミスリル鉱山になった件はアタシも知ってる。アンタがミスリル鉱山の権利を陛下から下賜された事も。ミスリル鉱山の運営が軌道に乗れば、この街も活気付く。協力しない手は無い…だが」


 だが、シーダン家には先立つ物が無い。協力したくても出来ることが少ない。


 それがシーダン家の現状なのだと彼女は言う。


「そこで、だよ。いっそうちごとこの街を取り込んでくれやしないかい?そうすりゃトランと二つの村がノワール侯爵領になる。そうなれば鉱山の運営もスムーズになるだろ?」


 つまりノワール侯爵家の家臣になるから、その代わりに借金をなんとかしてくれ、と。


 事前に予想してた通りの要求だな。


「いやいや。アタシがした借金を肩代わりしろなんて恥知らずな要求はしないよ。アンタが女ならまだしも男にそんな要求したら女が廃るって」


 じゃあ、どうするか。これからは代官としてトランと二つの村を治め、働くからそれなりの給金をくれ、と。


 借金を自分で返すって気概は好感が持てるけど…実際に可能な額なのか?


「実はアタシも冒険者やっててね。コツコツ返してるんだけど…これが中々…因みに今並んでる肉。アタシが仕留めた熊ね」


 Oh…ワイルドだこと。そこは流石武闘派貴族と褒めるべきか?


「カラーヌ子爵以外の借金は返したんだけどね。アイツはガメついから金利も高くって。母さんが借りたお金は金貨十枚なのに今じゃ金貨三百枚だよ。参ったね、アッハッハッ!」


 Oh…いつ借りたのか知らないけど三十倍にまで膨らむ金利とか…ヤバそ。


 しかし、まぁ…金貨三百枚ならなんとかなる…かな?


 クリスチーナに頼めば出して……って、いやいやいや!


 なんちゅうヒモ男な考え!金を出してもらうのが当たり前な感覚に慣れつつある自分か怖い!


 何の為に特許をとってるのか!


 今ある貯金でも金貨三百枚は出せるんだから俺が出すべきだろう!


 って、カラーヌ子爵の名前が出たな。


「もしかしてカラーヌ子爵に何か要求されてます?」


「…鋭いね。ミスリル鉱山の利権に一枚噛ませろってさ。アンタ達がアタシに協力を要請する事を読んでたんだろうねぇ」


 …そう来たか。借金を盾にミスリル鉱山運営で発生する利権に絡むのが目的。


 それって…あまり良くないよな?収入が多少減るくらいはなんともないが。


『良くはないな。そんな例外を認めたら後から後から同じような輩が出て来るで。可能な限りマスターを護る会の面子だけで回すべきやな』


 だよなぁ。カラーヌ子爵は噂を信じるなら関わらない方が良さそうだし。


 男好きなんて評される人物には近寄らないのが吉。


 で、そうなると取るべき選択肢は…

 

「わかりました。シーダン男爵さえ良ければ家臣に迎えいれます」


「お!やっりぃ!助かるよ!」


 これは前もってソフィアさんらと相談した結果決まっていた事だ。


 シーダン男爵と会ってみて、俺が問題ないと判断すれば受け入れていいと。


 何せノワール侯爵家には家臣が居ないからな…屋敷で働いている使用人でさえ他家からの出向かクリスチーナが雇っているかのどちらか。


 家臣が一人もいない侯爵などあり得ないので、一人くらい受け入れるべきだろう、となったのだ。


 取り敢えず、家臣に迎えたからには一旦借金を肩代わりするくらいおかしな話じゃないだろう。


 カラーヌ子爵が余計な手出し出来ないようにする為にも―――


「んじゃ、飯食ったら早速ヤんぞ!」


「は?ヤる?って何を…まさかナニですか?!」


 この人も所詮はこのイカれた世界の住人か!隙あらば即そっち系の話に持って行きやがって!


「ナニってなんだよ…模擬戦だよ、模擬戦。アンタはアタシの事よく知らねぇし、アタシもアンタの事知らねぇ。だから戦うんだよ!戦えば相手の事がよくわかるからな!」


 Oh…どうやら俺がこの世界に毒されていたらしい。


 ベニータ、止めなさい。そんな眼で俺を見るな。俺のガラスハートが傷付いてしまう。


『だからマスターのハートはっ…て、もうええわ』


 何を言われようと俺のハートは繊細なのは変わらないからな。


 寂しいと死んじゃうアルパカよりは頑丈だとは思うがね。


「何黙ってんだい。ヤるのかヤらねぇのか。どっちだい」


「ああ、はいはい。良いですよ…って、あっ!」


「お!そうこなくっちゃあな!言っとくが男でも冒険者だってぇなら手加減しねぇぞっと!」


 しまったなぁ…初対面の女性と模擬戦とかあまり気乗りしないんだが…ま、所詮は模擬戦か。


 あまり気負う事も―――


「因みに勝った方は負けた方に何でも命令出来るとかどうよ。おもしれぇだろ?」


 それはもはや模擬戦では無くガチ勝負になりませんかね?! 


「一旦受けた勝負だ。まさか逃げたりしないよなぁ?ノワール侯爵ぅ?」


 …家臣になると言っておいてこの女…やったらぁ!

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