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智恵嬢と傀儡王  作者: 緑色の変人
2/5

智恵2

その日の夜食はそう豪華なものではなかった。硬い石のようなパンに、何かはわからないが白身魚のソテーに何かはわからないシーザーサラダのようなもの、それに加えて口当たりの悪いワ…発酵したぶどうジュース。どれも、簡単な調理で、とても最高級の料理、はたまた王であるであろう者の摂る食事出ないことは明らかであろう。

簡易的な浴槽で疲れ切った体を癒し、硬い布団で、もちろん天蓋など着いていなく部屋もそこそこ小さい、そこに眠る。

これではまるで、庶民、あるいは変わらぬ生活のようである。むしろ、かなり悪い方であると、分かる。

こうもされると、自分が本当に王になったのか、それが疑われる。王の暮らしというものは、豪勢で小さな料理を頂き、大浴場でたくさんの使用人によって落ち着かないまま体を洗われ、天蓋着きの大きなベッドに見合う、大きな部屋で眠る。

その断片もなく、一致していることは城の中での生活ということだけである。否、ここが本当に城であるということですら疑われる。あの無駄に大きな書庫は本当は別の施設だったのではないだろうか。そうも思えるほどにこの、一連の流れは異常であった。

相変わらず言葉は通じなく、ジェスチャーのみが辛うじて存在する使用人とのコミュニケーションの方法である。


そうなると、前に定義付けした、この場所がまた疑わしくなる。本当に異世界なのか、異世界であれば、魔法の力が手に入ったり、最強になったりするものだが、一切その実感がわかない。神様も現れない。神はいないのである。


朝起きても、この一連の流れに変わりはない。あるとするならば朝食があり、昼食があり、戴冠式らしきものがなく、勉強の内容が一新した気がするのみだ。

その次の日に起きても、夜に就寝しても、日を改めても、雨の日であっても、日が短くなっても、変わることは無かった。

いつも同じ、庶民のような王の暮らしにも慣れてきた頃であるだろう。正確にはどれくらいの月日が流れたか、それすらもどうでも良いと感じるのである。

ごく稀に、城下に降りて、辺りを紹介されたりして、ここが本当に城であることを理解することもあったりしたが、今となってはどうでもいいことである。

この世界のこの国の文化も、スポーツも娯楽も全て、国語の勉強によって、理解させられた。ヨーロッパなぞは行ったこともないし、はたまたどのような文化なのかは、詳しく知っている訳では無いが、何となくやはり、それに似ているような気がした。

どれくらいの時気が流れただろうか? 暖かい気候のはずが、秋は来ず、冬らしきものが来て、春が来ず、夏が来る。

おそらく季節を4つは跨いだだろう。この国の暦の制度は知らないが、地球で培ってきた感覚的にこれが1年なのだろう。いや、そうである。俺は、1年をかけて、この国の言葉を理解した。文法に単語、最後の最後には辞書のような、どこぞの魔法学園の本を読んでいるようであった。

この暫定1年で120もの本を読んだと思う。薄いものから厚いものまでだ。

だが、まだリスニングとスピーキングがなっていないと言われてしまった。そう言えばだが、隣の男は、ここにはいなくどこか違うところへ行っている。何をしているのかは皆目検討もつかない。

そう言われてから、雨の日が何十日、晴れの日が百何十日その他の天気が数日たった、季節に表すならば2つだ。

総勢6つの季節を経て俺はようやく、言語を取得した。

おそらく、現地にいる割には遅い方かもしれない、そして、未だ完璧ではないのだ。知らない単語はいくつもあるし、おそらく噛み砕いて言ってもらわないとわからない。

だが、日常生活をする上では、もう大丈夫だと箔押しされた、箔が押されたのかはわからないが、おそらく妥協点に入るだろう。


『ひとつの言語を取得するのに、時間がかかりすぎです。1年と半年も費やしてしまいました…』


今ならば、エルフ少女もとい、ルーメナが母国語で言っていることが手に取るようにわかる。苦言を言われてしまったのは、目を瞑ることにして、とりあえず俺は、この喜びに浸った。


『まぁ、良いでしょう。彼も来たことですし、では、話しましょうか、私達がなぜ、あなた方を召喚したのかを――』



――あれは、夏の暑さが懐かしく思うようになる冬の中旬のこと。前王アンディ五世の統治下にあったこの国は、彼の圧政と敵勢力の弾圧により、世は荒廃し、飢餓死する者も少なくはなかった。王の圧政に、反感を持っていたのは、国民だけでない議会もが王により独占された政治を面白く思っていなかったのである。王の思いつきによる、王のみに利益の働く政治改革、無宗教であった王は、神はいないのである。と断言し宗教信者を、全面的に排除。娯楽や飲酒を許さず、「ただ働くのみ」と仕事改革を起こし、甘えを全面的に排除した。

そうすると、世に残るのは、王に従いただ働く無宗教のみ。王は困惑した、世をより良い方向にと、目指した先が極小の人物しかいなかったという、結末に。

王は自らの行いを悔い、ある指導者の元、議会によって退位させられた。かと言えども、残るのは荒廃しきった社会と、極小の国民と、今までいるだけの存在であった議会のみである。議会は、指導者に頼る他なかった、藁に縋り付く思いで、全権を指導者に委託しようと試みたのである。

指導者は、議会の心配とは裏腹に快く承諾した。いくつかの条件をつけて…

ひとつは、議会の解散。ひとつは、全法律及び全制度の撤廃。ひとつは、彼女は王にはならないこと。ひとつは、異世界から、2人の王を召喚すること。

それらは、議会は決議の必要もなく議決された。

かくして、指導者――ルーメナは、この国の全権を手に入れ1年で人口を元に戻し、その場しのぎの、歴史に残ることない軽いその場しのぎの法律を成立させ、異世界から、2人の王を召喚した。


「というわけでございます。」


「じゃあ、あれは? 俺の名前が消えた理由は?」


そう2人はメリーズ語で発言する。


「それは――」


――だが、そこには、ひとつの問題点が存在した。

建前上の王を設置したとて、王は王であり、その権力の端くれに圧倒され気が狂う。それはルーメナとて同じである。そこで、ルーメナは魔法的措置をとった。

―名食みの魔女。それはルーメナの異名である。ルーメナは名を食らうことにより、魔力を得て、その代わりに新たな、幸福になると言われる名をつける。それによる異名。

ルーメナの【名食み】の力には、いくつかの効果がある、名前を食らい自らの魔力にする。名前を食らい自らの傀儡にする。それらの能力があり、後者を使い、2人の名前を代償に、2人の暴動を制御した。それと同時に、2人に自分の制御させる、その役目を任じたのである。


「もしも、傀儡が嫌だというのなら、反抗が、暴動がしたいとなれば、如何様にしてもいい、自分の名前を取り戻してください。そうすれば術が、魔法が、呪いがとけ、晴れて自由の身です。」


ニッコリと愛想ではない純粋な笑顔を浮かべた。

だが、それは「無理である」そう言っているようにも見えた。


「ここまで、1年半か? 付き合わされたが、俺はこんな所を統治する傀儡になる。そんなために呼び出されたというのか? 俺は、帰ってやらなければならないことがある。あるのだが、それがなんだったか、どうしても思い出せないのだ。ええい、魔女めっ! 俺をここから、この状況から解放しろ!」


そう言って、隣の男は、片手をなにか剣のようなものの柄を握り閉めているかのような型にすると、そこから、光が走り、洋風のスピード重視の軽めの長剣言うなればそうだ、レイピアを顕現させたかと思えば、そのレイピアを軽く握り直し、ルーメナに向かって刺突した。狙った先は、生物活動の要である心の臓、心臓である。

敵意むき出しであり、矛先が俺でも視認できるほど、単純なその攻撃は、防がれることなく命中する。

ルーメナの、刺突傷から血が流れ、口から血が垂れる。


「魔女は、魔女として、魔界に還れ。聖波」


おそらく、彼の言葉からメリーズ語への翻訳の際の最適解がそれであったのだろう。『ひじりは』とても特徴的な技の名前だ。それにおかしくて、くすくすと笑っているうちに、ルーメナは、ばたりと倒れた。

そうだ、笑っている場合ではなかった。彼女の言いぶりからするとここに俺達を呼んだのは彼女であるはずなのだ。となれば、彼女が死んでしまえば、この世界に永遠にい続けることになる。

それは良くない、それにこの国的にもだ、このバカタレと凡人の俺にはこの国を統治するだけの脳はない。

つまりは、死んでもらっちゃ困るのだ、全面的に。


「いきなり、乙女に攻撃するのはどうかと思いますよ?」


どこからか、そんな声が聞こえる。

そうすると、今まで俺達が話していたルーメナの体が、砂と化してサラサラと消えていく、正確には砂ではないのだが、そう例えるのが的確であったためだ。

それに、乙女と言える年齢なのか、正直に気になった。彼女は、エルフであり、名前がわかるまではエルフ少女と言っていたが、エルフは長寿族である。外見に年齢が伴っているわけがない。百や千年は生きていることであろう。

脱線した、そう。どこからか声が聞こえたのである。方向なんかが分かればいいのだが、全方向から聞こえ、全方向から聞こえない、そんな不思議な感覚であればそれもしょうがないことなのかもしれない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


そう聞こえた途端だ。男は、はい。と返事をし、剣を放り投げた。ガシャンという音と共に、レイピアが光と化して消えていく。

おかしな光景を見た。鶴の一声。そんな表現こそが正しいかのように、彼女は、男を一瞬で黙らせた。正確には、大勢ではなかったのだが。

それと同時に、書斎の持つ唯一の扉から、ルーメナは戻ってきた。


「予測して、先に準備をしておく。これこそが私が魔女と呼ばれる所以、ただ人以上に賢いだけです。魔女と呼ばれるに値しませんので、()()()()()()()()()()()()?」


その、声に男はひとつ返事ではいと答える。彼は既に先程まで敵意を出していたという気とは一切分からないくらいに、穏やかさで満ちていた。それはもう、風ひとつない草原のようである。


「名前が無いのは、不便ですね。と言うよりも、もとより私がつけるという約束なのですが…。

今日からあなたがカラード一世で、あなたがグリーダ二世です。()()()()()()()?」


俺と男に拒否権などなく、ただ、はいと言わされた。今日からおれがカラード一世で、隣の男はグリーダ二世である。母親につけてもらったはずの名前を奪われ、こうして、ルーメナに名前を付けてもらっている。これこそが、俺達が傀儡である事を認識させているかのようだ。否、そうなのであろう。だが、彼女の顔からは地母神か何かのように慈愛に満ちていた。そう、今日から俺達は王様(にんぎょう)であり、彼女は、傀儡師(しはいしゃ)なのである。


「――さあ。これから3人で頑張っていきましょう!」



ルーメナは笑った。




―王は君臨すれども、統治せず。

かつて、ジョージ一世が発した言葉だ。その状況が、ジョージ一世の時よりも、鮮明にかつ、隠密に行われる。

そして、彼女の智恵は、まるでいくつもの世界を見てきたかのような、正確さであり、その智恵をもってこの国に20年ほどの年月で平和をもたらすのである。


そうこれは、名をなくした男の一生のうちに世界を統治にし平和にする、エルフ少女の物語である。

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