1章「謎の声」
夢から目覚め、現実に引き込まれる。
一瞬、ここは何処だと思ったが、ここは自宅ではないと気付く。
祖母の家だ。
懐かしい匂いだ。どちらかというと、安心する匂いだろうか。
田舎の家では、日当たりはとても良く、蚊が来るのではないかと心配していたが、杞憂だった様だ。
布団は少し固めだ。畳に触れると、ほっとする。
「ホーホー」とキジバトの鳴き声が聞こえる。自分が田舎にいるのだということを実感させるようだ。
まだ怠がる体を無理矢理起こし、台所に向かった。
・・・・・・
「おや、もう起きたのかい?虎太郎」
「うん。おはよう。おばあちゃん」
僕はテスト勉強の反動で体調を崩し、母から祖母の家に行けと言われ、1晩泊まっていた。
母さん、貴女はずっと帰ってこないのに。
温かい味噌汁と白ご飯、焼き鮭が机に置かれている。出来たてだ。
箸で鮭を切り分け、口に運ぶ。
味が若干濃いが、拒否する程でも無い。
白ご飯は丁度良い柔らかさで、味噌汁も具が多く美味しかった。
朝食で体温を上げ、僕は『栗島虎太郎』と自分の名前が書かれたバックを持ち、玄関に向かった。
「もう帰るのかい?もう少し居ていいんだよ?」
祖母は本当に天使の様に優しい。
「大丈夫だよ。ありがとう。おばあちゃん」
田舎は空気が良いが、車の排気の空気が逆に気持ち悪くなる。
20分程歩き、1時間に1本しかない電車に乗った。
・・・・・・
乗ってすぐ寝てしまっていた様だ。意識がぼんやりしている。
景色を見ると、まだまだ田んぼを抜けていない様だ。
もう少し寝ていよう。そう思った時、何故か頭の中から声が聞こえてきた。
「ねえ。君。そう・・・君だよ。栗島虎太郎・・・コタロー君。君は、僕の姿、見えてる?」
゛見えてる”・・・?なんの話だ・・・。
その声は僕より少し年下の、少年の声だった。
「フフフ。もうすぐ分かるよ。君はもう、寂しい思いはしなくなる。それまで、ゆっくりお休み。」
そして僕は突然意識が飛んだ。