時を操る能力、物理法則の影響を受けたらとんでもないことになった
僕は最強のメモを手にしていた。
底にはこう書かれている。
『時を操る能力』
これは不幸な事故で転生を果たした、僕に対する神様の特典だ。あまりにありきたりな展開だが、そんなことはどうでもいい。この能力があれば確実に無双出来る!
「神様、この能力を使用すると、魔力を消費したりとか、寿命が削られるとかあるんですか?」
「キッパリ言っておこう。能力の使用自体にデメリットは無い。ただし、超えられる物理法則は時間に関するものだけじゃ。それ以外はモロに影響を受けるから気をつけるのじゃぞ。」
「自分を加速させて岩に激突したら死ぬとかですか?」
「まあ、そんなところじゃ。しばらくの間はアドバイスしてやるから、何かあったら心の中で語りかけるが良い。それと能力の使用中に集中を切らすと、状態が解除されるからの。」
「分かりました。では、行ってきます。」
「うむ」
こうして僕は異世界へと降り立った。最強の能力をひっさげて。
「だだっ広い大平原だ。遠くに見えるのは町かな?とりあえずはあそこを目指すとして、ちょっと能力を確認しておこう。いくら使ってもデメリットは無いらしいし」
試しに自分の時間を2倍に引き上げるよう念じてみる。
「うひゃぁぁぁぁぁ。」
一瞬で集中を解いてしまった。
「?????え?何これ?え?痛い…サムいぃぃぃ」
一瞬ではあったが、体中を凄まじい冷気が襲ったのだ。体中が凍り付いている。逆に周囲の草や土は焼け焦げたような状態になっている。僕は死にそうになりながら神様に語りかけた。
「神様、神様、デメリットは無いんじゃ?」
「うむ、能力の使用にデメリットは無い。今のは単純に物理法則の影響を受けただけじゃ。」
「え?」
「エネルギーというのは、多いところから少ないところに流れるのが確たる法則。時間を2倍に引き上げることによって、極端なエネルギー差が生じた結果じゃ。いまそこの気温が24度、おぬしの体温が36度、これを絶対温度に直すと、気温が273.15+24=297.15ケルビン、体温が273.15+36=309.15ケルビンじゃ。 これを2倍に引き上げたので、体温は618.3ケルビン。温度差は618.3-297.15=321.15度。よく生きておった。」
「え?え?アブ、アブ、危なすぎる、何それ?」
「よく考えるのじゃ。特定の場所だけ時間の流れを変えるという無茶をしている以上、物理的な影響も無茶なものになるのじゃ。」
「そんな…。加速は危なくて使えない。じゃあ世界の時間を止めたらどうなるんですか?」
「周囲のエネルギーは0じゃ。おぬしはチリも残らず霧散するじゃろう。世界に溶けるのじゃ。」
「うひぃぃぃ。」
「じゃあ、特定の人や物だけ時間を止めたら?」
「ブラックホールが出来る。」
「え?ブラックホール?なんで?」
「さっきの言ったとおり、エネルギーは大きいところから小さいところへ流れる。質量が変わらないのに、いきなり物質のエネルギーが0になったらどうなるか、想像はつくじゃろう?」
「うわぁぁ、周囲のエネルギーが流れ込む。」
「そうじゃ。当然それに巻き込まれたら死ぬぞ?」
「あの…どう使えば良いんですか、この能力?」
「それはお主が考える事じゃ。昔、アイン…なんといったかの、まあその者にこの能力を授けた時は、見事に使いこなしておった。能力を日々実験に使い、世界の真理にたどり着いておったの。さあ、お主も頑張るのじゃ」
無敵の能力だとそう思っていた操る能力。しかし無敵どころか自分の身を危うくする最悪の能力だということを、僕は嫌と言うほど心に刻むことになる。