智恵4
確かにルーメナの意見は、策略は正しく、寧ろこちら側が不平等な条件を呑ませることが出来る、その程度には突出したものがあった。だが、それらは、自分たちにおいても必要なものである。
例えば、海産資源。魚介や海藻、その他資源をカードにあげたなら、次に我々が魚介、海藻が枯渇してしまう。
例えば、土地資源。この国は、前国王の政治は、腐敗しきっていたが、その前国王は、ただの愚王ではなかった。別名を戦の神と呼ばれ、一部からは支持されていたのだ。文字通り百戦錬磨の実績を持つ彼は広大で肥えた土地を余す程に持っている、それをカードにすると、我々が必要になった時に困る。
「今、カラードが思ったことについてだけれど、そこについては簡単。寧ろ、お釣りが来るほどの条件であることを自負しているのだけれどね?
内陸国である、彼ら3国は海に面していないために港を持っていない、だが、私達は広大な海に繋がる港を数個保有している。ただ、私達が支配している海の航海権及びに漁業権を渡しても、それは意味が無い。そこで、我々は港を建設する費用よりも格段に安く、港をひとつ貸しだそうと考えているの。
土地資源においても、彼らは私達に比べれば小国であるけれども、政治的経済的には私たちよりも格段に上であることは明らかよ。故に、私達は今使うか分からないその土地を彼らに渡す。私達は山を跨いで彼らの国の近くまでの土地を有しているから、それぞれの山からこちら側の土地を渡す。
分からないようだから言っておくけれど、私達が欲しているのはお金でもなく、協力でもなく商業的力だ。
この国の立地は、産業的に、戦略的には花丸が貰えるレベルではあるが、逆に言うと商業的にいえば0点。山に囲まれ、海に囲まれている、遠くの海洋国には手を出していなかった状態であり、前国王は、扱いづらいやけに感情的な戦の神だったのだから、隣国は恐れ戦き半ば鎖国状態。故に、開国をしなければならないの、他国からの流通と私達の商業の繁栄を目的に。」
ルーメナの出したカードは13。中には商業的目的出ないものもある。否、商業的目的が隠れているのだが、俺には分からない、それくらいで良いのだろう。
となると、この作戦に、戦略に、俺が批判できる力などは持ち合わせているわけがなかった。
13のカードにジョーカー、それらの効果が合わさり俺達を勝利に導くディーラー、勝負は既に決している、そう考えても良かったのだ。
「ただ問題は、その条件を前にしても3国が食いつかないことだ。それか、俺達の掌の上で回ってくれないことだ。」
「食いつかない可能性なんて存在するか?」
「釣りってしたことあるか? 例え絶品の餌を付けても、魚がおなかいっぱいであっては食いつかない。もちろん、今はこちら側相手側の状態がほぼほぼ手に取るようにわかっているから、その例えは少し悪いが。
何か、別な要因で食いつかない可能性は大いにありえるという事だ。」
「ならば、食いつかない要因を確定で消さなければならないわけだな……。その辺に置いて、本当に抜かりなく、事実である確証はあるのか?」
「一応、偵察というものを、送っているらしい。それらにからの報告のみによる事実である確証にたる、ものばかりだった。だから、食いつく要因になり得る事実は確かにある。但し、こうしている間にもその問題は解決の方向へと進んでいる可能性もある。」
「じゃあ、その3国に対してこの国以外の、干渉はありえないのか? その3国を美味しいものとして考えているのは我々だけじゃないだろ?」
「そうだな、それに挙げられるのは、数国ある。3国は確かに小国だが、優秀な商業国であるのも確かだ。それを手に入れるのに、3国は弱みを知らしめすぎている。
それにおいて我々はこうして、ジョーカーを含め、14のカードを保有しているわけだけど、相手国が、我々よりも強いカードを持っている可能性もあるわけだ。」
「なるほど、それは分かった。ならば、確定で勝つためには、我々が彼らよりも強いカードを持っているという確証がなければならない。そういうわけだけど。」
「それにおいての確証は、もちろんない。我々のカードは俺達が知っている開示された13のカードとジョーカーだ。そこにおいては、変わりはない。あるとするならば、ルーメナによる、追加のカードだ。だが、それをない方向で考えるとなると話は変わる。
つまりは、そこは外交に行ってからではないと分からない未知の世界だ。世の中に完全はないってことだな」
「そういえば、もしそれが叶ったとして、たった1ヶ月やそこらで国家予算にたる程のお金を集めることなんて可能か?」
「なぁ、お前はどちら側なんだ? 賛成なのか反対なのか、主題に対しての婉曲した提示なのか、検討ハズレの提示なのか。そして、今の質問は今の議題の内容じゃない気がするんだが。お前に討論は向いてないんじゃないか?
俺達の仕事はこの国の政治をすることでも外交をすることでもない、政治・外交する手段の確認だ。
お前は何をする気でその質問をしている? 心配か? それともただの無知か?」
「……。どちらにせよ、俺は賛成だ。それ以外の、手段に検討もつかないから」
「埒が明かないのは確かだね。まだ、夕暮れにも早いし、日だって登り切っていないし、実行に移そうか。」
そう、ルーメナは切り出した。どうやら、こんなもので良かったらしい、十分実行に足ると判断できたと言っていい。
だか、この距離は車でだって数時間かかる距離だ。この世界の移動手段は何かは分からないが、それ以上はかかることだろう。しかし、彼女は実行に移そうか。とそう言った。それはつまり、それ以上の足があるということになる。
「確か、グリーダは1日2種の魔法が使えるんだよね? お願いだけれど足役、頼めない?」
ルーメナが言ったその言葉を簡単に承諾した。
白色の光で魔法陣がくみ上げられ、グリーダは言った。
「契約魔法行使――【瞬間移動魔法】。
時よ、空間よ、我らを彼の地に誘い給え、範囲瞬動」
そうすると、グリーダから空に水色のクリスタルが生まれて、舞い上がり、パリンと割れる。そうすると同時に、魔法が実行される。魔法陣の外縁を渦巻くようにつむじ風が現れて、それが徐々に徐々にと強くなる。
目を瞑る、次の瞬間には魔法陣とグリーダ、ルーメナそして、俺以外の環境は変わっていた、目の前に石造りの壁があり、辺り一面が草原だ、転移したそれが、手に取るようにわかる。
「まだ出るなよ? 安定してない」
電車とかバスみたいな感じで、完全に止まるまで待てという合図をして、吹き荒れる風が少しずつ薄まる。
時と空間に干渉して、移動を行っているためだろう、日の傾きが少し戻っている。
「よし、いいぞ。まず最初に、ここ。右端の国エンザルードだ。」
着いた先は、他2国よりも、経済は劣っているが、その分土地の広い国、そして、広い分我が国とも少し距離の近いこの国エンザルードだ。
位置は3国の右端、真ん中の国から南西、メリーズからは西にある国だ。
「どうやって中に入るんだ? 通行手形的なのも無いだろ?」
「君は私を誰だと思っているのかな? ここまでして、そんな簡単なミスをするわけが無い。黙って、着いてきなよ」
やけに彼女は男前だ。ここから、門まで少しの距離を歩き、何かを見せて門番に軽くこう告げる。
「国王様のお通りだ。道を開けろ」
少しサディスティクな顔をしたが、そんなことはなかっのだと自分の中で言い聞かせた。
その、幼さの裏から醸し出されるサディスティクな部分と俺が奮闘しつている中、門番は引きつった表情で彼女の差し出したあるものを確認し、ひれ伏した。
「メリーズ両国王並びに、お付様、どうぞ入場ください!」
その言葉と同時に、即座に門が開いた。否、柵が上がった。てくてくと、外堀にかけられた橋を渡り、その門をくぐるなか、俺はルーメナにこう聞いた。
「何を見せたの?」とだけ、簡単に。簡単に聞いたからか、彼女も「そのうち分かるさ」とだけ簡単に答えた。
恐らく、門番の大声はあたりに聞こえていたのだろう、もしくは外からの来訪者にそこにいた国民中が注目した。
あれが、元大帝国の両王様。だの、あのエルフは誰だ? だの、とりあえず外見に対して褒められていないことは分かった。俺はかっこいいって程でもないし、彼もかっこいいと言えばかっこいいのだが、少しだけ現れた気性のあらさ的なものが主張している。第一印象ならば、怖い、が正解だろう。ちなみに国民は全員正解だ。
城への道は、尋ねるまでもない。国王がこうも先陣を切って他国へ突入したということは、そういうことであると国民は理解したのだろう。城への道はこちらです。そう言わんばりに、道が一つだけ開いている。
まさか、暗殺などはされる訳もなく、そのまま歩いて城へ到着する。もちろん出迎えはナシだ、アポ無し訪問は辛いものだ。
到着すると同時に、城門が開く、こちらは開くの表記が正しい。金具の軋む音と共に、敵本陣への道が開かれると、それはそれは急ごしらえの執事、メイドがズラっと並び、1人の気品のある青年が真ん中で出迎えた。
そして、
「よくぞ、お越しくださいました。メリーズ両国王様、並びに名食みの魔女様。」
嫌味のない皮肉ったらしく、にこやかにそう彼は言ったのであった。