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八九三の女  作者: 七星瓢虫
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[返済計画]

当初、叔母の借金返済計画は

叔母提案の無謀な計画の末、自身の生活さえ危ぶまれたが

担当社員と深謀し直した結果、遅滞する事なく返済をし続けている


「流石だ、叔母さん」


担当社員の回収を待たずに

事務所に返済に訪れた叔母を自室に招き、社長は素直に褒めた


社長室の、暗黒色の本革張りの応接ソファに

ちょこんと腰掛ける叔母は気を良くしたのか、うふふ、と笑う


「だって~、社長~いったでしょう?」


「ん?」


「おまえはイイ女なんだから~」

「せびらせるな、せがませるな、ねだらせるな、って~」


言い方は違うが三つの言葉の意味は同義だ


「だからあたし~、ど~んとかまえてやったの!」


するとどうだろう

叔母の恋心を巧みに操っては金品を強請っていたホストの彼は

うんともすんとも言わない叔母のご機嫌を伺うようになった


切り捨てるにはホステスとしてそこそこ稼いでいる叔母は惜しい


贅沢を控え、我儘を控え

ホストの為に散財しなくなった叔母の財布事情は真面になった

その結果の借金返済計画の進捗だ


叔母はゆっくり立ち上がり社長が座る、社長机の前に歩み出る

自慢気に腕を組み仁王立ちする叔母を眺め、社長が言う


「そうなの?」


「そ~なの~」


「で、どうする?」


ここは金貸し屋だ

金を貸し、回収するのが仕事だ

一回きりの貸し借りでは旨みがないが、これ以上の貸し付けは不要だ


借金を返済した暁には「どうするのか?」と、社長は聞く


唯、用事がなければ事務所にまで来ないだろう

自分だけに話しがあるから部屋ではなく、ここに足を運んだんだろう


「千を~かえして」


至極、当然の要求だ

担保は支払いが困難になった場合以外、弁済は行えない


「そいつは困るな」


「ちがう~!」

「あたしのほうがこまってるの~!」


突然、叔母がその場で地団駄を踏み出す


社長の背後に控える

運転手兼社員(以下、社員)の脳裏にあの日の悪夢が蘇る

今も尚、窓口業務に就けない彼は社長の側で仕事を学んでいた


「できない家事で体はぼろぼろ~」

「外食ばっかの食事で肌はがさがさじゃな~い!」


社長机に乗っかる勢いで社長の目の前にずずいっと頬を差し出すも

今一、反応の悪い社長の代わりに背後の社員が覗き込む


「ああ、確かに」


明白に同意されて腹が立ったのか

叔母は社員の顎に爪を立てると力の限りに、遠くへと押し遣る

その指を見止めて社長が聞く


「爪、どうした?」


常にキャンディネイルを施していた爪が

徴のロリポップ諸共、綺麗さっぱりなくなり適度な長さに切られていた


社長に指摘され叔母は慌てて

泣きそうな顔で両手の指を隠すように胸元で握る


「なんでもない~!」

「ただの気まぐれだから~!」


「知ってる」


社長の口角が本の少し、上がる

承知の上で話題にしたと言っても過言ではない


「え?なにが~?」


叔母は社長と社員の顔を交互に見遣り、素っ惚ける


「悪い」

「全部、知ってる」


叔母の返済状況を鑑みて

少女の「叔母の生活が心配」と、いう訴えを受けて

月に数回、叔母のマンションに通う事を許可した


案の定、散らかり放題の部屋を片付け

生活感なしの冷蔵庫にタッパーウェアに詰めた惣菜類を差し入れる


そんな日日が続いた、ある日

「何等、解決方法ではない」と、気付いた少女が

叔母に家事を仕込む為、此方の世話が疎かになるかも知れない

と、社長は少女から相談を受けた


結果


「できない家事で体はぼろぼろ~」は、真実だが

「外食ばっかの食事で肌はがさがさじゃな~い!」は、違う

多分、慣れない環境故のストレスだ


社長の言葉に叔母は社長机に突っ伏して訴える


「だったら、千にいってよ~!」

「千、すんごいスパルタであたし~、こわいんだから~!」


姪と社長の関係を知った今、応援したい気持ちはある

あるけど、自分の生活が脅かされるのなら素直に祝えない


況してや姪の情報に拠ると

社長は自立力高めで家事は完璧だと、聞いている

ならば通い婚で構わないのでは、と思う自分が身勝手なのだろうか?


社長に縋り付くつもりはなかった

唯、共同生活といか同棲生活というか、それを解消出来ないか、と

お願いするつもりだったが何故か先手を打たれた


叔母に逃げ道はない

抑、叔母に逃げるという選択肢は認められない


叔母の為を思う、少女の心を社長が汲まない訳がない


突っ伏したまま身動ぎもしない叔母に社長が言う


「取り合えず、やってみろ」


素気なくも社長なりの励ましだ

頷く社員が叔母のふわふわの頭をぽんぽんする


「俺もそう思う!」

「一丁、死ぬ気でやってみろや!」


思いがけず、二人に励まされて叔母は悪い気はしない

悪い気はしないが単純に喜べない

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