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【書籍化&Webtoon】婚約破棄23回の冷血貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる  作者: 玉川玉子
番外編

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【書籍発売⭐️感謝SS】色っぽくなりたいオフィーリア

第9話の『社交界デビュー』翌日のお話です

(オフィーリアがお茶会で社交界デビューをした翌日のお話です)


「練習のため今日の身支度は自分でやるわ」


その日、着替えを手伝おうとミアとデミィが部屋に入るとオフィーリアはそれを断った。

二人のメイドは顔を見合わせしばし考える。

ニコラ夫人から、『外出の際はオフィーリアに自分でコーディネートさせてはいけない』ときつく言い渡されてはいるものの、今日は外出の予定はない。


「わかりました」

問題はないと判断し、二人のメイドは退室する。


一人になったオフィーリアは衣裳部屋に並ぶおびただしい数のドレスを眺め、迷った末に黒いドレスを選ぶ。

赤は持っていないからだ。


鏡に映る自分の顔をみてため息をつく。

「なんて子供っぽいのかしら……」


ガーデンパーティーで見たディアンドラの姿を思い出す。

会場の男性たちの視線を独占していた彼女はニコリともせずキリリとした表情で佇んでいた。

装身具は少ないのに匂い立つような艶やかさ。圧倒的なオーラを放っていて――。


あんな美しい人に心を動かされない男性がいるはずない。


自分のぼんやりした顔立ちに苛立ちを覚えつつ、ディアンドラをまねてメイクしてみる。

……もっともディアンドラ本人は実は殆どすっぴんなのだが。


きりっとした眉に真っ赤な口紅。目じりももう少し上げて……っと。

胸の下にハンカチを詰めてボリュームアップを狙う。

駄目だ、足りない。もっともっと詰めなくては……!




「きゃー!」


食堂に現れたオフィーリアの姿を見てニコラ夫人は悲鳴を上げた。

アドニスも無言のままちょっと顔をしかめる。それを見てオフィーリアの心は沈んだ。


「オフィーリア! 何の真似です。悪魔祓いの儀式でもするつもりなのですか」


真っ黒なドレスとドギツイ色のフェイスペイント。

エクソシスト感満載ないで立ちにニコラ夫人はめまいを覚えた。


「す、すみません。やはり着替えます。朝食は私抜きで召し上がってください」

そう言うと踵を返し自分の部屋に戻る。目に涙がじんわり浮かぶ。

(私なんかではとても無理。女性としての魅力がないんだもの)


あのディアンドラが相手ではどうしようもない。

自分ごときではライバルにさえなりえない。


肩を落とし、のろのろと着替えをしていたら、ニコラ夫人が扉をノックする。

「オフィーリア、一体何があったと言うの」


ディアンドラのことは言いたくなかったのでそこは省く。

「たまには大人っぽくて色っぽいコーディネートにチャレンジしてみたくなっただけです」


ふてくされて頬を膨らませるオフィーリアを見てニコラはふっと笑った。

詳しいことは分からないが、この子は理由があって頑張っておしゃれしたのだ。

目標やモチベーションはお洒落の上達には欠かせない。いいことだ。


「ねぇオフィーリア、確認するけど、なりたいのは大人っぽい女性なの? それとも色っぽい女性?」

オフィーリアは真っ赤になって口ごもりながら小声で答える。

「い、色っぽくなり……たいです」


「大人っぽいと色っぽいは必ずしもイコールではないわ」

ニコラ夫人は優しくオフィーリアの手を取って、鏡の前に座らせた。


そして自らブラシでオフィーリアのキャラメル色の髪をとかし、緩い編み込みの三つ編みを作り、毛先をまとめてピンでとめたアップスタイルにする。

そのあと、一度編んだ髪のあちこちをひっぱって緩く崩し、顔周りにひと房垂らした。


「殿方はね、私たち女性が思いもよらないようなところに色気を感じるものなのよ。しかも人によってその場所も違う。狙い通りには行かないと思うの」

オフィーリアは黙ってニコラの話を聞く。

「変に別人になろうとすると、せっかくのあなたの良さが見えなくなってしまうわ」


オフィーリアが先ほど塗りたくったおしろいを全部落とし、チークだけを大きめに入れる。

同じピンク色を目じりにもふんわり入れてみる。

唇には先ほどの真っ赤な口紅をごくごく薄く、指でたたくように乗せる。輪郭は取らずに。


「ほら、御覧なさい。今のあなたにはこのくらいが似合っていてよ。ほんのり酔っているみたいで色っぽいでしょう」


出来上がった姿はほんのり上気したような自然な薄化粧。

(さすがはニコラ様だわ)

ディアンドラには遠く及ばないまでも、だいぶマシになったような気がする。


「私お酒は強いので酔っぱらたことがなくてわかりません」

「まあ、うふふ。ではこれで酔ったふりを演出できるじゃない」

「……ふふ」


恋の悩みを聞いてくれる年上の女性がいるというのはいいものである。

先ほどまでの沈んでいた気持ちが噓のように軽くなっていた。


「あ、ありがとうございます。………お母さま」

オフィーリアはニコラに抱きついた。


「…………!」

当然のごとく大感激するニコラ。

すぐに倍返しで抱きしめ返し、オフィーリアの頭を撫でくりまわす。


戸惑いながら少女から大人の女性になろうとしているオフィーリアが愛しい。

その成長過程に加われる自分はなんて果報者なのだろう。


「大丈夫よオフィーリア。あなたはきっと色っぽくてとびきりチャーミングなレディになれるわ」


かすかな期待にニコラ夫人の胸が膨らむ。

女の子が色っぽくなりたい理由なんて一つしかないのだから。


その対象が……誰なのかはわからないけど。

願わくば、それが自分の息子でありますように――。





11月10日にツギクルブックスさまより本作の書籍版が発売されます!

人生初の書籍化です。全て応援してくださった皆様のお陰です。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「頼りにされる」、はたからみると迷惑にしかならないことだけど、そこから幸せも生まれることがよくわかる素晴らしい作品でした コミカルとシリアスのバランスもとてもよく楽しかったです [一言]…
[良い点] おもしろかった!たくさん笑ったけど、イチゴを踏みつぶしたくなる場面で涙出た [気になる点] 口の中に食べ物を入れた状態で読むと、吹き出して危険なこと [一言] 楽しい作品をありがとうごさい…
[一言] オフィーリアは、自分の周りの人を幸せにする人なんですね。自分のことより他の人のことを考えて動ける人はいますが、その人自身も幸せになれる、そんな人はとても少ない。 オフィーリアが自分も幸せにな…
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