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智恵嬢と傀儡王  作者: 緑色の変人
3/5

智恵3

「傀儡になったとて、俺達は何をすればいい? ただ監視ってだけじゃあないんだろ?」


男は、グリーダはそう告げた。


「そうね。何もしなくていいのよ? あなた達は象徴である必要があるの、平和の象徴、二度と同じことを繰り返さないための象徴。」


まるで、日本の天皇は国の象徴である。そのようなことを言っているように感じた。いや、事実そうなのであろう、彼女は、ルーメナは、日本語を覚え、グリーダの国の言語をも覚えたと言っていた。ならば、その国の情勢くらい見えるだろう。何せ、魔女なのだ。そのぐらい出来なくては困る。


「象徴だって仕事くらいするだろ、現に…」


「その点は心得ているわ。だから、あなた達には、仕事があるの。人形師に操られた人形は、何をするかしっている?」


――踊る。ただそれだけの答えを求めているとは思えなかった。もっと、その言葉には意味があるのだ。

例えば……


「踊ってもらうわ。あなた達2人はは、私の掌の上で、劇を繰り広げてもらう。討論よ。交互に賛否に分かれ正論と正論をぶつけて、私の法律と制度が正しいのかどうかを審議してもらうわ。」


日はまだ、上り何をするにもまだ時間が有り余る、そんな刻限であった。その中、ルーメナはそう言ったのだ。

討論である。本来は複数の勢力から、ひとつ支持する内容を決め、それの良さを主張し、相手方の盲点を指摘する。

それによって、是が非かを決める。

その討論である。俺達は、書斎に設えてある方卓、四角い机をひとつの辺だけを残して囲むように座った。椅子の軋む音がこうも明らかに聞こえた、辺りはまるで静かなのである。その静けさをかき消すかのように、ルーメナの魔法によりこれまた書斎に設えてある沢山の本棚の塔の中から、魔法の力により四方八方から本が卓上に並べられていく。


「さて、始めましょう? 先程話したと思うけれど、今は私が作った仮の法律によって、辛うじて人を裁くことが可能な程度なの。だから、いち早く、完全な法律を作らなければならない。


――けれども、今。この国は、この国が欲しているのは法律なんかでは無いわ。法律よりも、より絶対であり、今の社会において必要不可欠であり、今1番この国が欠如しているもの。それが欲しいのよ。それも大量に」


ダンと、ルーメナは机を激しく叩き、立ち上がった。その衝撃音で、目の前に用意された本に目を通していた、俺もグリーダもが、彼女の方に目をやった。

初めて、彼女を見た気がした。否、正確に言えば何日も何日も見て、時間を共にしている。もちろん、そういう意味合いではない。初めて、彼女を見る余裕が出来たのだ。言語をひとつ理解するのに切羽詰まっていた俺は、彼女を見れども、視覚的情報はエルフ少女が居る。という認識しかしていなかった。だが、今は違った。光が亡くなった世界でさえそれがあるだけで、辺り一面、全てを照らすであろう輝きを持った金色の髪、その髪をなぞっていくと、エルフである最大の特徴肌色の長い耳が生え、海のように深く、空のように広大な碧の瞳、金髪なのに対して、あまり北欧の少女を思わせない低い日本的なのもの中でも、凛と立った鼻筋、リップなんて必要としないのであろう潤った唇、片手でその全てが収まるのではと疑うほどの大きさである顔とそれを支える首、艶やかさが醸し出され、彼女の首元に備わる第2第3の魅力の1つである飛び出した鎖骨、そこから、申し訳程度に垂れた大きいと言うよりは形が綺麗で、手のひらひとつで収まるであろう淑女たる美乳、そこから華奢で折れてしまいそうな細い二肢と、腰のラインがくびれるように伸び、ここで金色の髪は途切れてしまうが、その延長線上に視界をやると、くっと整った小さな尻、そこからどうやってその体を支えているのか不思議になるほど細い二肢が伸び、ルーメナが完成する。

エルフといえども、彼女の服装は緑や葉に包まれてはいない、パッと見は、ドイツの民族衣装ディアンドルのようだ。だが、所々に賢さが滲み出てくるような、規律。

今この状況で見える全てを確認していえることはまずひとつ、綺麗だ。という事だ。女性としては少し高めの身長から醸し出される凛とした佇まいはもちろんのこと、どこかあどけなさを感じさせる少し幼い顔つきや肉付き。全体的には、外見年齢は俺と同じように見えた。

そんな俺の熱い視線、を感じとったのか、ルーメナはゴホンとひとつ咳ごみ、俺を魔女の魔法による魅了から解放したのだ。


「それは、お金、別名国家予算。それが、明らかに足りないのよ。」


そういえば、先程から彼女の口調が変わった。最初は敬語がしっかりしていたのに、今はその敬意は断片ほどしか見えない。これは恐らく上下(ぐくつ)の関係がそうさせているのだろう。

それはそうと、お金が足りないと言った。それは確かに、この王の生活からしてもわかる。やれ食事、やれ寝床、やれ入浴、そして、前に城内の行ったことのない場所に行ってみたが、蜘蛛の巣やホコリだらけであった。そんなことから、薄々勘づいてはいたが、やはりそうであったか。


「原因は、お察しの通りよ。もとより前国王の金遣いの荒さは常軌を逸していたわ、金の力で城内に複数の女を呼び、ただ高いだけのお酒を、それを我慢するだけで人が1人一生を終えるほどの額だけ飲み、一夜を明かす。それだけではない、王の元へと物珍しい情報が入ってきては、それを多額の富で購入、それらは、全て今になっては無価値。

そうして、前国王が残した多少の蓄えも、この一年半でそろそろ底をつきそうな始末。故に、無一文と言っても過言ではないこの国には、私が呼んだ国民が数百万におよび生活しているわ。農業も工業も商業も退化してから、進化・繁栄の面影は未だに見せていないわ。

このままでは、法律を作ったところで、この国は退廃して行く、それを、私達は多くとも1ヶ月か1ヶ月半で改善しなければならないの。


―そこで、私は、まずこう考えたわ。

一時的に他国に協力を仰ぎ、同盟的関係になる。その間に、私達はこの国の商業を発展させる。とね。」


「この段階で、同盟関係になるのは少し危険すぎるとは思わないか? それで傀儡と化しては意味が無い。」


グリーダはそう告げた。一理ある、日本は和親の条約を結び、通商修好条約を結んだが、あれは不平等であった。今回とは、自分からと、相手から、という雲泥の差があるもの、相手からの場合でそうなっていては、自分からの場合では、より酷な不平等であるに違いない。


「私は、まだ、『まず』としか言ってなかったはずよ? 結果は、最後まで聞いてから言いましょうね?

グリーダの言う通り、自ら頭を下げて同盟関係になるのは得策ではなく、愚者のすること。それでは、相手方から無条件で、不平等を押し付けられるに決まっているから。

ならば、こちらがするべきことはひとつでしょう?


――これについてどう思うかしら?」


彼女は、端的に、無謀を得策に変えるカードを我々に提示した。それは確かに、切り札である。だが、本当にここで出していい切り札であるか、それは俺には計り知れなかった。


「単純に、俺は賛成だ。その切り札は最後まで残していてはいけないものだ。そして、同盟関係の切り札であればら尚だ。だが、問題なのはひとつ、それだけでたった1ヶ月で国家予算、それも人口100万人もの国民を養えるだけの予算が手に入るのか?」


グリーダは、さも当然かのように告げた。ただアホなだけではなさそうだ。選ばれたからには、それなりの理由があるという訳だ。


「相手国にもよるけれどね、遠くの大富豪よりも近くの小富豪を信じる質なの。幸い、この国の周りは山や、海で囲まれていながらも、隣国が、そう遠くなくそう行きずらくはない所に複数存在しているんだ。それも、内陸側に。」


ルーメナは、魔法で地図を広げ、自国の場所に赤い結晶を浮かせ、その、山脈を超えた先、の3国家に青の結晶を浮かせた。

商業において、相手の持っていないもの、お客のニーズに応え、信頼を買う。それこそが基本である。無知の俺でも何となく分かるような基礎であると思う。

彼ら3カ国において、海産資源は喉から手が出るほど欲しい品物である、そのままルーメナは言葉を続けていて、彼らが、そのまま内陸側へ進み、反対側の海に存在する大国から、海産資源を高額で買っているのだとか、大国は、輸出費用、手間賃、関税その他諸々を付け加えている。それは、大国から3国が遠いためだ。それ故に新鮮なものではなく塩漬けされたものが高額で運ばれる。そこに、ルーメナはひとつのカード、新鮮な海産資源、A(エース)を選び、地図上に放り投げた。


「次に、3国はとても仲が悪いが、中枢は実はそうではない。そこに根付いてしまった国民性が、3国の仲を険悪にしている訳だが、そこで、私達が中立として3国に干渉するとどうなる? 」


「元から、講和を考えている中枢が、それを口実に講和を考えるって言うことか? ただ、それは確証はない。3国が、干渉を口実に講和するであろう確実な証拠は存在するのか?」


「確証はない。確かにそうだ、誘導しない限りは、ね。なんのためにカードが13もあるか、それは全てが孤立している訳ではなく互いに干渉し合っているの。ひとつのカードは、他のカードから助けを得る。」


そこで、ルーメナは、カードを、2のカードを地図に優しく置いた。13のカードそれはトランプそのものである、恐らくは日本を見て真似したのだろう。そして、13のカードは、残り11の手札があることを意味する。

まるで、揃えられていたかのように、一つづつ、カードが切られて行った。


「ジョーカーはまだ出さないよ、最後までとっておかなくては面白くないからね。」


そういって、ルーメナはジョーカーを伏せた。

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