依頼
初めて描きます。
海外の映画をみてて、あっ、面白い!ってなって衝動的に書いた作品です。
ぜひご覧ください!
「ごめんください、先生。」
黒いブランドもののスーツに暗いサングラス、黒い帽子を被った全身真っ黒の男がゆっくりと事務所に入ってくる。
「2分遅い、モノを頼む態度として如何なものかと思うんだが。」
「申し訳ない。あにいくとこちらも忙しいモノでね。」
全く悪びれる様子もなく真っ黒の男はソファに深く腰をかけた。
「そっちは上座だ。下座に座れ。」
「上座に座ると話し合いに何か影響が出るんですか?」
「私の気分が悪い。」
「なら我慢してください先生。第一、こっちは相応の額を用意して依頼しに来たんです。上座に座るのは何も間違っちゃいないと思うんですけどねぇ。」
男はやれやれと手を仰ぎタバコを懐から出した。
「禁煙だ。」
真っ黒な男はもう我慢ならんといった様子だ。
「先生ぇ、さっきからなんです?こっちは仕事を持ってきたんです。あんたの依頼料は安く無い。大金担いでわざわざ足を運んだんですよ。座る先やら喫煙マナーやら、なんか勘違いしてねぇですか?」
男は懐に手を入れる。拳銃を携帯しているぞ、という遠回しな脅しだろう。
馬鹿と話すのは疲れる。煙草については数本は多めに見るとしよう。
「要件を聞こうか。」
「単刀直入に、うちの情報屋が消された。」
情報屋の抹消。裏社会では珍しく無い話だが、今回の依頼人である真っ黒な男が所属している組織は東京でかなりの勢力を誇る。その組織の情報屋が消されるというのは、言うなれば宣戦布告のようなモノだ。
「名前は西条泰樹。40年以上ブラックマーケットを監視してたベテランのねずみだ。現状は行方不明、最後の目撃情報は10/7にファミレスで食事をしていたと。」
「生死も不明だと?」
「一才分かってない。他の情報屋やマル経路の情報も探ったが、本当に一つの痕跡もない。言いたくはないが、我々もお手上げ状態だ。」
男はタバコを手持ちの灰皿に押し付け、もう一本に手をつける。どことなくイライラした様子だ。
「依頼の内容はどうする?」
「まずは情報屋の行方捜索だ。死んでたらそれで良いが、生きてたら殺してしまって構わない。」
「貴重な情報網なのでは?」
「代わりを立てられる程度だ。我々が恐れているのは情報網の喪失ではなく情報の漏洩だ。攫われたのか、事故で死んだのか、寝返ったのか。事情は知らないが、生かしておく理由がない。」
「大きな組織が裏にいた場合は?」
男はニヤリと笑い、煙草を大きくゆっくりと味わう。タバコはみるみる無くなり、2本目を吸い終えた。
「そのために君に依頼してるんじゃないか。」
男はそういうと、手荷物のアタッシュケースを手荒にテーブルに乗せ、勢いよく開いてみせた。
「頭金1000万、あとは成果報酬としよう。敵対組織の規模が大きく、壊滅できたらこの100倍は払おう。どうかな?」
男は3本目のタバコに火をつけた。自信満々、こちらが断る可能性は考慮していないという様子だ。
「わかった、請け負おう。」
「交渉成立だな。」
男はスッと立ち上がり帽子を被り直した。
「では健闘を祈る。」
「一つ、言っておきたい。」
男はタバコを吸いながらくるりとこちらを向いた。
私は机に置かれていた印鑑をデコピンで飛ばし男の顎にぶつける。男は堪らず顎を押さえ吸っていたタバコがポロリと落ちる。
そのタバコを拾い、男の左手に押し付けた。
「ぐあぁぁあぁっっ!?」
「我々は決して日の当たらない裏社会の人間だが、礼節は持つべきだ。」
ぐりぐりと、押し付ける。
「次来る時までに、礼節を身につける事を推奨する。」
「…くそっ。」
男は手荒に扉を開けて出て行った。
「調べましたけど、やっぱり全く出てこないです。」
肩にかかるくらいのショートボブに眼鏡をかけた如何にも知的な女性。
秘書の堀宮は困り顔でPCを操作していた。
「可能な限りの情報網を漁りましたが、正規も裏も痕跡無しです。手強いですよ、これ。」
「最近動きが活発な裏組織はあるか?」
「何個かありますが、相当な馬鹿じゃない限りは犯行の可能性はないですね。」
「相当なバカの可能性は?」
堀宮はため息て返事を返した。どうやらないらしい。
「クライアントからの希望は大前提として消息を絶った情報屋の特定だ。見つかりませんでしたでは済まない。疑わしい組織はしらみ潰しに探る必要がある。」
「現実的に考えると自殺や他殺、足を洗うための高跳びの可能性もあると思います。ここまで探して見つからないってことは、裏表両方の世界から存在が抹消されてるということです。」
「警察経由の情報にも該当の人物はなかったんだろう?日本の警察は優秀だ、一般的な自殺や他殺ならすぐに情報が出る。海外逃亡もあり得るが少なくとも空港や港は通過してない。情報網の外側の移動手段を使われたら追えないが、そんなに数も無い。大方まだ国内で生きてるか…」
「別の組織に拉致監禁、最悪殺されてるか…ですね。」
想い沈黙に包まれる。裏の仕事は暫く引き受けていなかった。腕が鈍ったのだろうか。
もし何らかの組織によるものだとするなら、タイムリミットはあと数日だ。時間を与えれば、彼らは証拠を微塵も残さず消し去る事だろう。とにかく時間がない。
「動きが活発な組織のリストを参照しますか?」
「いや、必要ない。」
ハンガーにかかったコートを羽織、手袋をはめる。
「私の仕事は常に前線にある。出かけるぞ。」
東京都渋谷区の高層オフィスビル。各階に全く別種の大手会社が名を連ねているが、特定の条件で辿ると1つの組織に辿り着く。
東京都という日本経済の中心地で多業種の成功、莫大な市場獲得を行う一番の近道は「長いものに巻かれる」ことだ。
ちっぽけな正義感で悪に挑み、必死に人のための歯車となりお金を稼ぐより、頭を垂れる方が人間楽なのだ。
オフィスビル一階のロビーはホテルのように整えられ、絢爛豪華な様子である。
ロビーで人形のように立つ美人に声をかける。
「地下3階ロビーに通してほしい。」
「ご用件は?」
「君のボス、いや幹部でも良い。聞きたいことがある。名前を言えばわかるはずだ、大野法律事務所の大野と伝えてくれ。」
「あなたが大野様でしたか。では確認は必要ありません。」
女はにこやかにそういうとカードを手渡した。
「地下方面の行き方はご存知ですか?」
「君が雇われる前に何度も来てるよ。良い接客をありがとう、良い一日を。」
VIPラウンジのさらに奥に向かう。
隠し階段の前のボディーガードがこちらの前に歩み寄ったが、カードを見るなり慌てふためき道を開けた。
階段をゆっくり降りていくと煌びやかさはさらに勢いを増し、壁に数百万の絵画が点々と見える。
「そういえば堀宮はここに来るのは初めてか。」
「ええ。以前仕事でロビーに来たことはありましたが、ここは表向きには地下一階建てと把握してましたので正直驚いています。」
「このビルの地下3階は国家権力ですら立ち入らない、ブラックマーケットの脳味噌の一つだ。下手な事をしたら死人が出る。」
堀宮はその話を聞いて強張るどころかクスリと笑った。相変わらずこの女は若い癖に肝が座ってる。
階段を降りると今度は銃を持った男が2人、扉の前に立っていた。カードを見せたものの、今度の2人は慌てる様子もなく堂々と立っていた。
「聞きたいことがあって来たんだが、今日は誰が在籍している?」
「本日は天宮桃李様が直々にいらっしゃいます。お入りでしたら、武器をお預かりします。」
私は胸元に携帯していた拳銃を、堀宮も同様に二丁の拳銃をガードに預けた。
「では、どうぞ。」
扉がボディーガード達によって重々しく開いた。
中の部屋は海外のマフィア映画そのもののような、洋風の豪華な部屋だ。
「久しぶりだな、大野先生。」
正面、部屋の中央から声をかけられる。年老いた老人の低い声だが、威厳と重圧が感じられる声だ。
『天宮ノ会』のトップにして、暴力団が社会追放される中未だに国家権力や大手企業の有力者が頭を下げる大重鎮だ。
「お久しぶりです、桃李さん。」
「お初にお目にかかります。3年前から大野先生の助手をしてます、堀宮と言います。」
桃李は目を細くして堀宮を見つめると、ニヤリと笑い言葉を紡いだ。
「四年前にある組織に手を焼いたことがある。結果的にその組織は自滅したが、『天宮ノ会』史上あんなにも格下の組織に手を煩わせた事はない。」
桃李は机の上のウィスキーをグラスに注ぎ、ゆっくりと一口飲んだ。
「堀宮君…その節はお世話なったよ。」
重力が増したのかと勘違いしてしまうほどに部屋の空気が重くなる。とんでもない圧力。流石は関東での天下統一を成し遂げた男だ。
「私を処刑しますか?」
堀宮は重圧の影響などまるで感じていないという風だ。相変わらずの鋼メンタルだ。
「そうしたいが辞めておこう。私は大野先生を敵にしたくない。君の上司はその気になれば私たちの組織を一週間で潰すだろう。」
カラカラと笑い、ウィスキーを一気に飲み干した。
「さて本題だ。何か用があるんだろう先生。私も命と地位は失いたくない。出来る限り答えよう。」
私は彼がいるテーブルの前に近づき、西条泰樹の写真と詳細な情報を見せた。
「神奈川の大きな組織の情報屋が消された。」
「うむ。なるほどな。」
老人は眼鏡を取り、じっくりと資料に目を通す。
「確かにウチも神奈川方面に勢力を抱えているが、この情報屋については何の報告も無いな。」
「神奈川方面で動きがある組織を何個か調べてる。業界動向で気になる事は?」
「西ノ坂組が勢力拡大に走ってるのは有名な話だ。ただ、あいつらは業界でも笑われるほど臆病だ、暴力団のくせ殺しを全くやらん。他の組織の情報屋に手を出すとは思えない。」
「桜連盟も動きがあるらしいが、知ってるか。」
老人はやれやれと言った様子で眼鏡を外した。
「先生の情報網には驚かされる。私の組織では、桜連盟の動きの変動報告は行われてない。組織故の性なのか、ウチの下っ端が馬鹿なのか。」
「となると…」
「桜連盟が黒の可能性がありますね。」
堀宮は内容を手帳に書き込みながら紡いだ。
「ありがとう、桃李さん。一応何かわかったら連絡してくれ。」
堀宮と私は足早にオフィスビルを後にした。
ジョン・ウィックやイコライザー、最近だとノーバディ。
なんでもないおっさんが最強!みたいなの堪らなく好きなんですよね。
最近のライトノベルは10代とか20代の美男美女が強いイメージなので、一石を投じるべく40代の大野が主人公です!
堀宮ちゃんも強いから安心してね!
次回いつ頃書くかは分かりませんが、楽しいので早めにあげるよ!