表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&Webtoon】婚約破棄23回の冷血貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる  作者: 玉川玉子
ポンコツ令嬢と冷血貴公子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/21

12. 火事とたんこぶと初めてのプレゼント

厩舎に近づくにつれて焚き火のような匂いが強くなり、煙を上げているのが見えた。

バタバタと人の走る音や怒鳴り声も聞こえてきた。


「よし右ウィングのゲートは全部開けた」

「急げ! 馬が全部揃っているか確認できたか!?」

「屋敷に連絡を!」



バーンホフ邸の一角にはちょっとした屋敷のような大きな厩舎がある。

天井の高い石造りの建物で、右ウィングには約20頭の馬が、左ウィングには8台の馬車を格納している。

二つのウィングの間にある入り口部分は御者や馬丁が交代で寝起きする部屋がある。


(火事……!)

右ウィング……馬がいる厩舎から煙が上がっている。


オフィーリアが到着した時、厩舎の前は馬丁や御者たちでてんやわんやであった。


どうやらボヤがあったらしい。

それに気が付いた馬丁が馬達を避難させるため慌てて厩に駆け込んだ。

煙で視界が悪い中、馬たちが入っているブースのかんぬきを外していった。

炎に怯えた馬たちはブースの扉が開いた途端、我先にと外めがけて押し寄せ、混乱していた。


動物とは本能的に炎を恐れるものだ。

馬たちも皆興奮して暴れている。

馬丁と御者たちは馬を鎮めるのに手を焼いていて、オフィーリアが来たことに気づかなかった。


(……ん? レアがいない)

外で暴れている馬たちの中にアドニスの愛馬のレアがいないことに気づいた。



『俺の大事な相棒だ』

そう言った時のアドニスの優しい顔を不意に思い出す。


考えるよりも先に体が動いていた。


そしてオフィーリアはまだ燃えている厩舎の中に駆け込んだのだった。




幸い、建物本体が石造であるため炎はさほど大きくなかった。

あちこちでワラの燃えかすが黒い煙を上げている。

オフィーリアは視界が悪い中、広い侯爵家の厩舎を用心深く進んでいった。


程なくして、オフィーリアの耳はレアのいななきを捉えた。

「レア!」


外したはずのかんぬきが倒れ、ヒンジに引っかかって出られなくなっていた。

ワラが炎に包まれる中、自分のブースに閉じ込められたレアは恐怖のあまりパニック状態になっている。

ブースの壁をガツンガツンと前脚で蹴ってもがいていた。


「レア! もう大丈夫だからね! ゴホ! お、落ち着いて!」

優しく声をかけながら急いでかんぬきをどかす。


その途端、レアはブースの扉を蹴り開け、一目散に外に駆け出していく。

そして運の悪いことに、レアが蹴った扉は外側にいたオフィーリアの顔面を直撃してしまった。


衝撃で目の前に火花が散る。


そして……そのまま気を失って倒れてしまったのであった。





ちょうどその頃、厩舎の外には屋敷から駆けつけたアドニスたちがいた。


「大丈夫か!? 怪我人は!?」バーンホフ侯爵が声をかける。


「はい! 大丈夫です。怪我人ゼロ。馬も20頭全て確認終わり無傷ですっ!」

疲れを見せながらも馬丁がホッとした様子で答えた。

「中の藁が全て燃えてしまえば自然に鎮火するでしょう」


「オフィーリア様は!? オフィーリア様はどこです!?」

キョロキョロしていたミアとデミィが悲痛な叫びを上げた。


「え?」

レアを撫でていたアドニスが驚いて二人を振り返る。


「オフィーリア様は私たちより一足先にこちらへ向かわれたんです!」


「……………………!」


心臓が激しく鳴り、全身の血が凍ったような感覚に襲われる。


(まさか!)

次の瞬間アドニスは煙で何も見えない厩の中に飛び込んでいったーー。









オフィーリアが目を覚ますと、真っ先に視界に飛び込んできたのは至近距離で覗き込むアドニスの顔だった。


その深いブルーの瞳にしばし見惚れていた彼女はアドニスの声にハッと我に返った。

「オフィーリア!」

「オフィーリア様!」ミアとデミィも横で涙を流している。

そしてバタバタと侯爵夫人を呼びに行ってしまった。


アドニスと二人きりになったオフィーリアは混乱しつつ、体を起こした。

なぜか頭がズキズキする。


「だ、大丈夫か!?」

「え……と、これは」

状況が飲み込めない。


ふと、アドニスの顔が煤で真っ黒であることに気がつく。

「ふふ、アドニス様なんでそんな顔が真っ黒……」





途端、強く抱きしめられた。


(…………!?)


「よ、よかった無事で」

アドニスは震えていた。

もし藁の炎が意識のないオフィーリアの服に燃え移っていたら大変だった。想像するだけでもゾッとする。


倒れているオフィーリアを発見したときは恐怖のあまり一瞬心臓が止まりそうだった。

気を失っていただけと分かってどれほど安堵したことか。



「えっ? あの、あ……レア、レアは!?」

「……。レアは無事だ。そうか……そのために無茶したんだなお前」

「良かった! レアちゃんと外に出られたんですね」


アドニスはオフィーリアのおでこにできたたんこぶを見て顔をしかめた。

「馬鹿野郎……他人のために怪我ばっかりして。もっと自分を大事にしろよ」


このポンコツと言いかけてアドニスは

「いや……俺のせいだな。全部俺が悪い」


いつになく真剣な瞳のアドニスにオフィーリアは戸惑った。

「い、いえ?そんな別に」

何が起こっているのか今ひとつ理解できない。



「……だから……代わりに俺が大事にする……」

アドニスは震える指でオフィーリアのおでこの髪をそっとすくい


「もう二度とお前に怪我なんかさせない。……絶対に」

そう言うと、そっとおでこのたんこぶに口づけたーー




痛いのは怪我をしたおでこのはずなのに。

胸が締め付けられるように痛む。


オフィーリアは気付いてしまった。

キャロラインの兄に手に口づけられた時とはまるで違う胸の高鳴りに。


ーーずっと気づかないように蓋をしてきた自分の気持ちに。








その日を境にアドニスのオフィーリアに対する態度が少し変わった。

なんと言うか……優しくなった。

あくまで以前と比べて多少はマシになった程度ではあったが。


ある時彼は

「ほら、これやるよ。たんこぶのお詫びだ」

とぶっきらぼうに言って、小さなベルベットの小箱を投げてよこした。


アドニスの瞳そっくりな深いブルーの石をはめ込んだ指輪が入っていた。

オフィーリアは箱を開いた瞬間そのブルーに瞳を奪われた。


(アドニス様が私にプレゼントを!? )

初めての贈り物に胸がドキドキして喜びが込み上げてくる。

オフィーリアは堪らなくなって両手で口元を覆う。


アドニスが生まれて初めて自ら宝石商のところまで出向き、選んで買ったサファイアだった。

なんとなく、この宝石をオフィーリアに肌身離さずつけていて欲しいと思ったのだ。


「こ、こんな高価なものいただけません」

と言いつつも内心は嬉しくて泣きそうだった。


「や、安物だよ!ついでがあったから買っただけだ」

「…………」

「安物だから……普段つけてろよ。ずっと」

「ずっと?」

「そうだ。寝ている時もずっとだ」

ちょっぴり拗ねたような顔のアドニス。


(だからアイツから貰ったネックレスなんて捨てちゃえよ)心の中でつぶやいた。


さすがのオフィーリアでもこの石が高価であることくらいわかる。

受け取っていいものかと躊躇していると、さらに畳みかけてくる。


「お前この色、わ、わりと似合うし?」

「他の色よりは多少はか、可愛く見え……ないこともない」


そうなのだろうか。

この指輪を身に着ければ貧相な自分でも少しは可愛く見えるのだろうか。

他の人にはそう見えなかったとしても。

もし彼の目にそう見えるのであれば。





変わったのはアドニスだけではなかった。

あれ以来、白馬のレアがオフィーリアに絶対服従するようになった。


賢いレアはオフィーリアが自分の命の恩人であることを理解したのだろう。

怪我を負わせてしまったこともなんとなく察していたのかもしれない。

以前の王侯貴族としての矜持はどこへやら、露骨にごまをすってくるようになったのが面白い。



例えば、背に乗ったオフィーリアが降りる時は必ず水溜りを避けて乾いた地面を自主的に探す。

またオフィーリアが暑いと言えばササっと木陰側に移動したりとまさに至れり尽せり。

オフィーリアが手綱を操るまでもなく、ほぼ自動運転で目的地に連れて行ってくれるのだった。



そしてレアのこの気を利かせたつもりのサービスがとんでもないハプニングを引き起こすことになるーーーー。







次回13話はちょっぴり色っぽい話になる予定です。R15のガイドラインを確認せねば……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 11話でのオフィーリアちゃんが、不満からか少し口が悪くなってて心配してたので12話読めて一安心! [一言] 登場人物みんなかわいいです、続きを楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ