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八九三の女  作者: 七星瓢虫
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[共同生活]

借金のかたで連れて来られた自分に

どんな扱いが待っているのか、子どもながらに理解している


促された居間の隅っこに少女はランドセルと手提げ袋を置く

玄関の三和土に置いたままのキャリーケースは

キャスターを綺麗に拭いた後、部屋に持って来よう、と思う


その前に


脱いだ背広の上着をカウチソファの背凭れに掛け

腰を下ろす社長に聞く


「なにをすれば、いいですか?」


淀みなく言えた自分に感謝だ

弱みを見せたら最後、毟られるだけ毟られる


子どもだから具体的な事は知らない

だが、子どもだからは裏街では通用しない


それだけは知っている


思えば、叔母を一人にするのは心配だが

生まれも育ちも裏街の住人だ

自分の知らない逞しさを持っているはずだ


覚悟を決める

返事を待つ少女に社長は顔を向ける事なく、答える


「飯を作って、片付けをして」

「休まず学校に通え」


それは叔母との生活となんら変わらない


寧ろ、家事全般が全く出来ない叔母よりも

手が掛からないんじゃないか、と思う


生き延びる術として観察する癖が付いている


何気なく観察した部屋は

無駄な家具がなく簡素だが整理整頓が出来ている


徐に居間続きの台所に行き

一人暮らしにしては大き目の冷蔵庫に手を掛ける


矢張り、無駄なモノはないが

調味料、使い掛けの材料等、料理している節がある

見ればロータイプの食器棚には電子レンジは当然、炊飯器もある


冷蔵庫の扉を閉め、部屋中を見回すも

何故か、時計が見当たらないのでポケットの携帯電話を取り出す

なんだかんだでもう、六時過ぎになる


社長達の訪問がなければ、いつも通り買い物に行って

晩御飯の支度をする予定だった


床に置いた手提げ袋の中からががま口財布を探す

買い物メモがあり、じゃが芋人参玉葱牛肉とで肉じゃが、だ

残った野菜で明日はカレーの予定だ


「よし!」と、呟いて

立ち上がる少女は自分の行動を眺めていた社長と目が合った

ずっと見られていた事に少し戸惑うも、顔には出さず


「買い物に行ってきます」


そう言うとエコバック片手に玄関へと向かう


裏街は狭くはないが広くもない

大手スーパーはないが不足のない商店街はある

裏街の、住人の殆どが御用達だ


その後を追う社長が呼び止める


「金」


そうしてワイシャツのポケットからマネークリップを取り出すも

少女は少女で手にした、がま口財布の中身を見せる


「叔母に貰ってます」


確かに、中には一万円札が折り畳まれて入っている


社長はがま口財布の一万円札を摘まみ上げ

自分のマネークリップから抜き取った一万円札を入れた


「コイツは返済に回す」


折り畳まれた一万円札を広げながら廊下を引き返す

社長の背中に少女が声を掛ける


「苦手なモノは?」


「ない」

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