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Sun install  作者: k-suke
3/3

第三話

 私は絶対零度の中に身を置きながら、微動だにリアクションを取れず、まるで、極大シベリア寒気団のど真ん中あたりでコウモリ傘を片手に突っ立っている様な虚無感(きょむかん)(さいな)まれた

 美術部員あたりがメジャーリーグの球団からドラフト1位で指名され、翌日、ゴメン。人違いでした。と告げられたとしたら、きっとこんな気分になるのだろう。

 しかし、依然、身体は石化ステータスのまま、現在自分の置かれている状況と、その解決策を探るべく、どこかの役人同様、普段あまり仕事をしない怠惰な私の左脳を往復ビンタで叩き起こし、馴らし運転無しの、いきなりベタ踏みフルスロットルで回転させる。オーバーヒートは覚悟の上だ。

 

 もし、風間空の言う事「世界の平和と均衡、脳への情報記入、組織云々、、」と云う200%胡散(うさん)臭い話が全く以て、事実無根の虚言であるなら、彼が何らかの目的で意図的に私を(だま)そうとしているか、さもなくば彼が極度の精神的な疾病(しっぺい)を患っており、誇大な妄想に支配された彼が、私にそうした妄言を語っていることになる。

 もし逆に、彼の言う全てが事実ならば、風間空は宇宙的規模のドジっ子キャラということになり、私は神懸(かみが)かり的な天然ボケによる、憐れむべき被災者として定義付けられる。

 

 以上の三択の中で、私にとって最も好都合なのは、第二項の精神疾患説である。もし、そうとするなら、私はこいつの首根っこにスリーパーをかまし、ママチャリで引きずって精神科へと駆け込み、こいつの頭をラグビーボールと想定し、受付窓口にトライをきめこんでやる。


 第一項の陰謀説とするなら、相手の目的と出方を慎重に見極めねばならないし。

 一番厄介なのは第三項のミラクルドジっ子説、、である。この場合私は、その事態に反応しツッコミを入れるだけのバイタリティを保有せず、このまま、虚空の宙に浮かぶ北極星をポカンと仰ぎ見るのみである。


 もし、仮に第四の説として彼が、私をからかって冗談めいたことを、悪フザケか、もしくはギャグのつもりで言っているのだとしたら、この三階の窓から放り投げてやろうと思う。

 全然、笑えないし、エイプリルフールはもう数週間も前に過ぎているのだ。

 

 

 風間空も私同様に、(しばら)く固まっていたが、その後、軽く両手を挙げ、溜息まじりに、ヤレヤレ。。といった表情を造った。


「まいったな。全く、とんでもないことになった。」と、まるで人事の様に、風間空。

 何だ、その希薄(きはく)なリアクションと感想コメントは。。もし全てが事実とするならば、彼は、無関係な私を巻き込んだ上で、世界の命運そのものすら左右しかねない致命的失敗を犯したという事になる。

 せめて、ロスタイムギリギリにオウンゴールを決めて、自国のワールドカップ行きを逃したサッカー選手位のリアクションをしてもバチは当たらないのではないだろうか。


「あんた、まさかそんな話、本気で言ってる訳じゃないでしょ?!!そんなのウチの飼い犬の頭にトンガリ帽被らせて、一角獣(いっかくじゅう)だって言う位、全然、誰も信じないわよ!全部嘘っぱちだって、正直に白状しなさい!!今ならまだ、全裸でグランド10周の刑で勘弁してアゲルわ。これ以上、たわ言をぬかすと、いくら慈悲深い私でも容赦しないわよ。」


「人違いで、あなたの意識に情報を透写(とうしゃ)した事は、僕の重大な過失であり、その点に至っては幾重(いくえ)にもお詫び致します。然し、申し上げ難いのですが、組織と世界の命運に関する点に尽きましては、(まぎ)れも無い事実です。申し訳ありません。」


 深々と(こうべ)を垂れ、幾分も申し上げ難そうにも、申し訳無さそうにもない様子で淡々と謝罪の言葉を述べる風間空。

 私としては情報透写どうこうを信じる、信じない以前に、そんな人類的、地球的規模の任務を(なにがし)かの機関から拝命(はいめい)し、遂行(すいこう)するにあたり、よりによって、私、中務凛と、出席番号13番神宮遙香を間違えることの方が、よっぽどミステリーだ。普通確認、再確認するだろフツー。

 こいつはお母さんや幼稚園の先生に、道路に出る時は左右の安全確認をしなさい。と教わらなかったのだろうか?

 

 彼は、私にその組織の身分証とおぼしきカードを提示してくれたワケだが、そんなものに何の信憑(しんぴょう)性も無い。まあ、レンタルビデオショップの会員証でないことぐらいは理解できるが。

 

「僕の勘違いとはいえ、結果的にこうなってしまった以上、これと同様のIDカードがあなたにも発行されることになると思いますが。」

「いや、いらないから。ってゆーか迷惑だし。」

 冗談じゃない、こいつ私に地球的変態カルト組織の片棒担がせて、特撮戦隊ヒーローごっこでもやらせるつもりなんだろうか?そんなことする位なら、スクール水着にランドセルで登下校する方がはるかにマシである。


「まあ、こんな身分証を見せたことろで何の証明にもなりませんので、、」

 じゃあ、見せるなよ。何がしたいんだろうコイツは。。

「論より証拠といいます、僕の言うとおりにして貰えますか。」

 それは要求次第である。いきなり変身用ポーズとセリフとかをレクチャーされたとしても絶対やってやんないもんね。

「まずは、軽く眼を閉じてみて下さい。」

 言われた通りに眼をとじてみる。

 いきなりキスが飛んでくるのでは、と一瞬、身構える。

「御心配無く、キスシーンとかそういうのではありませんで御安心下さい。」

 殴ってやろうかと思ったが、やめた。バカバカしい。。

「次に閉じた眼の、眼球の中心にある黒点を左右の両端として、右目の黒点と左目の黒点を結ぶ線をイメージします。そしてその線を底辺とした三角形をイメージして下さい。頂点が丁度、(ひたい)の真ん中辺りにくるような感じで。」

 何が悲しくて、私は転校生とパソコンルームで、こんな意味不明なオマジナイをやっているのだろうか。クラスメイトにでも目撃された日には、確実に、隔離(かくり)が必要な感染症患者として扱われる羽目(はめ)になること請負(うけおい)である。


「次はその三角形に内接する円を描いてみて下さい。その円は実は、円形の鏡の背面であなたの前方が鏡の面になっています。」

 何と無く、イメージしてみる。

「最後に今、裏になっている鏡を縦に反転させ、その鏡を覗いてみて下さい。」

 指示通り、頭に描いた鏡の中を覗いてみることにする。

 まさか、いきなり鏡の世界に召喚されて、ハンプティダンプティやらというタマゴ型のオバケに出会ったり、女王とチェスをしたりする、筋書(すじがき)ではあるまいな。

 清水(きよみず)の舞台から逆さバンジーするつもりで鏡をのぞいてみると。


 やれやれ、、おいでなすった。

 先程の情報の群れが、私の頭の中を疾走し後頭部辺りへと突き抜けて行った。本日2度目の脳内短距離走である。2度目だから私の脳が少し慣れたのか、耳鳴りみたいのや、違和感みたいのは1回目より多少緩和されたように思われる。

 

 しかし、一日にそう何度も、こんな珍妙(ちんみょう)な連中に脳内を走り廻られるのは、(はなは)だ以て迷惑千万(めいわくせんばん)な話である。そのうちこいつら私の脳内で大運動会でも始めるつもりではなかろうか。

 大体、私は脳内にこんな訳の解らない、情報寄生虫みたいのを飼ったまま、果たして将来、嫁に行けるのだろうか?


 「これであなたの脳へ情報コードを直接記入したことに関しては、信じて頂けるでしょうか?」と涼しげな顔で風間空。

 あんなオカルトなものを、2度も見せつけられたのでは、信じたくないけど、信用せざるを得ない。  

 開国なんてしたくなかったケド、事実、黒船に乗ったペリー提督が浦賀沖に遠路遥々(えんろはるばる)やって来て、威嚇射撃(いかくしゃげき)しながら無理矢理、開国を迫ってるんだから仕方ないみたいな心境である。


「さっきのCDを、遥香に聞かせて。私の脳内にあるやつを消去して、みたいなことは出来ない訳?」スマン、遥香。私の輝ける未来のため、尊い人柱となってくれ。

 ロリっ子変身ヒロインとして、世界の平和と子供達の夢を守るべく、大いに活躍してくれると、親友の私としても鼻が高い。大丈夫、アンタはやれば出来る子だから。。


「それは不可能です。あの情報基盤は一度しか使えないようになっていますし、バックアップもありません。1つの情報コードを異なる人間と重複して用いることは出来ないのです。同じ遺伝子配列や、同じ魂魄といったものが存在しないのと同じことです。消去することも出来ません。」

 私の脳内で響いていた、「魔法少女マジカル遥香」のOPテーマ(作詞、作曲 中務凛)は急にトーンダウンし、代わって「運命」交響曲第5番ハ短調(作曲 ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)が私の脳内に鳴り響いた。


「この様な事態は想定外でしたし、(そりゃあそうだろうよ、、)今後の対応については私の一存では決めかねますし、(いや、普通こんだけの大失態をやらかせば大概の組織ではクビが飛ぶのでは、、?)組織の上の人間と話し合った上で神宮遙香サン、じゃあナカッタ、えと、、」

「中務凛。。!」怒りが臨界点を突き抜けるのを必死で堪える。

「中務サンと再度今後の事について話合いましょう。組織のことに関しては、その際御説明いたしましょう。昼休みもそろそろ終わりますし。」トコトン、マイペースな野郎である。



 とは言え、次の化学は実験室で行われる手筈(てはず)になっており、そろそろ急がないとマズイので、超人的ドジッ子転校生とパソコンルームを後にし、帰り際、ヤツに化学実験室の場所を教え、(ヤツは抜け目無く、持参のポーチの中に化学の教科書を用意していたらしく、そのまま化学実験室へと足を運び)私は足繁(あししげ)く2-7の教室に舞い戻った。

 教室に戻るとまだ大半の生徒は実験室に移動しておらず、(薄情者の神宮遙香は、人生最大級の危機に直面していた親友を放置して、さっさと移動したらしいが、、あぁ、遥香は実験室の準備当番で先行ったんだっけ。。)

 私は化学の教科書とノートを、机から取り出して化学実験室へと向かう。

  


 化学実験室の扉を開けると、どう言う訳か風間空と神宮遙香が何やら話込んでいる様子が(うかが)える。

 私の姿に気付いた風間空が、手招きで私を呼び寄せ、顔を近付け、静かな声でこう告げた。

「本来の主演女優たる神宮サンに事の成り行きを告げないというのは、何分都合が悪いと思いまして、()い摘んで事情を説明し、次回の話し合いの際には是非、彼女も参加出来ないかと打診(だしん)申し上げていたところです。」  

「はぁ??」悪びれず語る風間空の顔を覗き込む。

「そう申し上げましたところ、彼女と致しましては、オモシロソウだからOKだそうです。」


 遥香に視線を移すと、彼女は無表情のまま、右手でVサインを作る。

 


 ダメだ。。。アホだ、こいつら。。。。





 







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