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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

モフモフと幼女

モフモフと流れ星

作者: ジュレヌク

モフモフと幼児、第三弾。


前作をお読みになってからの方が分かりやすいと思います。


こーら、ヴィ、また変なもの拾ってきて。


うぇー、臭い、臭い、臭い!


腐った食べ物は、お腹壊すよ!


エイ!エイ!


ぐちゃぐちゃにしちゃえば、食べられないだろ?


もぉ、ヴィ、止めないでよ。


ん?これ、人間の子供か?


しかも、二匹もいる。


あっちで、寝てた?


死んでたの間違いじゃなくて?


あぁ、妖精まで騒ぎ出した。


捨ててこないと、ソレ、また、ミンチにされちゃうぞ。


あーーー、泣くな!


ヴィが泣いたら、その飴玉みたいな目が溶けてしまうだろ?


オイ、お前ら、このゴミなんとかしろ!


は?ヴィが泣くから捨てられない?


んー、じゃ、せめて僕の目の届かないところに置いてよ。


コラコラ、ヴィ、ついていかない。


ソイツら、殺しちゃうよ?


もぉ、本当に、ヴィは、お人好しだなぁ。

























「あーーー、もってっちゃ、やーー!」


妖精達が、少年達を何処かに連れて行こうとしている。


ヴィは、慌てた。


折角、『肉』を確保して来たのに。


自分だけじゃ、モフモフの腹の足しにもならないと気づき、『獲物』を探して散歩していたのだ。


見つけた二人は、昔のヴィみたいに臭かった。


でも、自分みたいに洗えば、まぁ、食べられなくもなさそうだ。


妖精達がくれる『餌』で、大きく食べごろになれば、モフモフも喜ぶに違いない。


それなのに、モフモフは、怒って『肉』を踏み潰そうとした。


折角、ヴィが獲ってきたのに!


そんなに美味しくなさそうだっただろうか?


やはり、男の子より女の子の方が美味しいのだろうか?


モフモフが、自分を咥えて少年達からドンドン離れていく。


ヴィは、学習した。


次の『獲物』は、自分と同じ『女の子』だと。























少年は、目を覚ました。


目の前に、天使がいる。


死んだんだと思った。


でも、どうやら違うらしい。



「いりゃないってゆーの(要らないって言うの)」



「だ、だれが?」



「モフモフ」



「モフモフ?」



「あれー」



少女が指さしたのは、神々しい光を放つ一匹の獣。


こちらの様子を伺っているらしく、判断を間違えば、殺されると思った。



「これ、あげゆ(これ、あげる)」



少女が持っていたのは、真っ赤に色付いた林檎。


隣りで倒れる兄と自分の前に一つずつ置いてくれた。



「よーく、カミカミねー(よく噛んでね)」



「は、はい」



少年は、奴隷だった。


神獣の番を探す為に、某国が、国中から集めた奴隷だった。


しかし、他の者達は、皆、魔物に喰われた。


満腹になった魔物達は、干からびた兄弟には、目も向けなかった。


小さな体だが、本当は、15歳。


この長くも無く、短くもない人生で、人から腐っていない食べ物を貰ったのは、今が初めてだった。


もう、死を待つだけだと思っていた。


それなのに、林檎を分けてくれた。


それも、とても美味しそうな林檎を。


少年は、思った。


どんな事をしても、彼女を守ろうと。


たとえ、人間である事を捨てても、彼女を守ろうと。



「あ、りがと」



「ん!じゃーねぇー」



少女は、白い巨大なモフモフに向かって走っていくと、そのままジャンプして飛び付いた。



「んっしょ、んっしょ」



一生懸命よじ登って、首元まで辿り着くと、幸せそうに顔を埋めていた。


これが、少年とヴィと神獣が会った、最初で最後の瞬間だった。























「何!神獣が、現れただと!」



隣国にある森で、長年追い求めていた神獣の目撃情報が得られた。


某国が、神獣の番とされる娘を、武力の力で強奪してから一年が過ぎようとしていた。


遅れをとった我が国は、森を挟んで某国と隣接している。


未だ、あちら側に神獣が現れたと言う報告はなく、境界線に位置する森に現れたことは、我らにとって僥倖であった。



「目撃者とは、会えるのか?」



「はっ、既に控えさせております!」



護衛の一人が私の前で敬礼し、さも自慢げに顎を上げた。


全くもって、気に喰わない。


功を誇る者ほど、使い物にならない事が多い。


泥水を飲み、這いずってでも前に進み、仲間を見殺しにしてでも生き延びる強さがなければ、この戦乱の世を生きぬけようか?


まぁ、いい。


コイツの代わりなど、いくらでも居る。



「来るんだ!」



「引っ張っんじゃねー!いてーだろーが!」



護衛によって俺の前に引き立てられて来たのは、みすぼらしい兄弟だった。


兄の方は、今にも俺に噛み付かんばかりの怒気を見せている。


まぁまぁ、使い物になりそうだ。


弟の方は、何処を見ているのか分からない、ぼんやりとした表情で、薄気味悪く笑っている。


こう言うのは、化けるか、壊れるかのどっちかだ。



「お前達か?神獣を見たと言うのは?」



「報奨金をくれるっつーから来てやったのに、お前ら、嘘ばっかりで、たらい回しかよ!」



「兄ちゃん、怒ったって同じだろ?」



「ちっ!お前は、黙ってろ!」



「ん」



短く返事をすると、弟は、死んだように目を閉じた。


瞼を開けていることすら、辛いのかもしれない。


一方、兄の方は、俺に蹴りを入れようとして、護衛に押さえつけられた。


こちらは、元気だ。


弟の痩せ方より幾分マシなところを見ると、弟の食べ物を全て奪ってきたのかもしれない。


なかなか良い根性だ。



「ほれ、これで良いか?」



俺は、机の上に置いてあった袋を兄の目の前に落としてやった。




ズサッ




音だけで、かなりの量が入っているのが分かるだろう。


紐を緩めてやり、中を開くと、光輝く金貨が溢れでた。



「言う気になったか?」



「神獣は、小さな女の子と一緒にいる。俺達は、反対側の国で奴隷をしていた。『神獣の番』だっけ?森の中に逃げたのを、皆、血眼になって探している」



「ほぉ」



「俺らは、見た目が子供だから見逃された。他の奴らは、皆殺しだ」



「神獣にか?」



「森に住む全てにだ。魔獣も、獣も、妖精も、全部が彼女を守っている」



「ほぉー、なら、お前がもう一回森に入って番いを連れて来たら、10倍の金をやろう」



兄の方の目の色が変わった。


俄然やる気が出たようだ。


一人より、二人の方が、確実か?


弟の方を見ると、顔の表情が、完全に抜けていた。


あぁ、駄目だ。


あれは、壊れた者の目だ。


ユラユラと体を揺らしながら、弟が兄に近づく。



「兄ちゃん、まさか、ヤルの?情報、渡すだけって言ったよね?」



低く、地獄から響いてくるような、おぞましい声。



「十倍だぞ!」



「ヤルの?」



「ヤらねぇよ。連れてくるだけだ」



「助けてもらったのに?」



「生きていく為だぞ!」



「だから、俺の食べ物、全部あげた」



「あんなもんが、腹の足しになるか!」



「うるせぇ」



弟が、近くにいた兵士の腰から、目にも止まらぬ早さで剣を奪った。




ブシュ




気づけば、兄の首が、ゴトリと床に落ちていた。


そして、返す刀で、俺を斬りつけてくる。


あぁ、逃げられない。






ガハッ






 


自分から噴き出る血飛沫に、何も理解が追いつかないまま、俺は、意識を飛ばした。





















おい、お前ら、ソレ何持ってんの?


ん?森の外に、山積みにいてあった?


へー、可愛い服だね。


ちょうど、ヴィに似合いそう。


ふーん、そっち側からの害虫が減ったんだ。


滅んだのかな?


えぇ!たった一人の子にやられたの?


人間の世界って、ちょっとしたことで、変わっちゃうからなぁ。


もう片方も、さっさと滅べば良いのにな。


あぁ、でも、そうしたら魔物のお腹が減っちゃうな。


ある程度なら、害虫も悪くないのかも。


ヴィ、今日は、何を持って来たの?


ん?それは、お人形?


可愛いでしょって?


ヴィの方が、1000倍可愛いよ。


食べる?


食べないよ!


食べるなら、ヴィを食べるよ。


もぉ、ほら、拗ねないで背中に乗って。


今日は、丘の上に行こう。


遠くまで見えるよ。


妖精が言うには、最近、夜に花火が見えるらしいんだ。


ドンドンパンパン


何かを撃ち合ってるらしい。


本当、人間て、馬鹿だよねー。



























ヴィは、懲りもせず『食料』探しの散歩に出かけた。


でも、今日の『獲物』は、お人形しかなかった。


森の出口ギリギリに、座るように置かれていたソレは、何故か、真っ赤な林檎を抱きしめていた。



「きゃわいぃね〜、きゃわいぃね〜(可愛いね、可愛いね)」



スカートを履いた女の子のお人形!


でも、これは、食べられない。


もしかして、モフモフなら、食べられるかな?



「こりぇ、たべゅ?(これ、食べる?)』



モフモフに見せたけど、林檎だけ食べて、お人形は、食べなかった。



「やっぱぃ、むりぃにゃのねぇー(やっぱり、無理なのね)」



ため息をついていると、モフモフが頭を下げて、自分に擦り付けてきた。



モフ〜〜〜



顔を埋めて柔らかさを堪能していると、そのまま立ち上がられてしまった。


モゾモゾ座る位置を変え、モフモフの首に捕まると、ノッソノッソと歩き出した。


揺れる背中は、とっても楽しい。



「ムフフフフ〜、だーいしゅき」



しがみ付く手に力を入れた。


小さい頃、母親が、抱っこをして揺らしてくれた。


遠い記憶の中、凄く、幸せだった。


丘の上に着くと、綺麗な流れ星が沢山、空をヒュンヒュン横切っていた。



「ふぁ〜〜、しゅごぃねぇ〜」



今日は、お星さまのお祭りだろうか?


オレンジや青の光が、空を明るくするくらい降り注いでいる。



「ふぁぁあぁあぁ」



だけど、お子様なヴィは、そろそろ眠くなってきた。


モフモフの毛を引っ張ると、



グルルルルル



と鳴いた後、再び、ノッソノッソと歩き出した。


向かうは、モフモフとヴィの新しい寝床。


大きな洞窟の奥に、枯れ草をいっぱい敷いたのは、妖精達。


そろそろ雨も多くなる。



「ヴィ、はゃく、おぉきくなりゅねぇ(ヴィ、早く大きくなるね)」



食べられる事を夢見る少女の見る夢は、いったいどんな夢だろうか?




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― 新着の感想 ―
[一言] そうか…まだ食べられる事は諦めて無いのか…(笑)
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