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Sun install  作者: k-suke
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第一話

                                 

 明け方頃のあやふやで程よく心地のよい私の意識に何かが語り掛けてくる。

 でも、それは明確に言語化されたメッセージなどとは違っていてイメージ的に、まるで賛美歌(さんびか)めいたものと潮騒(しおさい)が入混じったような柔らかな感覚として、どこか私自身の中の、ノスタルジーの部分を優しく()でるように刺激する。

 

 真っ白でとても大きな光が、壁のように私の目の前にあって、私の後ろに、長い、長い影が何処までものびて往く。 


 ひとしきり幻想めいた気持よさにつつまれた後、私は緩い大陸棚(たいりくだな)から不意に海溝(かいこう)に転げ落ちるみたいに、深海のような無意識の闇に呑み込まれて行った。


 ケータイのアラームが、B-29の襲撃を告げる空襲警報のようなケタタマシサで私の部屋に木霊(こだま)する。

 私の朝は()ず目覚まし時計のアラームが鳴り、次に携帯のアラーム(一回目)が鳴り、最後に携帯のアラーム(二回目)が鳴る、という三段階目覚まし方式になっている。

 どうやら、第一陣と第二陣は、私の無意識によって駆逐(くちく)されたらしく今、不愉快な喧噪(けんそう)(とどろ)かせているのは、携帯アラームくん2号、(すなわ)ち、朝の最終防衛ラインであり、つまりそれは「急がないと遅刻」という深刻な現実を示唆(しさ)していた。

 両親はとっくに出勤しており、一言、起こしてくれても良さそうなものだが、不親切(きわ)まれりといったカンジである。もしかすると、起こしてくれようと一応の努力はしたものの、トランス状態の私にシカトされ、(ある)いは悪態をつかれ、不機嫌ステータスで出勤の途についた可能性もあるので文句も言えない。

 とりあえず私は、日曜日朝の変身美少女ヒロインさながら、スピーディ&ビューティ(後者にはいささか疑問符が付くのだが。)に朝の着替えを済ませ、通学用の紺色ショルダーバッグを左肩からぶら下げ、キッチンへと赴き、今朝の朝食が純和風、納豆御飯と、豆腐入りの味噌汁と、胡瓜(きゅうり)の浅漬けであったという事を確認し、どうやら漫画チックにトーストをかじりながらの登校は不可能と諦め、大急ぎで玄関を飛び出し、チャリに飛び乗り、自家発電機能が付いていないのが環境エコ的に大変悔やまれる程の勢いでママチャリのペダルを漕いだ。


 慌ただしい()の日の朝、全力疾走のチャリ上から閑話(かんわ)休題し、便宜上(べんぎじょう)の自己紹介をする必要性があると思われるので、とりあえずこの辺りで済ませておきましょう。

 

 私の姓名は中務 凛(なかつかさ りん)、これと言って押し述べる程の特色の無い、ごく普通すぎるのが特色の県立高校(偏差値も普通、特に活躍の目立つ部活も無く、特にユニークなコースがある訳でもなく、有名人も輩出していない。)の普通科に籍を置く、若干妄想好きな部分を除けば、至極一般的普通要素を()き散らしている高校ニ年生(満16歳)の女子である。あくまでこれは私の(ごく)主観的視点から述べた見解な訳だが、多分そうであると信じたい。両親は共働きで、この春から都心の私立大に入学した兄貴は向こうで独り暮らしなので家には居ないという、写実主義画家ボワールが絵に描いた様な典型的核家族であり、これまたポピュラー過ぎて、面白くも何ともなく、全くもって目も当てられない有様である。

 あえて家族構成に補足を付け加えるなら、ロック好きの兄貴が何処(どこ)かで拾って来て「カート」と名付け、我が家に残したちっこい柴犬(オス♂2歳)がとても寂しがり屋でキャンキャンとよく鳴き、可愛らしいのやら、やかましいのやらという事位である。


 まだ(わず)かに薄ピンク色の花弁(はなびら)が残る緩やかな桜並木を一迅(いちじん)の春風みたいに全力ダッシュで駈抜けつつ、とりあえず、この物語を私の一人称で始めさせて頂きたいと思います。では、あしからず。


 視界に校門がチラつき、更にペダルを前倒しに踏み込む。校門を通過!!ダントツトップ。世界新記録でゴールゲートのテープを切ったマラソンランナー的高揚(こうよう)気分で校門を走り抜ける。(ひたい)に何か少しひんやりとした感覚を覚え、人指しゆびを額へと伸ばす。淡い桜の花弁がひとひら、少し、幸せ気分。朝寝坊も満更(まんざら)悪くない。

 

 冷静に我を振り返る。ランナーズハイな幸せ感に浸っている余裕など無い、依然、遅刻的状況に変わりナシ。駐輪場に愛車のママチャリを投げ捨て、2-7の教室に向けてスプリントダッシュ、予礼のチャイムを背後に背負い、廊下を走り去り、2年7組の扉を潜り抜け、ホームスチールを狙う三塁走者よろしく我が席に滑り込む。

 クロスプレーに対し、アンパイアの“セーフ!”のジャッジコールは当然ながらある(はず)もない訳だが、代用句としてはこの上無い位の完璧なタイミング(私が仮に財団法人等を所有しており、もし可能であれば、今ここで“ジャストタイミング賞”なるものを設けて寄贈(きぞう)したくなる程)で、始業のチャイムが私の頭上へと降り注いだのだった。

       

 と、本来ならここでクラス全員がパブロフの犬状態で(うちの愛玩動物であるところのカートくんも是非パブロフ氏に(しつ)けて貰えないものだろうか?研究材料として喜んでお貸しするのだが、、)条件反射的、直立不動をし、スマイル(さわ)やか委員長、吉永瞬輔(よしながしゅんすけ)(通称、ヨン様)の号令下、「起立、礼、着席。」と言う常套句(じょうとうく)の後、SHR(ショートホームルーム)というやくたいもない朝の通過儀礼がしめやかに開始されても可笑(おか)しくない筈なのだが、いや(むし)ろ開始されて(しか)るべきなのだが、CPUの空き容量の怪しくなったパソコンみたいに2年7組の教室の空気は依然(いぜん)停滞したまま、一向に儀式が始まる(きざ)しは微塵のカケラ程もない。


 原因は何かと言えば、小学校低学年の良い子にみんなにも分かる位、単純明解。我が2年7組の担任、国江香保里(くにえかおり)教諭(担当科目、英語、28歳♀既婚、通称カオリン先生)が、既に始業開始時間を過ぎているというにも関わらず、未だに教室に姿を現さないのである。

 全く(もっ)て聖職者としてあるまじき失態である。向学心旺盛(おうせい)な諸生徒達に待ち呆けを喰らわせた挙句(あげく)怠慢(たいまん)にもSHRに遅刻を決めこむなど以ての外と憤慨(ふんがい)し、拳を握り締めて振り向き、後ろの席の女生徒、出席番号13番、神宮遥香(じんぐうはるか)に抗議してみたところ、彼女(いわ)く、

「遅刻ギリギリでホームスライディングしてた奴がエラソーに言うな。。」

 と、名刀菊一文字宗則きくいちもんじむねのりで一刀両断されたが如く袈裟掛(けさが)けにバッサリと切り捨てられた。斬り捨て御免の職権濫用(らんよう)も程々にして貰いたい。

 

 彼女、神宮遙香とは中学時代3年間同じクラスであり、高校でも1年、2年とまた同じクラス、(しか)も、席後ろ、みたいだし、これくらいになると、(いく)ら不信心な私でも、そろそろ、それなりに縁やら所縁(ゆかり)やらがあるのでは、と認めてあげなければ、何だか神仏に対して申し訳ない気分になって来るので、クサレ縁の親友と云ったところで認識し、彼女には、“認定書を発行してあげる。”と(私なりに気を廻して)言ってあげたのだが何故か(かたく)なに拒否られ、今日まで不文律(ふぶんりつ)の盟友として過ごしている。


 彼女の身体的特徴について少し述べると、彼女は極めて小柄、ロリ型体系。栗色の緩いウェーブ掛かった長い髪の毛と、神秘的な潤いを帯びた大きな美しい瞳が何とも言えず魅力的(某アニメで引用されたキャッチフレーズ。いわゆる、ひとつの萌え要素。貧乳はステー。。××)性格はクールで淡々としていて、たまに毒を放つ(要注意っっ!!)


 朝っぱらから、ひっきり無しにアドレナリンとノルアドレナリンの霧を振り()きながら、始業時間とのデットヒートに一応の勝利を収めた私は、担任、カオリン先生こと国江教諭の闘牛士顔負けのかわし技の前に、華麗に肩透かしを喰らい、まるで間違って隣の邸宅に討ち入った赤穂浪士のような何とも言えない暗澹(あんたん)たる気分になった。 

 カオリン先生のSHRボイコット大作戦に対し、憤然(ふんぜん)としたところで、私の脳内の刺激系伝達物質は在庫切れとなり。交感神経と副交感神経の優劣は完全に逆転。副交感神経の指令により、大量のアセチルコリンが(せき)を切ったダムのように一挙に脳内の支配権を獲得することとなった。

  

 雲霞(うんか)の如く押し迫って来る疲れと眠気に対し、申し訳程度に抗いつつ(一応ファイティングポーズはしてますよ。程度に)、教科書とその他諸々を机の中に仕舞(しま)う。

 周囲の生徒諸君は各々フリーなジャンルのトークタイムに花を咲かせており、私は聖徳太子ではないので、それぞれの詳細な内容までは、聞き取れない。

 最前列では委員長ヨン様が毎週月曜日発刊の少年漫画雑誌をいつもの爽やかスマイルとは異なり、やおら真剣な表情で読みふけっている。委員長なのだから、こういう時はクラスをまとめたり、仕切ったり、無駄にリーダーシップを発揮しクラスメイトから鬱陶(うっとう)しがられるが一応の(すじ)だし、健全なる姿である。そんなことでは将来、立派な専制君主にはなれないのではないかと勝手な老婆心(ろうばしん)ながらに思うのは私だけだろうか。   

 

 一通り、教室の景色をぼんやりと眺め、時間割り表に目を移したところ、どうやら本日月曜1現はカオリン先生のreaderなので、落ち着いて冷静に考えてみるに、SHRが一現目に多少なりずれ込むだけの話であり、今まさに校庭脇で(はかな)くも散り急ごうとする桜の品種が、ソメイヨシノなのか八重桜なのかという位、全く以てどうでもいい話であることに気付き、何だか無性(むしょう)に馬鹿馬鹿しくなり、後ろの席の人斬り娘と、他愛(たあい)もない女子高生トークでもきめこもうかと振り向きかけたところ、(おもむろ)に教室の扉が開いた。


 視線の先には、カオリン先生と、その隣りにはおそらくは転校生であろうと推察(すいさつ)される(ウチの制服を着ているのでカオリン先生の産休の後任となる新任教師というセンは考え難い。)男子生徒が立っていた。

 

 彼はカオリン先生に(うなが)され、風間空(かざま そら)と名乗った。身の丈178センチ位、痩せ型、それなりに整った顔、どこにでもほっつき歩いていそうな、二束三文、ありきたりな男子高校生である。


 かくして我が2年7組に新たなる仲間を迎え、別段変わることのない、ありきたりで極々(ごくごく)、平々凡々とした高校生活が繰り返されて行くものと、思っていたのだが、、、。


 そうは問屋が下ろさなかった。。何処(どこ)の問屋なのか問い合わせて、スクランブルで急行し、火を放ってやろうかと本気で思うほどである。

 問屋の場所をご存じの方が居たら、是非ご一報(いただ)きたい。








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