エピローグ
息子のオフィーリアへの愛が止まらない。
ある朝ニコラ夫人が朝食のため食堂に行くと、自分の席の位置が変わっていることに気がついた。
前日までは長方形のテーブルの片側に夫と息子が並んで座り、向かいに自分とオフィーリアが並んでいたのだ。
ところが今朝は夫の隣に自分、向かい側に息子とオフィーリアが並んで座っていた。
「……?」
不思議に思ったが、果たしてそれはアドニスの仕業であった。
理由は食事が始まってすぐに判明した。
オフィーリアは頬を赤め、右手でスクランブルエッグを口に運んでいた。
「両手はテーブルの上!」とニコラがマナーを注意しようと思ってふと横に目をやれば左隣に座るアドニスも片手のみでサラダを食べていた。
そう、アドニスは瞳を輝かせながら、嬉しさで口元が緩むのを隠しきれない様子で左手のみで食事をしていた。
それを見てニコラ夫人はだいたい察した。
オフィーリアの左手とアドニスの右手がテーブルの下で何をしているのかを。
とにかく、アドニスはオフィーリアと想いが通じ合ったことが嬉しくて仕方がないのだ。
つまりは食事中もいちゃつくための席替えであった。
(まあいいわ)
ニコラはテーブルマナーのことは大目に見てあげることにした。
(でも明日はミアとデミィに落としたフォークを拾わせるふりをしてテーブル下を観察させよう)と決めた。バーンホフ家、プライバシーを軽視しがちである。
アドニスとオフィーリアがテーブルの下で指と指を絡めあっていたことは例のノートにしっかりと記録されるのであった。
かくして23回も婚約破棄された貴公子はポンコツ令嬢との出会いによって、長い婚活に終止符を打った。
ニコラ夫人は来春の結婚式で、オフィーリアが着るウェディングドレスのデザインを任され張り切っている。
グレゴール・バーンホフ侯爵は宰相に就任する前に休暇を取ってニコラ夫人と二人で旅行を計画中である。
料理長はウェディングケーキ作りをアドニスから依頼され、感激のあまり泣いた。
ミアは最近オフィーリアの肌の調子が良く胸が少し大きくなったのを見て、その理由を推測して赤面する。オフィ/アド観察継続中。
デミィは文章を書く喜びを覚え、現在次作を密かに執筆中である。
ディアンドラは最近新たな出会いがあり、ますます艶っぽくなった。
キャロラインはオフィーリアから花嫁のブーケをもらう約束をしている。
ロバートは数々の女性と浮名を流していたが、最近ようやくこの人と思える一人を見つけた。
太王太后はオフィーリアたちの結婚式にお忍びでサプライズ出席しようと目論んでいる。
アレクサンドル国王陛下は今後海外の要人を招いて晩餐会を開催する際にはオフィーリアに歌を歌ってもらえないか打診するつもりである。
オフィーリアの父、リシュトバーン男爵はバーンホフ家の援助の元、カシミヤ山羊の飼育を始めたところ酪農よりも気候に合っていたらしく収入が大幅に増えた。
オフィーリアの兄は義弟がサイコパスでないことを知り安堵し、長らく恋人関係にあった領民の娘とめでたく祝言をあげることになった。
スキリオスはバーンホフ家内で密かに『スキリオス外務長官』というニックネームで呼ばれるようになった。アドニスには内緒だが。
レアはアドニスとオフィーリアが遠乗りに行く時は馬に乗っている時間より、馬から降りていちゃついている時間の方が長いことを知っている。
アドニスは最近キスをする時薄目を開けてオフィーリアのことをこっそり見ている。泉で指輪に口づけた時のあの表情をしているからだ。自分がこの表情を引き出しているのだと思うと誇らしくて、ついついエンドレスにキスをしてしまう。
オフィーリアは今日も明日も10年後もずっとアドニスといられる幸せを噛み締めている。歳をとって髪が白くなってもずっと仲良しの夫婦でいたいなぁと思っている。
そしていつの日かアドニスがヨボヨボになったら自ら支えてスープを食べさせてあげようと心に誓った。
完
本編完結です。
ご愛読ありがとうございました。
本編で登場したある人物を主人公として新シリーズを予定しています。
(エピローグにちょっぴり伏線を潜ませてあります。)
お暇な時にそちらものぞいていただければ幸いです。
※追記 ご指摘いただくまでオフィーリアの実家の父と兄のことをすっかり忘れておりました!! 追加させていただきました。




