表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八九三の女  作者: 七星瓢虫
12/69

[叔母]

控え目な化粧、控え目な服装

胸元に掛かる緩やかな黒橡色の髪は柔らかく

編み込まれている


TPOを弁えた格好で現れた叔母はそれでも変わらず可愛かった


玄関先で出迎えた少女を見るなり

満面の笑みでしがみ付くように抱き付く

華奢な姪の身体が一瞬、ふら付く


「千~、会いたかった~」


「うん」


少女にしては、はっきりと聞き取れる返事をする


叔母とメッセージで遣り取りする毎日は

一緒に暮らしていた毎日より、会話があるから不思議だ


元元、自分は無口な方で

話す事もない考え付かない、面白くない奴だと自覚している


引き換え、叔母はお喋り好きで

好奇心旺盛なので大人しく話しを聞いている方が楽しい

それでも文章を打つ自分は、饒舌だった


通学時間が伸びた為、早目に家を出ている事

朝、夕と柴犬を散歩するお婆さんと顔見知りになった事

なのに柴犬が警戒を解いてくれない事

でもお婆さんは優しくて、いつも飴玉をくれる事


そして


社長が痩せの大食いで好き嫌いがない事

叔母も自分もそうだが社長も洋食よりも和食が好きな事

寝室のベッドを自分に譲って本人はカウチソファで寝ている事


そして


やっぱり叔母さんが恋しい事

それは話せない事


叔母が、自分を我武者羅に抱き締めるように

自分も、叔母を我武者羅に抱き締めたかったが

服や髪が崩れるのが気に掛かる


折角、綺麗に決めて来てくれたのに

と、躊躇する少女を余所に叔母が身体を左右に揺らし始める


「ぎゅっとして、して~!」


甘えた声でおねだりする叔母に

姪は頷いて、その小柄な身体をぎゅ~っと抱き締めた


暫くして廊下奥の居間の扉が開く

社長と、二人の送迎を頼まれた社員が姿を見せる


覇気がないせいか

幽鬼の如く、近付いてくる社長に叔母は身構えた


お金は返してるもん

なにも怖がる必要ないもん


てか、怖がってないし~!


叔母の手が少女の身体を自分の背後へと押し遣る

一瞬、社長は目を細めた


そんな叔母の目の前に封筒を差し出す

諸諸、支払いに必要な金だ


「なにコレ?」

「多くない~?」


厚みのある封筒を受け取る、叔母が言う


「なら、飯でも食って来い」


「それでもきっと多いよ~」


「なら、なんか欲しいモンでも買って来い」


「それでも」と、会話を続けようとする叔母に

「お仕舞い」と、社長が吐き捨てる


そうして傍らにいる社員に「頼んだ」と、声を掛け引き返して行く


叔母は叔母で、少女と顔を見合わせた後

開けたままの居間の扉の取っ手に手を掛ける、社長の背中に

「ちゃんと返すから~」と、言うが応答もなく扉が閉まる


仕方なく、手提げ鞄に封筒を仕舞う叔母に社員が口添える


「有難く貰っとけよ」

「多分、社長もそのつもりだよ」


「でも~」


続かず、言い淀む

本音を言えば貰えるモノなら貰いたい


闇金業者と比べれば真っ当だがそれでも裏街の金貸し屋だ


おまけに相談に乗ってくれている

先輩社員が止めるのも聞かず、無理な返済計画を立てた為

今現在、自分一人の生活すら厳しいのが現実だ


そして、認めたくないが

社長に少女の面倒を見てもらって助かっているのも事実だ


叔母は癖なのか、下唇を指で摘まむも

自分の顔をまじまじと見つめる、社員の視線に気が付いた


「なによ~?」


社員との身長差の為

必然的に上目遣いで噛み付く叔母に彼は素直に答える


「別に、似合ってんなあと思ってよ」


目の前の彼女はどこからどう見ても夜の蝶には見えない

上手く化けたもんだ、と感心半分で叔母を褒めた


「んじゃあ、行くか」


玄関扉を全開に、大股で出て行く社員

その後を付いて行く少女が、さり気なく背後の叔母を盗み見る


叔母は控え目に唇を尖らせていたが

軈て、満更でもない様子で微笑んでいた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ