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八九三の女  作者: 七星瓢虫
22/69

[既読スルー]

レンタルした乗用車の車内で、小鳥遊君は事の次第を聞く


月見里君の恋は盲目


叔母との出会いに浮かれて連絡先交換をすっかり忘れた

月見里君は姪である少女の連絡先をいとも簡単に入手する


「部田のメッセージID、教えてー」


「分かった」


人馴れしていない少女が深考を怠ったのは否めないが

兎にも角にも少女を通じて、叔母の詳しい情報を得ようとする


叔母の連絡先を聞き出すのは容易いが

敢えて、遠回りするのは「恋に恋する過程を楽しみたい」

と、いう月見里君の乙女的思考に他ならない


だが放課後、頻繁にくるメッセージの通知に少女が音を上げる

相手をすれば家事が滞るし

相手をしなければ通知音が鳴り止まないし


仕方なく叔母に相談した結果

月見里君の意に反し、早早に叔母の連絡先を手に入れた


「クリスマスデートしたいですー」


「クリスマスは稼ぎ時だから無理なの~」

「その前ならいいよ~」


「暇っすー」

「てか、稼ぎ時ってなんすかー?」


「あたし、ホステスなんだ~」


「マジか?!」


「あん、嫌いになっちゃった~?」


「最高っす!」

「滅茶苦茶、好きっす!」


そうして実現したのが今回の遊園地デートである


迷う事なく助手席に座る月見里君は

運転する叔母を甲斐甲斐しくサポートしては褒められていた


後部座席に乗り込んだ小鳥遊君は

同じく、後部座席に座る少女の隣を喜んだのも束の間

二人が連絡先を交換していた事実に衝撃を受ける


「俺、知らないのに」


小鳥遊君の呟きに気付いた少女が携帯電話を取り出し

予め、先に断る


「既読スルーするけど」


「滅茶した!」

「俺、滅茶された!」


後部座席を振り返り、唐突に話しに割り込んでくる

月見里君の自業自得メッセージ等、どうでもいい

勿論、既読スルーでも構わない


「全然いい」


陰キャが駄目な訳じゃない

陽キャになれなくてもポジティブに生きていけばいいのだ


「ね、始めになに乗る~?」


叔母の一言で車内は遊園地の話題一色になる


月見里君のジェットコースター推しに

対抗するように小鳥遊君はゴーカートを推す


叔母のメリーゴーランド推しに月見里票が動いたり

お化け屋敷を推した少女に三人は揃って言葉を失うし


叔母は遊園地デートして良かった、と思う


自分同様、姪には友達がいないと決め付けていた

学校での出来事は話さないし、話すような出来事もない


変わらない毎日を送るだけだ


裏街で生まれて裏街で死んでいく

抗う姉は裏街を飛び出し、表街へ幸せを求めた


なのに、戻ってきた

姉の子どもが裏街に戻ってきた


親もなく

友もなく

唯唯、死ぬ為だけに戻ってきた


そんなのは嫌だ

そんなのは認めない


借金塗れの自分だが

姪を担保に取られる自分だが


その幸せを願ってない訳じゃない

表街で生きていけるなら、表街で生きていくべきなんだ


「お、お城だー」


月見里君が歓声を上げ、前方を指差す

遊園地の象徴であるメルヘン調の城が視界に飛び込んで来る


「今日はね、閉園までいるよ~」

「その為のレンタカーだからね~」


言いながら

ハンドルを撫でる叔母の言葉に月見里君が燥ぐ


「花火、楽しみー」


そうだ、楽しもう

今日はなにもかも考えず楽しむんだ


叔母はそう心の中で言うと

遊園地の案内看板の指示通り、左折する為ハンドルを切った


金貸し屋は年中無休だ

金を借りたい人間にとって休日は無意味だ

金を借りた人間にとっても同じ事だ


昼休憩、歓楽街の立ち食い蕎麦屋の前

鰹節香る、香ばしい出汁の匂いに足を止めた社長の携帯電話に

珍しくメッセージの通知が入る


仕事関係は殆ど、電話だ


覗き込んだ液晶画面に流れる、文字


「チョコにします:千」


今日は叔母(←金を借りた人間)運転の同伴で

学校の友達と遊園地に行くので帰宅は遅くなります

と、言って出掛けたがこれは、なんの報告だ


思いながらも、その口元が僅かに綻ぶ


抑、叔母が運転免許証を取得していた事にも驚いた

発行元は潜りなんじゃないのか?


等と、考えて強ち間違ってないかもと少し心配になる


徐に携帯電話の液晶画面に目を落とす

が、なんて返信すればいいのか結局、思い付かず

社長の選択は既読スルーだった

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